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メイド・イン・アナザーワールド  作者: ヨルノツキ
第一章 学園入学編
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第一章1: おはよう~謎の声を添えて~

 重く閉じた瞼に強い光を受けて意識が急速に覚醒していく。

どうやら、もう朝になっていたらしい。

学園祭などのイベントだとメイド要素が絡んで楽しいが、古典や数学にはそんな要素が一ミリもないので正直勉強は嫌いだ。

世界史ならば貴族社会のヨーロッパ関連で少し登場するので天に感謝しながら勉学に取り組ませてもらうのだが。


「こう、正当な理由でサボれたりしないかなぁ……例えば、そう、いきなり通り魔に刺されて病院行きとか――」


 そこでさっきまでの光景が頭の中を駆け巡った。

俺はメイド喫茶帰りに変態クソ野郎に襲われているカホちゃんを庇った時に胸を一突きで刺された。

しかも、あの傷では絶対に助からない筈だ。

 先ほどまでの眠気はすっかり消え去りすぐさま視界を開いて胸元を確認するが、そこには見慣れたブレザーの上着があるだけでナイフどころかその傷の痕跡一つ残っていない。

そういえば意識が落ちる前に感じていた激痛もすっかり消えている。

昨日の出来事がまるで夢であったかのような完全健康体だ。


――というか夢では?とんだ悪夢だけど俺が無傷でここに居るし、シチュエーションもメイドを庇って死んだ高校生となんか物語チックだしな。


 あの時は咄嗟の出来事なので仕方なかったが、俺は特に自殺願望などを持っている訳ではない。

それを確認して胸をなで下ろしていると、そこで違和感に気づく。

尻の下の感触がいつもの少し硬いベッドではない。

まるで草花の生えた地面のような――


「……えっと、何処だここ?」


 そこで初めて自分の寝ていた場所が慣れ親しんだメイドいっぱいの自室ではないと気付いた。

現在は冬真っ只中の筈なのに春のように温かく、快晴に輝く太陽を除けば右を向いても左を向いてもそこには木しか映らない。

 この光景を一言で言い表すなら深い森の中だ。

真っ先にまだ自分が夢から覚めていないという考えに思い当たったが、それにしても体に当たる柔らかい風も草木の匂いも妙にリアルだ。

感覚ではあるがとてもこれが夢の中の出来事とは思えない。

誘拐と考えたが周りを見ても強面の人間どころか動物の姿すら見当たらないし、一時的にどこかへ行っているにしても俺を拘束していないのはおかしい。


〈お目覚めですか、ご主人様〉


 どうせ森の中に放り出すならばメイドさんの一つでも付けてくれと心の中で愚痴っていたのだが、そんな俺を救うように天の声が掛かった。

いや、正確には天からの声ではなく――頭の奥に直接、声が響いたのだ。

その声に俺の全身に電流が走る。


「……なんで頭の中から声が聞こえるのとか、機械音声っぽい抑揚のない美声もまたイイとかは置いといて……ええと、その」


〈ライラとお呼びください〉


「じゃあライラさんっ!……今のご主人様をもう一回、いやもう二回っ!」


〈……ご主人様〉


 嗚呼……良いっ!

何故か最初よりもその冷淡さが増した気がするし、二回の方は華麗にスルーされたが、むしろ良いスパイスになって破壊力倍増しているから問題ない。

 今までお客様へ向けて、ゲームの主人公へ向けてのご主人様呼びは耳が溶け落ちる程聞いてきたが、真に自分に向けられるご主人様呼びにここまでの効果があるとは。


 結局実感しなければ分からないということか。勉強になるぜ。


そんな今までにないほどの幸福感を味わっていると、再びそのライラさんから声が響いた。


〈十分意識は覚醒していると認識しました。それではご主人様……〉


「あっ、ちょっと待ってください――ふう。いやっ、ただでさえいきなり森の中に連れてこられて混乱しているのに、頭の中に声まで響いてもう大混乱ですけど」


 「今言うのですか」というジト目な幻覚が見えた気がしたが気のせいだろう。

自分の欲望を叶えていざ冷静になってはみたが、森の中といい、聞こえる謎の声といい与えられる情報量が多すぎていよいよ頭がパンクしそうだ。

案外、VRのフルダイブ実験とかに突き合わされているというのが現実的なのかもしれない。


〈自分の口で説明させるようにと申し付けられているのでご辛抱ください〉


「はぁ?一体誰が……」


〈その案内をするのが私の役目です〉


 相変わらずどういった仕組みで喋っているのかは知らないが、話を聞く限りこの状況に陥らせた人物は他に居るらしい。

そしてライラさんはその人物へと俺を案内をしてくれるらしい。


「……その人はどこに?」


〈まずは、ご主人様の向かれている方向を直進です〉


「なんかカーナビ――いや歩いているから○ーグルマップ先生の方が近いか」


 頭の中は混迷を極めているが、特に打開策を用意できる訳ではない。

ここは大人しくこの声に従っておいた方が良いだろう。


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