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好きな人に何度も告白するのはおかしいですか?  作者: 桜城カズマ
√大塚愛華
3/5

第2話「あ、先輩。遅いです」

「失礼します」


いつも通り図書室には人は少なく、とても静かだった。


「あ、先輩。遅いです」


受付のカウンターへ行くと、既に女の子の先客がいた。

茶色が少し混じった黒髪。ボーイッシュに切られたショートカットは、彼女の纏う雰囲気にとてもよく似合っている。

何やら教材らしきプリントを広げており、名前の欄には『寺内綾香』と書かれている。


「すまん綾香。友達と話しててちょっと遅くなった」


俺は綾香の座っているカウンターの席の隣の椅子に座りながら答える。


「そんなこと言って、さぼろうとしてたんじゃないですか?」


綾香はそんな冗談を言いながらジト目で俺のことを見てくる。

「俺がさぼったことなんて、一度もないだろ・・・・・・。というか、俺とお前以外全員サボってるだろ」

だからこそ、こうして本来図書委員としての仕事がない日も来ているのだ。彼女はそんな俺に唯一付き合ってくれている。地味に結構助かっていたりするのは内緒。


「そうですね」


綾香は「冗談に決まってるじゃないですか」くすくす、と小さく笑う。


「あ、先輩、カウンターはするので先輩は仕事しなくていいですよ」


カウンターを変わろうとしたら綾香にそんなことを言われた。


「いいのか?今日は当番じゃないだろ。それにプリントだって」


「はい。けど先輩借りたい本が今日入るって、この間言ってたので借りられる前に借りてはどうかと。・・・・・・まあ利用する人からして先に借りられるなんてことはないと思いますが。それと、このプリントは明日提出のものなので大丈夫ですよ」


「そうか、確かに。じゃ、お言葉に甘えて。ありがとう。よろしく」


「い、いえ……あはは」


俺がお礼を言って席を立つ。綾香は少しうつむいて返事をする。

答え方が少し気になったものの、僕は椅子をたち、新書のコーナーへと向かう。


「いい後輩を持ったな、俺は」


向かいながらそんなことをつぶやく。本当に綾香はいい後輩だ。

綾香の言っていた通り、今日も今日とて利用所は10人に満たず、スッカスカで、きっと借りれるだろう。そう高を括っていたのだが、お目当ての本は見つからなかった。しかたがないので、目に入った気になった本を棚から取り出してからカウンターへ向かう。

