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鍛冶師と調教師 ときどき勇者と 【改稿中】  作者: 坂門
ドゥアルーカ
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「どこから話そうかしら、回りくどいのはお互いイヤよね。そんな間柄じゃないでしょう」


 弓なりの双眸が苦い微笑みを浮かべると、シルは口をきつく結んで真剣な表情を見せる。

 確かに回りくどいのは面倒だと、シルに続けるよう、キルロは目で合図を送った。


「私のパーティーは、本隊とは別に情報収集とかしているのだけど、どうもここ最近きな臭い話、いや事象かな? それが続いているのよ」

「きな臭い? って」


 ハルヲが、シルの言葉に真剣な眼差しを返す。本隊とは別に動いているということは、間違いなく裏仕事を請け負っているはずだ。裏で動いている人間が、きな臭いと言うなんてよっぽどのことと考えてしまう。

 そして、シルの言葉尻からは、正体を捉え切れていないということも読み取れた。


「勇者に抗う者が現れた。とでも言えばいいかしらね」

「「えっ?!」」


 キルロとハルヲは、同時に驚愕の表情を見せる。さすがのフェインも、衝撃的とも言える告白に、動きが止まってしまった。

 

 勇者に抗う? ってなんのメリットがあるんだ?


 キルロだけではなく、みんなの頭の中に疑問符が踊る。

 ハルヲも怪訝な表情をシルに向け、そのままの疑問をぶつけていった。


「それって勇者に反抗する者ってことよね? それに何の意味があるの?」

「だよな、しかも反抗って具体的に何するんだ?」


 キルロも、困惑の色を濃くしていく。

 シルは、その質問が分かっていたかのように、冷静な口調で答えていった。


「分かりやすい所で言うと精浄に使っている、【魔具(マジックアイテム)】が、荒らされたというか、盗まれたり無効化されていたりと、勇者の仕事を邪魔するヤツがいる。しかも、勇者と関係のあるパーティーが、襲われたなんて話もね⋯⋯」


 シルが上目でキルロを見つめた。その瞳は、暗に知っていると語っている。


「【魔具(マジックアイテム)】の無効化って、いったいどうやるんだ?」

「荒らしてポイって事はせずに、埋まっている【魔具(マジックアイテム)】をさらに深く埋めて、効果を限りなくゼロにするっていう手の混んだやり方をするのよ」

「なんだってまた⋯⋯」


 キルロは、理解できず言葉を失ってしまう。勇者の仕事である清浄を邪魔して、自分達の利になる者が存在するとは思えなかった。清浄を邪魔するということは、この世界を住めない環境に近づける、もっと言えば住めなくなってしまうかもしれないのだ。


「厄介なのは、深く埋まっているだけで、盗まれているわけではない。だから、パッと見でそのまま放置してしまうと、効果のない【魔具(マジックアイテム)】のできあがり。気がつけば黒素(アデルガイスト)が濃くなっていくというわけ」

「でも、それ出来るのって、関係者⋯⋯って、事じゃないの!?」

「さすがハル、話が早いわ」

「本気か?!」


 シルの話に、キルロとハルヲは絶句してしまう。


「勇者の仕事に関わっているヤツなんてたかが知れているだろ? すぐにバレそうだけどな」

「そうよね。荒らされた場所とか、盗まれた場所から割り出せそう」


 キルロとハルヲは揃って、困惑を見せる。

 シルは黙って首を横に振るだけだった。


「私も最初はそう思ったのよ。ただ調べれば、調べるほど一貫性がなくて、尻尾が見えないの。関わってないって言い切れるパーティーはウチとここ、【スミテマアルバ】だけよ、ま、私の知る限りって、注釈はつくけど」

「【ノクスニンファレギオ(夜の妖精)】の別パーティーはどうなの?」


 ハルヲは困惑と混乱の度合いを深めていく。

 ウチとシルの所だけって⋯⋯他は全て怪しいって事?!


「残念ながらシロと言い切れないわね、団長の性格から【ノクスニンファレギオ】自体はシロだと思うけど、全体となると、言い切れないわね。シロと言い切れない限りは、犯人のリストから外してはダメよ」


 自分のソシエタスすら疑って掛からなきゃならないとは……。

 あまりのシビアな状況に、キルロもハルヲも言葉を失ってしまう。


「あのー、なぜここはシロと分かって頂けたのでしょうか? です」


 おずおずと手を上げたフェインが、遠慮がちに声を上げた。

 

 言われてみれば確かにそうだ。


「私が参加したクエスト、アレね、私が発注したのよ」

「「「えええー!!!」」」


 三人一斉に声を上げた。


「なんでまた、そんな事を」

「反勇者のヤツらがどうも人を使って【吹き溜まり】の調査をしているという情報を得たの。それでエサ蒔いてみたのよ。発注の時は怪しいと正直思ったので、後を追うとハルヲンスイーバ・カラログースにマッシュ・クライカがパーティー組んでいるって! もし反勇者なら相当厄介ねって思ったけど、一緒にクエストこなしているうちにこの人達は違うって割と早いうちに判断出来たわ」


