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鍛冶師と調教師 ときどき勇者と 【改稿中】  作者: 坂門
イスタバール
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鍛冶師の鍛冶業ときどき面接

 話すだけ話して、タントは、“じゃあね~”と軽やかに手を振り去って行ってしまった。

 

 とりあえずは装備の見直しをして、白精石(アルバナオスラピス)の取り付けか。

 取付ねぇ⋯⋯。


「これさあ、防具に付けろって言っていたけど、用は身につけておけばいいんだよな? 実際キノは鼻ピアスでしっかり効果あったわけだし、ピアスとかチョーカーとかのしても問題なさそうじゃね? あとクエイサー達、大型兎(ミドラスロップ)とか調教済動物(テイムモンスター)達も、どうするか考えなきゃな」

「オレはチョーカーでいいぞ」

「私もチョーカーで、すいませんです」


 マッシュが軽く手を上げると、フェインもそれに倣った。


「わかった、ハルヲはどうする?」

  

 マッシュとフェインは即答とは違い、ハルヲは軽く唸りながら、悩む姿を見せる。


「う~ん⋯⋯ウチの仔達の分も含めて、いったん保留でもいい?」

「そらぁ、構わないが⋯⋯わかった。決まったら教えてくれ」


 何か迷っているようだし、ハルヲに任せよう。

 

 全員の装備をレベルアップしたいので、そちらを優先的に進める事にする。フェインの装備が一番心許ない、先ずはフェインだな。


「そういや、フェイン。蹴りは使わないのか?」

「使いたいのですが、メタルブーツを持っていなくてですね、蹴りを使うと指先が折れちゃうので使えないんです、すいませんです」

「なんだよ、言ってくれよ、そんなもんいくらでも作るぞ。ベースにする靴と装備一式預けろ、悪いようにしないよ」

「ぉおおおー本当ですか! 嬉しいです!」


 キルロがニヤリと笑うと、フェインは目を爛々と輝かし、羨望の眼差しをキルロへ向けた。


□■□■


 陽が上り始めた。

 街が動き出す前にキノと二人、森の採掘ポイントを目指す。

 久々に森を歩く。これといったプレッシャーもなく歩くのは久々だった。重なる葉の隙間からこぼれる陽光を感じ始め、湿った土のにおいに包まれながら森の中を進む。

 途中ダイアウルフの群れに遭遇したが、亜種(エリート)と比べたら容易いものだと簡単に退けた。

 

 【吹き溜まり】のモンスターに比べるとなんともぬるいよな。知らず知らずの内に経験値が上がっているって事か?


 キノは今日も拾った小枝を振りながら、鼻歌まじりでご機嫌だった。


 こんな日があってもいいよな。

 いや、こんな日だけでいいのか。

 ただ、こんな日が続かないかもしれない危機が迫っているという事実。そして、それを知ってしまった。

 あれこれ考え過ぎず出来る事をするしかない。余計な心配をしても始まらない。

 

 キルロは、大きな伸びをひとつするとゴーグルを装着し採掘を始めた。


「キノー! 遠くいくなよ」

「あいあーい」


 木々の周りを走り回る、キノの元気な声が返ってきた。


□■□■


 フェインの装備の一新に取り掛かる。


「さてと⋯⋯」


 しかし、ボロボロだな。よくもまぁここまで使い込んだもんだ。


 キルロは年季の入ったメタルグローブは熱した炉に放り込み、鉄を溶かしていく。

 

 下地のグローブだけ残して作り直しだな、こりゃあ。

 グローブをはめたままマッピングもしやすいのが理想だよな。

 外側に拳を覆うカバーを作って、可動式にしたらどうだろ?

 握ると拳は鉄覆われに、カバーを外すと指が自由に動かせる。

 指とカバーの間に隙間が出来ると強度が落ちるよな、ダメか。

 指一本一本に鉄を取り付けるか⋯⋯ちと面倒だがそれでいこう、いい素材も手に入ったしな。

 硬度の高い鉱石を拳の頭に取り付け威力を上げるのはどうだ? 少量なら重さもそれほどきになんねえよな。

 メタルブーツは、全部鉄にすると重過ぎだ。探索で歩いたりするわけだし、つま先から甲にかけてと、踵部分を鉄にしよう。

 良し! 決まった。

 まずは叩き台つくって、それを元に煮詰めていこう。


 キルロはゴーグルをはめて、槌を握りしめた。


□■□■


「フェイン、装備の叩き台出来たぞ、つけてみてくれ」

「おおぉ、わざわざすいませんです」

「何か気になる所を教えてくれ」


 叩き台となる装備が完成したので、早速フェインに足を運んで貰い、サイズや、動きの確認をしていく。


「これで十分です! ありがとうございました」

 

 フェインがペコペコと頭を下げながら、感謝を述べる。


「いやいや、ちょっと待てて! おまえのその謙虚な姿勢は長所でもあるんだが、今回はちゃんと注文をつけてくれないと。フェインの一発で、誰かが救われる事だって大いにあり得るんだ。これから相棒になる装備、しっかり作っていこうぜ」

「はぁ⋯⋯うぅぅ、難しいですね」

「それじゃまず、サイズをつめようか。そしたら殴る位置を確認して鉱石の位置を微調整していこう、どうだ? こんな感じならいけるだろ?」


 キルロは答えに詰まった、フェインに助け舟を出す。

 フェインは、“フムフム”と頷き、少しずつ注文が出始めると、フェインも調子を掴んだのか、細かい所までだいぶ煮詰める事が出来た。


「よし! グローブはそんな感じでやっておく。ブーツはこんな感じにしたんだが……」


 フェインにブーツを渡すと早速試着する。

 

