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鍛冶師と調教師 ときどき勇者と 【改稿中】  作者: 坂門
イスタバール
33/263

勇者の村(ブレイヴコタン)

「はぁっ!? 賊に襲われた?! 街道で?!」


 タントはボロボロの【スミテマアルバレギオ】に怪訝な瞳を向け、呆れて見せた。


「はぁ~なんでおまえ等はこう次から次へと、妙な方向に転がって行くんだよ」


 首を左右に振りながらタントは長嘆する。


「そんなもん、こっちが聞きてえよ。何もねえ荷運びだって聞いて、襲われた身になってみろ。でも、なんか賊っぽくないヤツ等だったんだよな⋯⋯」


 キルロの言葉にタントは引っかかりを覚えると、鋭い視線をキルロに向けた。


「どういう事だ?」

「どうもこうも、順調に街道を走っていたら⋯⋯」


 キルロは、タントに事の顛末を話す。馬車で移動中に騎馬に襲撃を受けた事を事細かにタントに話した。

 タントはじっと目を閉じ黙って、キルロの話を黙って聞いている。キルロの話が終わると、タントは“うんうん”とひとり頷き、逡巡する姿を見せた。


「それで、荷物は大丈夫か?」

「荷物は大丈夫だが? あれってダミーの荷物だろ??」


 キルロが怪訝表情を見せると、タントは“確かめろ”と言わんばかりに黙って顎で荷物を差し示す。

 スーツケースをひと回りほど小さくした、軽い木箱をキルロが開けると、中から30Mc程の細身の棒がぎっしりと入っていた。

 黒っぽいだが、表面はキラキラと光りに反射して微かに光っている。皆が集まり、自分たちが運んだ物を各々手に取ると、その細身の棒を振ったり、軽く叩いてみたりしてその感触を確認する。


「こらぁなんだ?」


 マッシュが初めてみる奇妙な黒い棒を弄びながらタントに問い掛けた。既知の存在ではないものに、興味津々とばかりずっと手にしながら観察している。

 

 あ! これって⋯⋯。


 キルロが棒を見つめ何かに気がついた。


「このキラキラしているやつ、白精石(アルバナオスラピス)だろ?」


 キルロの言葉にみんな手にしている棒を見つめ直す。手にしながらもいまいち、キルロの言葉にピンと来てはいないようだった。


「そうなの?」


 ハルヲは、手にするその黒い棒を見つめ首を傾げる。


「素材として、いじったからな。間違いない」

「それじゃあ、これが精浄で使う魔具(マジックアイテム)ってヤツか?」


 マッシュは、キルロの言葉に黒い棒を覗き込む。


 ダミークエストじゃなかったのか? 


 マッシュは眉間に皺を寄せ、手にしている黒い棒を睨みながら今までの流れを精査していく。

 

 簡単なダミーのクエストではなく、本当に重要な荷運びだったって事か。でっかい馬車に防火の仕様まで施してあったのは、大切な荷物を守る為。

 敵を欺くなら味方からか⋯⋯しかし、ダミーではないとバレた。どこかからか漏れたって事か。


 マッシュは馬車の作りを思い出しながら、このクエストに何か裏があるなとばかりにタントを一瞥した。


「正解~」


 マッシュの睨みに、タントは緊張感のない声で答える。


「何が正解だ、情報はちゃんと渡せ」

「でも、おまえなら盗られる事はないって信じてたんだ。それでいいだろう」


 タントがわざとらしく肩をすくめて見せる。


「おいおいおい、盗られていたらどうすんだよ! これって相当大切な物なんだろう!」

「そうよ。こっちは、荷物を守る気なんてサラサラなかったんだから」


 熱くなるキルロとハルヲに、“まあまあ落ち着け”とばかりに、タントが手のひらを差し出す。


「ホントの賊だったらコレを手に入れた所で価値も分からない。ハズレを引いたと思って捨てちまう。ただそうじゃなかったら⋯⋯」

「なかったら⋯⋯」

「そらぁ、めんどうくさいよな」


 溜めた割には緊張感のない声でタントが言い放った。


「ま、使えるものはなんでも使えってね。ちょうど魔具(マジックアイテム)が、こっちで必要だったしな。賊のことはこっちで引き受けるから、おまえ達は予定通り【吹き溜まり】での探索、採取に行ってくれ。必要な物があったら言ってくれ、こっちで手配してやるから」


 そう言うとタントはフェインに地図を渡す、早速地図を広げフェインは読み始める。地図を読み始めるが、フェインの表情はみるみる険しくなっていった。


「すいませんです。これ随分と書き込みがされていないのですが?」

「未完成の地図だからな。おまえたちで、地図の完成度も上げてくれ」

「未開って事ですか⋯⋯わかりましたです」


 フェインは上機嫌で地図の写しを作り始める。探索時に書き込めるように縮小サイズの地図の作成に入った。

 

「ショートボウ、ロングボウ共に矢をお願いしたいわ。この間の襲撃でだいぶ使っちゃったから」

「それは大丈夫だろ、村に行けばある。準備させておこう」

 

 タントの返事にみんなが困惑の色を見せる。

 矢って普通の村にそんなにあるものなのか? 狩り用?


