第十話 偽列車編①
皆の前に鞍馬天狗が四人の男女を連れてつむじ風と共に現れる。
「皆、深夜の呼び出しに対し迅速の対応感謝する。が事態は急を要する。先程降魔確率がゼロから八十%に急上昇した。既にベテラン剣術士が出払って対応しているがどうしても手が回らない所がある。そこで、国の要請で新人の君達には申し訳ないが急遽、野外に出て魔物を討伐してもらう事になった。実践不足ですまないが今は人手が欲しい。そこで今から三人で一チームを組んでもらうのだがその前に紹介する。十二支隊隊長が一人、子之神、白髪部夏希隊長である」
「ども!白髪部夏希です。十七才、段位は九段です。今日はみんなのサポートをする為に来ました。よろしくね!」
白髪部夏希は忍海百八に手を振った。
「えっ?隊長だったの?」
「言って無かったっけ?ゴメン!」
白髪部夏希はウインクして謝った。
「いや、いいけど‥」
あ~もう、いちいち、可愛いな!やっぱり好きだ!
「ゴホン!同じく、丑之神吉備ノ虚空隊長である」
その男は静かにたたずんでいる、動作に無駄が無くまるで気配が無い。目付きは鋭く相手を射抜く眼力がある。一見無口そうに見える。
「吉備ノ虚空です。二十一才段位は八段‥よ、よろしく。趣味は掃除。特技は料理の隊長です。皆、仲良くしてくれ!俺、意外と優しいからね?ほら!」
精一杯の作り笑いをするが返って怖い事に本人は気付かない。
「空っち怖いから!皆引いてるって!‥んで次ウチの番。巳之神隊長、大山寺キララよろしく!歳は十七で九段やってま~す」
髪は金髪のツインテール、肌は小麦色に焼けているいわゆるギャルである。
「では次、十二支隊隊長が一人、卯之神宇陀道臣隊長である」
「うっす。よろしく。宇陀道臣だ!二十五才で八段だ。皆気合入れて行こう!」
茶髪で体中に傷がある。屈託なく笑う笑顔が印象的だった。
「以上、皆、今からチームを作り各隊長にサポートに入ってもらう。では最後に一つ。無謀と勇気をはき違えるな。身を引く事も戦術の一つと知れ!」
「はい!」
鞍馬天狗はあらかじめ決めていたチームに皆を分ける。
白髪部夏希チーム
・忍海百八
・紀之兎出水
・宇賀神美月
吉備ノ虚空チーム
・赤鶏武
・羽太御天
・吾田千千土
大山寺キララチーム
・剣池綾乃
・諸隅八雲
・塩土事勝
宇陀道臣チーム
・足住清比古
・飯入活目
・道長船渡
以上に決まった。
「では白髪部チームは偽列車の討伐を担当してもらう。吉備ノチームは朧車を担当。大山寺チームは大蜘蛛を。宇陀チームは大百足を担当してもらう。今回の討伐対象は魔物Lv1ではあるが努努侮るなかれ。Lv1と侮って命を落とした輩を何人も見た。それから、この刀を皆に渡す。受け取れ!」
鞍馬天狗は妖術で皆の目の前にそれぞれ刀を顕現させる。
「きゃ!刀!本物?凄い!」
羽太御天がずっしりと重い刀を受け取り興奮して飛び跳ねる。
「これ、もらっていいんですか?」
「やらないっての!」
大山寺キララがすかさず突っ込む!
