獲物
最終電車のテールランプを見送りホームの先端に歩み寄る。
懐中電灯で先端部や反対側のホーム下を照らして人が落ちていないか確認。
それからホームの反対側の先端を目指す。
ベンチ周辺や階段下それに柱の影等で眠りこけている酔っ払い等がいないか懐中電灯で照らし、指を差して確認しながら歩む。
あ! いた。
階段下の自動販売機にもたれ掛かって若い女が寝ている。
起こして駅から出てもらうため歩み寄って酒臭い女に声をかけた。
「お嬢さん、起きてください」
「ウウン」
呻くだけで起きない。
私は周りを見渡し監視カメラの死角にいる事を確かめ、女の首筋に指を伸ばし生体エネルギーを吸い取る。
私は食料である生体エネルギーを得るために駅員をしているバンパイア。
映画の中のバンパイアは血を求めているが、あれは視覚による恐怖を観客に与える為に血を吸っているだけで、本物のバンパイアは血では無く生体エネルギーを吸い取っているのだ。
生体エネルギーをチョットだけ残し女に肩を貸して駅の外に誘導。
最終電車に乗るのを諦め始発電車を待つ人たちで賑わう繁華街の方へ女を押し出した。
女はマリオネットのようなギクシャクとした動作で繁華街の方へ去って行く。
ま、2~300メートル歩いた先で心筋梗塞を起こして死ぬんだけどな。
毎朝喧嘩で殴り殺されたり路上強盗に刺し殺されたりした死体が、3ツ4ツ見つかる繁華街。
そこに1ツ2ツ死体が増えても誰も気にしないさ。
私は駅舎のシャッターを下ろし、もう1~2体獲物にありつける事を期待しながらホームの見回りに戻った。