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メイド・イン・アナザーワールド  作者: ヨルノツキ
第一章 学園入学編
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第一章6: 快適じゃない空の旅

昨日は更新できなくて申し訳ございませんでした。

 降って湧いた幸運に舞い上がっていた俺だが、今現在、実際に空へと舞い上がっている。

どうやらシャウラさんが指を打ち鳴らして、魔法で一瞬のうちに俺を木々の遥か上へと運んだようだ。

そんな視界に広がるのは森、森、そして森。

 彼女が居てくれたから良いものの、もしここを徒歩で突破しなければいけなかった場合どうなったことやら。しかも、あの危険な魔獣とやらの生息地と来た。

骨も残せずにこの世界とお別れしていた説が濃厚である。


「というか、けっこう高いな……」


 改めて自分が空中に立っていると自覚すると浮かれていた心が恐怖でほんの少し冷静になった。

別に俺は高所恐怖症という訳ではない、むしろ絶叫系の乗り物は比較的好きな部類の人間だ。

だが、命綱が付いている状態ならともかく、この身一つで空中に浮いている状態は流石に不安感が募る。普通人間というのは自力では飛べないのだ。

まぁ、ここは異世界なんだけどね。染み付いた常識は早々消えてくれないのである。


〈魔法の習得は余程の事が無い限りご主人様にも適性があります。〉


「――選ばれしものにしか使えないとかじゃないんですか?」


〈使う事自体は誰でも出来ます。ですがその技量については本人の資質次第です。〉


問題となるのは資質の方だが、そこら辺はいざ使ってみたときに喜ぶか嘆くかしよう。

そんな嬉しい情報をライラさんから届けて貰うと、その魔法を常人よりも使いこなしているであろうシャウラさんが俺の隣に上昇してきた。


「どうしたんだ、独り言を呟いて。高いところは苦手だったか?」


「あー、いや……むしろテンション上がってしまって」


 そうだ、ライラさんとの会話はあくまで俺の脳内で起こっていることだった。

やはり、早急にこの不思議な感覚に慣れないと変人扱いされかねないな。

俺はメイドが大好きなだけあって変人の類ではない……筈だ。


「高いところは得意だったか……残念だ」


「えっ?」


 実際、結構恐怖を感じているけど、シャウラさんとの会話を誤魔化す為に俺がそう答えたのだが。

今、残念って言ったかこの人。

やはり、上に立つ人っぽくてメイド服を着せるイメージが思い浮かばないというか、頑張って着せてもご主人様を調教しちゃうあっちのメイドさんのイメージが出てくるというか。

あまり俺のメイドレーダーには反応してくれない。


「本来は転移魔法を使っても良かったのだが、そんな簡単に使える代物ではないのでね……それに高さでの恐怖なんてすぐに忘れてしまうだろう」


 俺の言葉を華麗に無視して言葉を続けるシャウラさん。しかも最後に不穏な事を言ってるんですが。

そんなそこはかとない不安を感じていると、突如として俺たちの頭上に黒い影が覆い被さった。

反射的に俺が視線を上に向けると――


「……そりゃあ、狼いるんだから鷲もいるわな」


 鷲と表現したのはそれが一番近いような姿をしていたからだ。

鷲は四輪自動車ほどの大きさじゃないし、嘴があんなに尖ってはいない筈だ。羽ばたいた風がこちらの髪を揺らすほどの圧力なんて馬鹿げでいるだろう。

もし仮にあの質量と鋭さで突っ込んで来られたら、人間はもちろん岩くらい簡単にぶち抜けるのではないだろうか?


〈あの魔獣の個体名はリヨールです。空中からその鋭い嘴をもって強襲し、獲物を刈り取るという特徴があります〉


 ライラさんの冷静な解説が俺の予想を肯定してくれるが、それで安心できる筈もない。

そして、そのリヨールとやらは空中に浮かぶ俺たちを視界に収めると、翼をたわめて説明通り一直線に飛び込んできた。

まるでミサイルのようなその大質量の突撃を止められる筈もない。

まぁ、あくまで俺はだが。


次の瞬間――その鷲は全身を火で包まれ見事な焼き鳥になっていた。


「ですよねー」


 シャウラさんがまた、一瞬で魔法を行使したのだろう。

さっきあんな光景見せられたら、この結末になるなんて小学生でも分かる。少なくとも魔獣で俺が命の危険に陥ることは無い筈だ。

だが、油断していた俺を咎めるように真の恐怖が始まった。


「ここからは大声をいくら上げても構わない。むしろ大きいのを期待しているよ」


「はい?――おおおおぉぉ!?」


 俺がシャウラさんの言葉に首を傾げていると――体に突如強烈なGが襲い掛かった。

まるで最高加速状態のジェットコースターにいきなり乗せられたかのような感覚。

しかも、乗り物も安全バーも存在するジェットコースターとは違い、今の俺は全身でその加速を受け止めている。

そんな人類が未体験の感覚に恐怖を感じない訳がない。


「いや、すまない。この大森林の魔獣でも私の手にかかれば塵も一つ残さずに殲滅できるが、一瞬のうちにとは行かなくてね。ゆっくりと進んでいたら日が暮れてしまうだろうから、少し時間を短縮させて貰うよ」


