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鍛冶師と調教師 ときどき勇者と 【改稿中】  作者: 坂門
イスタバール
32/263

パーティーとエルフときどき猫

「【癒光(レフェクト)】」


 キルロが傷だらけのパーティーを癒やしていく。だれもが傷を負っており、さきほどの戦闘がいかにハードだったか容易に見て取れた。

 生きているのか、死んでいるのか、この暗がりでは判別出来ない道に転がるいくつもの影が散見出来る。横たわる人影を消えかけの松明(たいまつ)が、微かに照らしていた。

 キルロがクエスト前に新品同様まで磨き上げたパーティーの(アーマー)類は、傷だらけになってしまい、一瞬で歴戦のそれと同じほどの傷を見せる。ただ、その傷が皆を守った証に見え、少しだけキルロは誇らしく思えた。


「取り敢えず、ここから離れようぜ」


 キルロは皆の無事を確認すると顔を前へと向けていく。

 

 ここに留まることは危険だ。

 さっさと行こう。


「そうね、行きましょう」


 ハルヲが頷くと、マッシュが馬車の手綱を引いた。


「警戒を怠るなよ」


 キルロは集中を切らさぬよう声を掛けていく。倒れたフリをしているヤツがいるかも知れない、もしかしたら増援が襲ってくるかも知れない、何が起こるか分からない不気味さを、その暗闇は映し出す。

 細心の注意を払い警戒体制を取る。

 消えかけの松明のくすぶりが、辺りをぼんやりと照らす。

 照らすのは生きているのか、死んでいるのか、分からないの人の影や馬の影。

 横たわる人の影を避けるように、馬車はゆっくりと暗闇を進んでいった。


□■□■


「もう大丈夫だろう」


 安全を確認したマッシュは馬車のランプを灯す。その淡い灯が、パーティーに安堵を呼び込んだ。馬車は暗闇の中に溶け込み、心の安寧を取り戻していく。

 各々が疲弊し、口数は少ない。だが、車輪の軋む音が荷台に響き、緊張が解けていく。ランプの灯りと安堵の溜め息が、緊張も吐き出していった。


「皆、お疲れ様、ネインも凄かったな。めちゃくちゃ助かったよ」


 キルロがネインに笑顔を向けると、少し照れたように視線を外した。


「皆を守るのが私の仕事ですから、当然の事をしたまでです」

 

 照れているのが言葉の端々から感じられ微笑ましい。


「しかし、あの詠唱は凄いな! 初めて見たよ」

 

 キルロが感嘆の声を漏らすとネインの表情が曇る。ハルヲはその表情にいち早く気が付いた。


「そうね、私も初めて見たわ。でも、あまり触れて欲しくないって顔ね。良かったらどうしてか教えて貰えないかしら?」


 ハルヲが浮かない顔を見せるネインに、静かに尋ねた。

 あれだけの魔術の使い手(マジックユーザー)が、どうして前衛(ヴァンガード)にこだわるのか。ハルヲの中で疑問が生まれる。

 

 魔術師(マジシャン)としてなら、引く手あまたなはずなのに⋯⋯。


「それは⋯⋯」

 

 言い淀むネインに皆の視線が集まる。ネインはそにまま俯いて言葉を詰まらせた。

 気まずい沈黙。

 車輪の音がやたらとうるさく感じる。

 

「ん、まあ、いいじゃないか! しっかりと一人で後方守ってくれた訳だしさ。しっかり前衛(ヴァンガード)の仕事こなしてくれたじゃん。なぁ! そうだろう」


 気まずい雰囲気にキルロは膝を打ち、笑顔を向けた。


「ハハハ、確かにそうだな」

「ま、それもそうね」

「助かりましたです、ありがとうございました」

「キルロが弱かった!」


 キノの最後の一言が地味にダメージを受けたが、場の雰囲気を壊さぬようにキルロはスルーを決めた。

 空気が弛緩していく。皆の反応がネインの表情の硬さを少し溶かしていく。


「とりあえず休もう! マッシュ、代わるぞ」

「お言葉に甘えて少し休むか」


 走り通しのマッシュからキルロは手綱を受け取る。

 働き詰めの体が悲鳴をあげていた。後はゆっくりと進めるだけだ。問題はないと、白んで来た空を見つめた。

 空が明るくなるにつれ、パーティーの疲労はピークを迎え、だれもが静かな寝息をたて始め、そして朝を迎えていく。


□■□■


「見えてきたわよ、あれじゃない」


 キルロと代わり、手綱を引いているハルヲが声を掛けると、後ろで寝ていた面々が目をこすり、伸びをしていった。

 寝起きの体に鞭を入れ、頭をゆり起こしていく。


『おお』


 ミドラスとは全く違う真っ白な高い壁が街を覆っている。

 壁から頭を出している建造物は、青を基調にした色合いに統一され、屋根はどこも金色のドーム状になっている。

 この異国情緒溢れる光景にキルロを筆頭に皆が感嘆の声を上げ、見入っていた。


「おまえさん達は初めてか。観光だったら結構面白い所なんだけどな」


 マッシュが笑顔を向ける。いらぬ足止めを食らい、結構な時間をロスしてしまった。予定よりもだいぶ遅くれて到着すると、大通りを進む。白い布を巻きつけた民族衣装の人が多い。