「え~残念!ごめんね。ココロちゃん!すぐお別れだね?クスン‥」
「オイ!勝手に名前付けるな!あんた等に渡した刀は神刀に劣るとは言え、神の分魂が宿った結構な業物なの!」
「その通りである。その刀は神の分魂が宿った刀である。‥しかしだ、神そのものではないので神力が薄い。その刀で倒せる敵はせいぜい魔物相手くらいだ。魔人以上の敵には通用しないと知れ!」
「‥うす!じゃあ、早く行きましょう!白髪部隊長!」
忍海百八は真っ直ぐに白髪部夏希を見る。
「隊長って言われるの苦手かな。出来れば皆夏希って呼んで欲しいけどいい?」
「夏希っち~アンタね?それだから部下になめられちゃうんだよ!」
「だって、ほとんど同い年だし。私隊長って柄じゃないしね?」
「それ、嫌味っすか?」
「そんなんじゃないよ!キララちゃん!」
「どうだか!」
「まあまあ、その件は今は置いてこうぜ!」
「そうだ‥よ!喧嘩はよくない‥みんな仲良く」
吉備ノ虚空と宇陀道臣が仲裁に入る。
「別に喧嘩じゃねえし‥夏希っちがあまいだけだし」
「ごめんね。キララちゃん」
「もういいよ、アタイもゴメンだし。なんか言い過ぎた‥かも?」
鞍馬天狗は頭を左右に振る。
「全く、どいつもこいつも‥。では改めて討伐開始である。始め!」
皆、それぞれの隊長に集まる。忍海百八、紀之兎出水、宇賀神美月も白髪部夏希の元に集まる。
「で、どうする?夏希!」
「百八‥あんた、遠慮無いわね?まあ、私もその方が楽でいいけど。ねえ夏希でいいんでしょ?」
宇賀神美月は刀を肩に乗せて聞く。
「私もいい?夏希ちゃん!」
手を上げて紀之兎出水も聞く。
「勿論。助かる!よろしく。百八、出水、美月」
よっしゃー!一気に距離が縮まった!
忍海百八は心の中でガッツポーズした。
「とりあえず、車で移動しながら説明するね!こっち来て!」
白髪部夏希が向かう方向にワゴンが四台並んでいる。そのうちの一台に手を振る。
「吉田さーん!行くよー!」
吉田は腕時計を見てエンジンをかける。
「さあ、皆乗って」
白髪部夏希チームは車に乗って出発した。吉田はバックミラーでチラッと忍海百八を見て視線を前に戻す。
「で、今から新宿駅に向かいま~す。それと皆にこれを上げます。必ず付けてね!じゃないと警察に捕まっちゃうから!」
それぞれに少名館の腕章と少名館仮身分証明書を配る。そして、全く緊張感が無い喋りで依頼内容を伝える白髪部夏希。
「実は今、山手線に偽列車が徘徊してるの!ホント深夜でよかったよ。昼間だったらダイヤは乱れて交通機関は大混乱だったよ。でも安心できない状況ではあるの!」
「始発があるから?」
宇賀神美月が鋭く突っ込む。
「そう、国からの依頼は始発までに偽列車を討伐する事」
「始発の時間は?」
「大崎駅発四時二十八分が一番早いの」
「え~と、ということは?」
紀之兎出水はわざとらしく首をかしげる。
「ここから新宿駅に着くのが十分後。なので二時くらいになるかな?と・い・う・こ・と・は?あと二時間半で偽列車を倒さなくちゃね!OK?」
「はは‥OKOK~」
自身無く笑う紀之兎出水。
「全然OK!」
絶対、夏希を振り向かせる!
忍海百八は白髪部夏希に親指を立てる。
「私も問題無い!私早く強くなりたいの!」
宇賀神美月は小声で「お母さん無事でいて‥」とつぶやき刀を強く握り締める。
忍海百八は宇賀神美月の顔色が青い事を気づいた。
「大丈夫か?美月?」
「別に何でもない!」
「でも、顔色悪いぞ?」
「大丈夫って言ってるでしょ!ほっといて!」
「お、おう?」
「ねえ、忍海君?」
紀之兎出水はモジモジしている。
「忍海君のお父さんって、あの忍海豊城隊長なんでしょ?」
「まあな?元だけど」
「会わせて欲しいの!お願い!ファンなの!ていうか実は助けてもらった生徒ってその豊城隊長なの!お願い。一言お礼が言いたいの!」
「まあ、会うだけなら‥口数少ないけどいいの?」
「いい!ありがとう!」
「じゃあ、私もいいかな?同じ隊長として一度手合わせしてみたいし」
「夏希も?‥まあいいか。これ終わったらオヤジに聞いてみるよ」
「サンキュー!」
「皆さん、談笑は終わりです。着きました!」
吉田は時計を見て冷たく言う。
「現時刻、二時三分です。私はここで待機してます。お気を付けて」
「ありがとう。吉田さん!さあ、降りて皆!」
一同、車から降りて新宿駅を見上げる。
「さあ、どうやって列車を止める、皆?」
「駅で待ってれば止まるんじゃね?」
忍海百八の提案で山手線ホームで一同待ってみた。
暫くすると、線路の奥から光が見えてきた。どんどん近づいてくると煙が上がっているのが見える。ガタゴトと音を立てながら汽笛が鳴る。