 慌てふためく俺とは対照的にシャウラさんはこの速度の中を涼しい顔をして説明してくれるが、俺に文句どころか返事をする余裕などない。

というか、口では謝っておきながら俺の反応見てニコニコしてるんですが。

俺は虐められて喜ぶような性癖は持ってないんだが……メイドさんという属性を持ってたらその……アリだけど。

しかも、ただ速いだけが俺を叫ばせる原因ではない。


「ふむ、流石に真正面から出てこられては対処しなければならないか」


 さっき俺たちを襲ったリヨールの一部が、性懲りもなく真正面からこちらに突撃してきていた。

勿論、それを彼女が許すはずが無く衝突する前にその体は灰と消えていくのだが、止まっていた時ならともかく、今は俺たちも物凄い速さで空を飛んでいる状態だ。

例えぶつかることは無いと頭では分かっていても、激突した時の衝撃が脳裏に過って思わず身が竦んでしまうのだ。


「安心してくれ、この速度ならほんの少しの辛抱だ」


「なら、速度上げなくても大丈夫ですっ!」


 そんな俺の姿にさらに機嫌良くしたのかさらに深めると、ほんの少しだけ速度が上げるという鬼畜の所業を断行。

俺の悲鳴は静かな森の中にさらに大きく響き渡ったのだった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


〈ご主人様、そろそろアーリーの大森林を抜ける筈です〉


 最初の数分以降からあまり記憶が無いので何分経ったか分からないが、もう悲鳴を上げる気力も萎え、すっかり虚ろな眼差しでいつまでも変わらない森を眺めていた俺にそんな声が響いた。

それと同時に突如として緩やかになる速度。

 ジェットコースターって緩急があるから楽しいんだなぁ……ずっと最高速など体に毒でしかない。

それに、もう落ちかけの状態とは言え意識がまだあるのは純粋に褒めて欲しいところだ。

そして、ライラさんの言葉を裏付けるようにシャウラさんが声を掛けてくる。


「少年?もうすぐ到着だが意識はあるか?」


「……なんとか」


「ほう、てっきり気絶していたものかと思っていたがこれは意外だな。これはいたぶりがいが……鍛えがいがあるな」


 ああ、褒められるどころか、いやな認識を与えてしまったようだ。既に本音が出てるから言い直しても意味ないと思うんだよねその言い方。

好感度の上げ方を間違い後悔していると、森一色だった視界が途切れ広い平原が俺の眼に映りこんできた。


「意識があるならちょうど良い。ほら、あそこに見えるのがソレシア王国の首都ソレシアだ。私達の目的地メイヘムがある場所だな」


 彼女が指を指す方向に目を向けるとそこには自然豊かな草原とは場違いな、大きな建造物が遠目に確認できた。

ビルやマンションの風景に慣れ切っている都会育ちの俺には、周りの広い草原と相まって異世界らしさを際立ててくれる光景である。


〈先ほどは状況が急いていたので出来なかったアーリーの大森林と共に解説します。ソレシア王国。南に少数の希少部族と強力な魔物を抱くアーリーの大森林を置き、北には海、両側には多くの国々と隣接する大陸きっての大国です〉


シャウラさんのその発言に猛烈な勢いで補足してくれるライラさん。

自分自身の役目を果たしているからか心なしか嬉しそうな雰囲気を感じる。


〈王族、貴族制度が根強い力を発揮しており、これからご主人様の向かう先であるメイド、執事を養成するメイヘムもそういった貴族の存在が大きいからこそ設立された背景があります〉


王族に貴族か。

メイドが今の日本のように文化の一種として形骸化して存在するのではなく、本来の従者として扱われているならば上に立つ人間は当然居るだろう。

しかし、あまり良い印象を持つことは出来ないのは創作のメイドさんと良くセットで出てくる悪徳貴族のイメージが染み付いてしまっているからかもしれない。

いや、でもイメージで決めつけるのは失礼だし。

俺が貴族ついて日本の文化に染まってしまったゆえの葛藤をしていると。


「とりあえず、このまま学園についたら諸々の説明と入学の手続きを――」


「さ、流石に今は……」


 俺がグロッキー状態で空中に運ばれているのを目の当たりして、そんな事を言わないで欲しい。

今も結構気持ち悪いんでこれ以上酷使されたらいよいよ、撒き散らしてしまいそうだ。


「冗談だ。どちらにせよ今日は屋敷に居てもらう予定だったからな」


 そんな事を冗談でも言って欲しくはないが、今日の所は見逃してくれそうだ。


「私はメイヘムに向かうことになるだろうから屋敷に居るメイドに世話になると良い」


「―――メイド、居るんですか?」


 その一言に、気力を振り絞って素早く反応する。

つまり、本場メイドさんのお世話を受けれるのか?そんな幸せがあっていいの?


「ああ、私もそれなりの立場の人間だからな。従者の一人くらい居ないと格好がつかなくてね……まぁ、本当に一人しか居ないが」


「……ありがとうございます……ありがとうございます……」


「……先ほどから思っていたが、少年は本当にメイドが好きなのだな」


 俺が神様に御祈りするおばちゃんのようにシャウラさんへと感謝を告げると、少し呆れたような視線を向けて来た。

いや、そんなシャウラさんも大概だと思うのだが……。

これではさっきの殺人ジェットコースターも恨めなくなってしまうだろう。

現金な奴とは言っていけないお約束だ。


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