「村に行けばある? って?? 矢なんて、村に普通ないんじゃねえのか?」

「普通はな」

「???」


 表情ひとつ変えないタントの返事に、キルロは余計に混乱する。

 

 どういう事だ? 普通じゃないって事か? 普通じゃない村って何だ??


 困惑しているキルロに、タントは少しばかり面倒臭さそうに言葉を続けた。


「これからおまえ達が行く村は【ブレイヴコタン(勇者の村)】と言われる勇者や、勇者がらみのヤツらが拠点にする集落のひとつだ。住人も村人を装った中央(セントラル)の人間だから、もちろん、おまえ等の事も知っている。ひと通りの装備や整備、魔具(マジックアイテム)の補充なんか出来るから、好いように使って構わないぞ」

「本気か?!」


 キルロが規模の大きさに思わず感嘆の声を上げる。

 

 村ひとつを勇者のために存在させてしまうなんて。


「おまえ、ここだって高級コテージをうたっているが、勇者用に作ったものだぞ」

「はぁ~?!」


 勇者様凄過ぎだろ! 


 キルロの開いた口が塞がらない。

 しかし凄い所に脚を突っ込んでしまったと、心の隅がざわつくのも本心だ。

 

「ま、とりあえずは出発の準備をしとけよ」

「そうだな」


 タントに言われ、すぐに準備と確認に取り掛かる。

 やれることをやるだけだ。

 


「お、そうだ。マッシュ・クライカ~カモ~ン」


 タントが猫撫で声でマッシュを少し離れた隅っこへと手招きする。マッシュは俯き加減でタントの話を聞きながら、何度も中指で眼鏡を直していた。


□■□■

  

 イスタバールからさらに北西に進んだ所にある【ブレイヴコタン(勇者の村)】に向けて、早朝出発した。

 街では朝市が始まっていて、大通りには食欲をそそる香辛料のいい匂いが漂っている。朝ご飯食べたのだがせっかくなのでと、キルロが屋台でいい匂いを漂わせている、肉の辛味串を人数分買ってしまった。


「なんか、もうしばらくここで、ノンビリしたいよなぁ」

「そうですね」


 しみじみ言うキルロに、フェインが同意する。マッシュの言っていた通りクエスト抜きで訪れたい所だと、後ろ髪を引かれる思いで、活気溢れる街並みを見渡していた。


「落ち着いたら遊びでここにまた来てやる! んで、あのコテージにまた泊まってやる!」


 肉に嚙り付きながら、なぜかキルロが息巻いていた。

 街もコテージも気にいった、異国情緒溢れる都市に美味しい食べ物、全てが気にいった。


「あんた知ってるの? あそこ1泊8万ミルドよ、一番安くてね」

「ぇ? そんなにするのあそこ」

「そうよ、そんなにするのよ」


 ハルヲの一言に、キルロは現実に引き戻された。旅行の前に借金をなくそう。まずはそこからだと、キルロは異国の地で、なぜか心に固く誓った。


□■□■


 街道から逸れて林道を進む。街道と違って重なり合う木々が陽光を遮り、空気がひんやりとする。

 タントが賊の心配はしなくていいとは言っていたが、昨日の今日でパーティーにはなんとなく緊張感が漂っていた。

 ほどなく走ると集落が見えてきた。


 あれが【ブレイヴコタン(勇者の村)】か。


「ようこそ、【スミテマアルバレギオ】の皆様。私がここの代表をしているネスタと申します。皆様のご紹介は無用です。住民皆、存知しておりますので」

 

 日に焼けた顔を破顔させた壮年の犬人(シアンスロープ)が手を差し伸べた、ゴツゴツした節を持つ働く人の手だ。


「宜しく頼むよ、ネスタ」


 キルロが代表して握手を交わす。


「それでは早速、この村をざっくりとですがご紹介しましょう」


 ネスタの後を【スミテマアルバレギオ】の面々が付いて行く。

 ネスタは村を簡単に説明してくれた。歩き回ってみても普通の村と何にも変わらない、住人も普通に畑仕事をしており、その周りを子供達が走り回っているのが見える。


「普通の村だな」

「ハハ、ありがとうございます。お褒めの言葉として承りましょう」


 ネスタはキルロにウインクして見せた。

 ネスタの話だと住人は中央(セントラル)の兵士とその家族という事だ。通常は畑を耕し近隣のイスタバールまで売りに行ったりしながら静かに暮らし、いざという時は勇者や勇者直属パーティーの前線基地として機能するよう準備しているという。


「何だか大変な仕事をしているんだな」


 ポツリとキルロが言葉を漏らす。

 支える人達の底力みたいなものを、この村の住民から見た気がした。


「ありがとうございます。でもこの仕事を任せて貰えるのは、とても名誉な事なのです。信頼されているという証ですから」


 ネスタがそう言うとキルロに笑顔を向けた。

 キルロは、“そうか”とだけ答え笑顔を返す。


 信頼か。アルフェンが何かそんな事を言っていたよな。


 この村もこの世界を支える為に存在しているのだと、ネスタと話しながら、キルロはそんな事を感じていた。 


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