「これはいいです!! 重くないです!」


 フェインは、回し蹴りをキルロに向ける。


「あ、踵も使いたいので踵にも鉄を付けいただけますか?」

「そらぁ⋯⋯構わないが⋯⋯」


 キルロは顔を赤くし、フェインから視線を外してしまう。


「フェイン、そのなんだ⋯⋯パンツ⋯⋯見えている⋯⋯」


 キルロの指先だけ、スカートで回し蹴りのポーズを決めているフェインに向ける。


「ふわわわわ! すいませんです!」


 今度はフェインが顔を赤くして、急いで足を下した。

 

 ⋯⋯とても気まずい。


「フェインのおパンツ~♪ フェインのおパンツ~♪」


 キノが適当なメロディーでご機嫌な歌を奏でた。キルロが、止めろと睨むと、キノはさらに調子づいていく。

 

 止めろー! 気まずさが倍増するから止めてくれ。


「キノ、ストップ! それと、それハルヲの前で、絶対歌うなよ! 殺されるから!」


 キノはニマっと怪しい笑みを浮かべるだけだった。


「え?! それは危険! キノだめですよ!」


 フェインもキノにお願いの念押しをする。キノはここぞとばかり、ニマニマとさらに笑みを深めた。

 

 た、頼むぞキノ。


□■□■


 翌日、ハルヲも装備を持って店に訪れた。

 フェインの装備に目処が立ち、マッシュの装備は元が良かったので、レザーアーマーにハイミスリルの補強をパッパッとして終了。簡単な作業だった。武器に関しても、磨いて研いで終わりである。


 さすがマッシュ、いいもの使ってらっしゃる。


「サーベルタイガー用の鞍って、補強出来る?」

「もちろん。重くない方がいいよな。ミスリルで補強するか? それと、白精石(アルバナオスラピス)はどうする?」

「サーベルタイガーは首輪で、大型兎ミドラスロップはピアスにするわ」

「了解、了解」


 キルロはハルヲに親指を立てて見せる。

 ハルヲの装備はいつも整備しているので、慣れたものだが、キルロの中で、ちょっと気になる事もあった。


「なぁ、これ(アーマー)って、微妙にサイズあってなくないか? ちょっと採寸させてくれよ」


 キルロが、ハルヲのレザーアーマーを指差しながら言うと、ハルヲも何の気もなしに頷いた。

 キルロがメジャーを持ち出しハルヲの採寸を始める。

 身長から始まって、手足の長さと続き腰周りそして胸周りと、息がかかりそうな程の至近距離で採寸される。

 ハルヲは顔を真っ赤にさせるが、キルロの真剣な眼差しが目に入り、浮つきそうな気持ちを落ち着けていった。


「私もピアスにしようかと思って」


 ハルヲは、採寸されながらキルロに言うと少し驚いた表情を見せた。


「【白精石(アルバナオスラピス)】か? そらあ、構わないが、必要な量と大きさを考えると4つくらいになるぞ⋯⋯いいのか? エルフの耳にピアス開けて」


 エルフは身体に穴を開ける装飾はしないのが常識で、ハルヲから、ピアスという単語が出て、驚きを隠せなかった。

 

「まぁ、私、エルフじゃないし。この間シルがソシエタスに誘ってくれたでしょう。半分冗談かもしれないけど、アレでなんか吹っ切れたのよね。私は私だ。その証じゃないけど、耳にピアス開けようかと思って」


 ちょっと照れくさそうにハルヲは答える。

 何かがハルヲの中で変わったのだろう。キルロは、ハルヲの言葉を聞いて、それがポジティブな変化であると感じ、“そうか”とだけ答えた。


「よし、終わり。ハルヲ、少し休憩しようぜ。根詰めたから、少し疲れたよ」

「そうね」


 ふたりは、ちょっとまったりしながらお茶で一服する。

 最近はバタついていたのでハルヲと何げない会話するのも久しぶりで、【ハルヲンテイム】の事やエレナの事、今後のソシエタスの事⋯⋯などなど、ざっくばらんに話をしていった。


「キルロ団長!」


 ふたりが休憩していると、店先から聞き覚えのない男性の声が唐突に聞こえてきた。

 

 団長?

 久々の面接かな?

 

 ハルヲと視線を交わすと、ハルヲは、“どうぞどうぞ”とばかりに手を差し出して見せた。


「オレがキルロだが⋯⋯何用だい?」


 肩まで伸びる、美しい輝きを見せるブラウンの髪に、切れ長の目。瞳は深い青を湛え、彫りの深い顔立ちに長い耳、美しい美丈夫然とした、いかにもエルフらしい男性が立っていた。


「もし宜しければ面談していただけないですか?」

「お! 入団希望者。もちろん、構わないさ。こっちへ」


 ハルヲのいる居間へとエルフを案内する。ハルヲの瞳がエルフを捉えると、少し警戒の色を見せたものの、やはりシルとの出会いで何かが変わったのか露骨にイヤがる態度は見せなかった。

 反対にハルヲを瞳に捉えたエルフは、驚愕の表情を浮かべる。


「ドワーフとエルフのハーフ⋯⋯」


 わなわなと震えながら放ったエルフの一言に、ハルヲの警戒心が二段階程上がった気がした。

 

 え? 大丈夫かな、面談?

 

 不安がキルロの心に立ち込めた。


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