 タントの言っていた通りなかなかの曲者だが、嘘偽りは感じられない。信用に値する人だとキルロ達は、再認識した。


「少し疑って悪かったな。やっぱりアンタはいい奴だ」


 キルロがシルに笑顔を向けると、シルは少し頬を紅潮させる。


「あら、ヤダ! このタイミングで愛の告白?! 困るわ~」


 両手を頬にあて体をよじってシルが悶え始めると、ハルヲとカイナの顔がみるみる青くなる。


「何がどうするとそうなるんだ!」

「副団長! 冗談ですからお気を確かに!」


 キルロは即突っ込みをしている横で、フェインがハルヲを正気に戻す為に激しく体を揺する。

 ハルヲはハッと正気に戻るが、カイナは虚ろな目で空を見上げていた。

 

 ああ⋯⋯もう放っておこう。


「ウホン、馬車を襲われたのは私達で間違いないわよ、でもどこで聞いたの?」


 ハルヲは咳払いして、気持ちを落ち着かせると、シルに向き直す。シルは笑顔をたたえているが、どこか険呑な雰囲気を醸し出している。


「イスタバールの近く、しかも街道で襲撃があった。犯人、被害者共に不明、襲撃の痕跡が残っていただけ。そのタイミングで、イスタバールの勇者ご用達の宿に、ボロボロの馬車が到着した。その点と点を繋いで見たってとこかしら。だから、馬車が襲われたって、カマをかけてみたの。あなた達の馬車だって情報は持ってなかったわ。でもさすがハルねぇ、乗ってこなかった」

「それぞれ別の情報を線で繋いだのね」

「そんな複雑な話でもないでしょ」

「言われればね」


 シルとやり取りしながらハルヲも躊躇していた。

 スミテマアルバが標的になったって事?

 

「その時の様子を聞かせてもらえないかしら?」

「ああ、構わないよ。夜中街道を走っていたら、かなりの数の騎馬に囲まれた。ダミーのクエストを受注中で、運んでいるものはガラクタだとばかり思っていた。イスタバールに着いて開けてみたら【魔具(マジックアイテム)】だったけどな。賊の狙いもよく分からなかったし、目立つ行動は避けたかったんで、スルーしてそのままブレイヴコタンに向かったって感じかな」


 キルロの話を黙って真剣な表情でシルは聞いていた。少し考えあぐねている様にも見て取れる。

 ハルヲの目にも同じように写っていた。


「シル、どうしたの?」

 

 ハルヲが声を掛けると、“フゥ”と珍しくシルが天を仰いだ。


「予想と違ったわ。私達が追っているのはソシエタスか、それに属するパーティー。冒険者系のソシエタスが騎馬隊なんて使う?」

「使わないわね……」


 言われたハルヲもハッとした。

 討伐や採取に騎馬隊なんて使うパーティーは聞いた事がない、盗賊の類?


「じゃあさ、反勇者じゃなくて盗賊とか? いや盗賊が目立つ街道で襲うわけないか……」


 キルロもシルの言葉を受けて逡巡を見せるが、答えは見えてこない。


「そういやあ、タントが襲撃の件は洗うって言っていたよな。あいつなら、なんか知っているかもよ」

「マッシュもね」


 ハルヲがキルロの言葉に付け足す。 “えーっ”とキルロとフェインが、そろって驚いて見せた。


「そうなの?」

「そうなのですかです?」

「タントとコソコソ話していて、イスタバールに残ったんだから、そうとしか考えられないでしょう」

「考えられるよな……」

「考えました……」


 ハルヲは盛大な溜め息をつく。キルロとフェインはばつが悪そうに視線をそらした。


「フフフフ、その二人が動いているなら任せちゃうわ。また何かあったら話しにくるわ。あ! 何もなくても来るかも。とりあえずアナタ達も気をつけて。反勇者って存在があるって事だけでも頭に入れといて何かあれば教えてね。出来れば手取り足取りね」

「普通に教えるよ! シル、いつもありがとな」


 “カイナ行くわよ”とウインクをキルロ達に向けてシルは店を後にした。


「なかなか濃い話だったな」

「そうね」

「気分転換に皆で飯でも食いにいかね? フェインどうだ?」

「大丈夫です」

「あ! なんか買って行ってウチの店で食べない? ウチの子達に迷惑かけっぱなしだからお礼しないと」

「いいですね、そうしましょう」

「決まりだ」


 キルロは、ハルヲの肩を借り痛む足をゆっくりと運ぶ。

 キノがフェインに肩車してもらい、“キルロよりたかーい”と、はしゃぎながらゆっくりと歩を進めた。


「フェイン、さっき怒ってくれてありがとう。嬉しかったよ、ヒヤヒヤもしたけどな」

「そうね。頼もしかったわ」


 キルロとハルヲがフェインに笑顔を向けると、“いえいえ、すいません”と、フェインはいつものように恐縮しまくるだけだった。そして、夕陽が照らす四人の長い影が、中心街へと吸い込まれて行った。


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