 ミドラスとの違いにキルロ、フェインはキョロキョロしては“おぉ!”と、いちいち感嘆の声を上げていた。


「恥ずかしいから止めて、大人しくして」

「アハハハ」


 ハルヲは顔を赤らめながら完全おのぼりさん状態の二人を咎め、その様子をマッシュは笑って見ていた。

 行き交う人々を横目にしながら、ゆっくりと進んでいくと、金色の細かい装飾が施してある大きな門が見えてくる。


「あれだ」


 目的の宿泊地に到着すると、キルロとフェインはさらに感嘆の声を上げた。


「すげーな、おい! アレなんだ」

「なんですかね⋯⋯あれ見て下さいです! 見た事のない実がなっていますよ!」

「キャッ! キャッ!」


 貸切りのコテージは立派な中庭がつき、部屋は情緒あふれる個室があてがわれていた。味わった事の無い高級感は、余りの豪華さにキルロとフェイン、二人のテンションがおかしくなっていく。そして、キノもそれに便乗して騒ぎたてた。


「いい加減にしろ!」 

「ぐっ」


 ハルヲの手刀がキルロの脳天を貫く。

 その威力を目の当たりにしたフェインは、青ざめながら大人しくなった。


「「スイマセン」」


 キルロとフェインが、揃って頭を下げ、反省を見せると借りてきた猫のように大人しくなった。


「クククク⋯⋯相変わらず面白いな」


 マッシュは笑いを堪えられず腹を抱えていた。キルロは脳天をさすりながらマッシュを睨んだ。


「しかし、アレって賊だったのかな?」

「どうかな。ただ、きな臭いのは間違いない」


 豪華な夕飯に舌鼓を打っていると、話題は自然に昨日の襲撃の話になっていく。

 マッシュも腑に落ちない点が多々あるようだ、この話題になると表情は一気に険しくなる。昨日の襲撃は、いろいろと合点がいかないところが多すぎるのだ。


「街道にあの人数。しかも騎馬⋯⋯賊といえば人目のない林道、山道ってのが、お決まりでしょ? 夜中とはいえ、街道でしかもあんな大掛かりな襲撃⋯⋯なんか違和感があるわ」


 ハルヲも違和感があることに同意を示す。


「街道があれだけ荒れたのに、街では特に騒ぎになっていないのも違和感があるよな。まあ、まだ情報が届いてないだけかもしれないが⋯⋯」


 マッシュがハルヲの言葉に続いた。


 違和感だらけの襲撃か⋯⋯。


 キルロは昨夜の襲撃を思い出し、逡巡する。


「届け出た方がいいのかな?」

「普通だったらね。ただ今は目立った行動は控えた方がいいんじゃない?」


 ハルヲの返答にキルロは納得を見せる。

 ここまでわざわざダミークエストを組んで来ているのだ。もし賊ならば、きっと騒ぎになり、街の守衛(ガード)が動くはずだ。こちらが騒ぎ立て、根掘り葉掘り聞かれる方がいろいろと面倒かも知れない。わざわざ目立つ必要はないだろう。


「しかし、フェインの最後の回し蹴りは見事だったな」

「いえいえ、踵を補強して頂いたおかげです」


 キルロが誉めるとフェインは両手をブンブンと激しく振って見せ、照れに照れて見せた。

 キノがその様子を眺めニヤリとする。踵落としのあのシーンを思い出していた。


「フェインのおパ…%&%@!$」


 キルロがキノの口を急いで塞ぐ、フェインは頬を赤らめそっぽを向き、ハルヲがその様子に怪訝な表情を見せる。


 キノよ、今日イチで心臓に良くないぞ。


 キルロはハルヲにバレぬよう、キノを睨んだ。


□■□■


 翌朝、クエストは無事完了。ネインとはここでお別れとなった。ネインはミドラスに戻る商隊の馬車に便乗して、すぐに戻るという。


「少しくらい、ノンビリすればいいじゃん」

「ちょうど良い商隊があったので、私は戻ります」


 ネインはそう言って、にこやかに手を差しのべる。

 キルロも手を差し出し、しっかりと握手を交わした。


「オレ達はもうちょっとこちらでやる事あるので、戻ったら報酬を払うよ。それでいいかな?」

「もちろん」

「それともし良かったらウチに来ないか? ネインならみんな歓迎するよ」


 キルロが視線を向けると、ハルヲもマッシュもフェインも頷いて見せた。


「私は⋯⋯」

「即答じゃなくていいさ。それと魔術師(マジシャン)でもなく、前衛(ヴァンガード)でもなく、ネインカラオバ・ツヴァイユースとしてウチに来て欲しいんだ。(ジョブ)なんて、なんだっていいよ」


 キルロはいたずらっぽく笑って見せると、ハルヲやマッシュも微笑み、フェインは何度もお辞儀をして見せた。ネインから表情の硬さが消えていき、口元に笑みを浮かべる。


「またお店にお伺いします」

「うん。またな!」


 きっといい返事をくれるはずと、キルロは別れの挨拶でそう感じた。

 ネインを見送り宿に戻ると、束の間の休息を取っていく。

 

 そういや、今後の動きってどうすんだろう?


「おーい! いるかー!」


 聞き覚えのある声が、コテージに響き渡る。


「あれ? タント? どうした?」

「どうしたとはなんだ、仕事に決まってんだろう」


 タントはそう言ってパーティーを見渡すと首を傾げた。

 困惑した表情で口を開く。


「ていうか、何でおまえ達、荷運びだけで、そんなにボロボロなんだ?」


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