しかしまさかすでに借りられているとは・・・・・・なかなか意外だった。


「うわっ」「きゃっ」


なんてことを考えていたら、不意に、誰かとぶつかった。どさどさどさっ!っと大きな音が静かな図書室に響いた。

ぶつかった相手の方を見ると、大量の本を持っていたらしく、かなりの本が散らばっていた。


「ごっ、ごめんなさい」


俺はぶつかった相手に頭を下げ謝る。


「いったた……」


「大丈夫ですか?」


ぶつかった相手に手をやる。きれいで長い黒髪だ。女子らしい。


「あ、ありがと……」


そう言って彼女は俺のやった手を取り立ち上がる。

彼女はパンパンとスカートをはたくと、僕の方を向いて言う。


「ぶつかってごめんねー」


「い、いえ……僕の方こそ……あっ」


「ん?どうしたの?」


そう言って彼女――いや、大塚先輩は顔を覗き込んでくる。


「いえ……大塚先輩……ですよね?」


「え?そうだけど……私君と会ったり話したりしたことあった?」


先輩はうーん、と考ええる素振りをしながら聞いてくる。

……やっぱり覚えてない、か……。


「いえ、ただ、有名人なので。……本拾いますね・・・・・・あっ」


「ん?どうかした?」


俺はしゃがんで本を回収して気が付いた。僕が借りようとしていた本が中にあったからだ。


「いえ、僕が借りたいなって思ってた本が中にあったのでちょっと気になっただけですよ」


「そうなの⁉ どれどれ?」


俺がそっけなく答えたのに対して、しゃがみ込んで本を拾いながら大塚は元気に聞いてきた。


「これです、この『好きな人が燃えた』ってやつですよ」


「おーこれかー! いい目をしてるね、キミ?」


「そうですか?」


「うんうん! あ、もしかして有川先生のファンだったり? だったら有川瞳先生の作品ってほかに何か読んでたりする?」


大塚先輩は目をらんらんと光らせ、興味津々といった様子で前かがみで聞いてくる。


「ああ、すみません、そういう訳じゃなくて・・・・・・ただ、タイトルとあらすじで興味を持ったってだけです・・・・・・」


少し申し訳なく思いながら俺は謝る。そして本を拾い終え、大塚先輩に手渡す。本は合計、10冊ほどあっただろうか。かなりの量を借りている。

先輩は「ありがとう」、と言いい受け取ってから、


「むぅー、残念だなぁ・・・・・・あっ!そうだ、おすすめのやつ教えてあげようか?」


なんて提案をしてきた。

正直言ってすごく助かる。最近ライトノベルばかりで一般文芸にも手を出そうと思っていたのだ。


「いえ、俺も悪かったですから……教えてくれるのであればぜひ」


言うと、先輩は先ほど以上に嬉しそうに顔を明るく輝かせて「そう? じゃあね――」と話を始める。

本当に本が好きなのだとはっきりと伝わってきて、そう悪い気はしない。


「ところで先輩、それ持ちましょうか?」


先輩の話を遮って申し訳ないとは思うが、さすがに10冊もの本を落とさないように持ちながら話すのは難しいものだろう。


「え?いいの?じゃあ、お願いしていいかな?」


「はい、いいですよ」


俺は先輩から本を預かる。やっぱりちょっと持ちづらい。というかこれ一人で持つより分けて持った方がいいのではとか思ったが、今更そんなこと言えるはずもなく。

いいところを見せられる、とプラスに考えて俺はカウンターで本を借りてから、それらを教室まで運んだ。


「それでね、おすすめの本なんだけど――」


本を運ぶ間、先輩は楽しそうにおすすめの本を教えてくれた。

それと、本を借りるとき、綾香がなんだか驚いたような、ムッとしていたような気がしたが、気にしないことにした。



☆ ☆ ☆ ☆



「さっきは、本当にすみませんでした」


「いいの、いいの。私も、よそ見しちゃってたから」


教室へ本を運ぶと、生徒たちから奇異の目で見られた。それも当然だろう、いきなり知らない後輩が大塚先輩と話しながら本を運んで来たら俺だってそうする。


「あら、愛華。どうしたの?その後輩」


大塚先輩と話していると、いつも朝一緒に登校しているところを見かける、大塚先輩に負けず劣らず美人な先輩が大塚先輩に話しかけた。


「麻友―。聞いて聞いて。この子にね、ぶつかっちゃって本を落としたんだけど、落とした本の中に気になってる本があるって言って、運んでもらいながらおすすめの本を教えてたの! 改めてありがとね! えっと・・・・・・こーはいくん」


「後輩君って……まさか名前聞いてないの?」


「うーん・・・・・・あははー」


呆れたように溜息を吐く友達に対して、笑って返すと、友達は苦笑いをして返した。


「……ごめんごめん。この子は瓜田麻友。私の親友。君は?」


「あ、えっと、俺・・・・・・じゃない、僕は夜桜優。2年1組です」


『俺』がいいのか『僕』がいいのかわからなくなって変な感じになってしまった。

一応先輩なのだし、『僕』のほうがいいのかもしれないが、まあ大塚先輩には初対面の時から『俺』だったし、麻友先輩も一人称に関して何も言ってこなかったのだしいいのだろう。


「優君……いい名前だね」


「そうね、私もそう思うわ」


「おっ、麻友も思う? だよねー。なんていうかいろんなことできそうでいい感じ!」

「あ、ありがとうございます」


名前を褒められたのなんて久しぶりで、つい照れながら答える。


「これからもよろしくね、優君!」


「は、はい」


先輩の笑顔に少しばかりドキッとしたが、先輩とちょっとだけお近づきに慣れてラッキー、程度に受け止めておこう。




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