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勇者とソシエタス

「引き受けて貰って早々だけど、現状と当面のお願いを話させて貰うよ」


 アルフェンは表情を引き締め話し始める。

 

「一番北方にいる兄アントワーヌからの情報だと黒素(アデルガイスト)の量が増え続けていて、このまま増え続けると抑えきれなくなってしまう。今はアントワーヌとアントワーヌのすぐ南にいる二番目の兄、アステルスが居住区まで影響が出ないように、何とか抑え込んでいる状態で、現状は芳しくないんだ」

「北方の人員を増やせばいいんじゃないの?」


 ハルヲの言葉にアルフェンは苦笑いするしかなかった。その表情から、それがしたくとも出来ないのだと、ハルヲはすぐに理解する。


 北でいったい何が起こっているというのか。


「人員は増やそうと思えば増やせる。ただ、魔具(マジックアイテム)が追いつかないんだ。白精石(アルバナオスラピス)のストックが尽きて、採取から始めなくてはならないからね。ストックが尽きる事なんて今までなかったんだ」

「それじゃあ、黒素(アデルガイスト)の吹き出し口みたいなもんがあるんだろう? そこに蓋しちまうとか出来ないのか?」


 元を絶つことが出来れば手っ取り早いが、やれるものならやっているか。

 キルロは、そう思いつつも聞いてみた。


「それが目標といえば目標なんだけどね。実際何から吹き出しているのか⋯⋯何かから吹き出ているのか、湧いているのか、何かが吐き出しているのか皆目見当もつかない状況なんだ。北の先、【最果て】まで到達出来れば分かるのだろうけど、到達出来る目処すらついていないっていうのが現状なんだ」

「到達だけでもキツいのか?」

「そうだね。実際どこまで北上すればいいのか分からないし、モンスターのレベルが高すぎて北方への進行には難儀しているんだよ」


 黒素(アデルガイスト)が強くなればモンスターのレベルも上がっていく。ましてや元を発見出来たとして、そんな黒素(アデルガイスト)の濃い所にいるモンスターなんて、ヤバい香りしかしないよな。

 

 キルロが横に座るハルヲを覗くと、同じような事を思っているのか、難しい顔で考え込んでいた。


「勿論、アントワーヌのパーティーは強いのよね?」

「強いよ。それをフォローしているソシエタス、【イリスアーラレギオ】も【ノクスニンファレギオ】も強力だよ」

「イリスアーラって! 最大のソシエタスじゃない。でも、勇者の直属なんて話聞いた事ないわよ」

「ハハハ、それはそうだよ。直属契約は内密、極秘事項だからね。ソシエタス内でも知らない人は意外と多いかもね」


 ハルヲは驚愕の表情を浮かべた。極秘事項、自分達も勿論そういう事なのだ。


 しかし、最大手のソシエタスでも手をこまねいているのに⋯⋯なんで、私達なんだろう? 


 ハルヲは若干の不安と疑問を抱いてしまう。


「そんな、すげえ所が手をこまねいているのに、オレ達に出来る事なんてあるのか?」

「あるさ! だから僕は君達を指名させて貰ったんだからね。さしあたっては、ソシエタスを設立して貰いたいんだ」


 キルロがハルヲの気持ちを代弁するかのように質問するとアルフェンは間髪容れず笑顔で答えた。

 しかも、ソシエタスってまたそんなオーバーな。ちょっと店を開くのとは訳が違う。小さなソシエタスにしたって、結構な手間だ。

 

「え?! パーティー組めばいいんじゃないのか? ソシエタス設立ってなんか大仰過ぎないか?」

 

 ハルヲもキルロの意見に黙って頷く。


「お願いする仕事の隠れ蓑として、クエストを使うんだよ。パーティーを組んだだけだと、クエストを掛けても他のパーティーに取られてしまう可能性があるけど、ソシエタスを設立して貰えればソシエタスを指名してクエストの発注を掛けられるでしょ」


 なるほど指名か。


 キルロは深く頷いてしまう。極秘のクエストを貼りだす訳にはいかない。そう考えると、ソシエタス設立は理にかなっている。


「もっともクエストの内容自体は、全く違うものを発注する。ギルドを通す事によって、僕達との関係を隠す事が容易になるし、いざというとき“あのソシエタスはあの時、あのクエストを受けていた”という、ギルドの証言も得やすくなって、アリバイ工作も容易になる」

 

 アルフェンはキルロとハルヲを真っ直ぐ見つめ重要性を説いた。隠れ蓑としてギルドも巻き込めるという寸法か。

 ハルヲは何か考えあぐねている素振りを見せるが、アルフェンの言葉に対してではなさそうだ。

 キルロは小声で“何か気になったか?” と訊ねると

 “う~ん、ちょっとね。大したことじゃないんだけど”と小声で返すと、ハルヲがアルフェンに向き直した。


「報酬って出るのかしら?」

「もちろん。伝え忘れてしまっていたね。通常のクエストより多く出せると思うよ。ソシエタスの維持には、それなりの金額は掛かってしまうからね」


 ハルヲは納得し何度も首を縦に振った。

 

 維持するためには大事なことか。

 なるほど。全く気にしていなかった。

 確かに時間だけ取られたら今までの苦労は何? ってなってしまうものな。

 報酬が多いと少ないでは大違いだ。

 

「そうそう、パーティーとして、ソシエタスとして、人を集めるなら強さより信頼足る者を選んだ方が良い⋯⋯いや選ぶべき⋯⋯かな」

「強さより信頼ね」

「そうだよ。いくら腕自慢を集めても、信頼がなければただの烏合の衆さ。大事な場面こそ信頼しあえる仲間が重要なんだよ」

「なるほどね⋯⋯」


 アルフェンの言葉は、納得は出来るのだが、まずはソシエタスを設立しないことには何も始まらない。

 

 とはいえ、信頼出来る仲間ってそうそう簡単に見つかるもんじゃないよな。


 キルロは腕を組みながら逡巡する。


「僕達からのお願いは最初のうちは採取、探索系をお願いすると思う。ただ、ソシエタス設立後、すぐにお願いはしないので様子見を兼ねて通常のクエストを受けながら、仲間を探してはどうかな? それくらいの余裕は与えられると思うよ」


 まずは設立と仲間集めか。

 

 キルロもハルヲも同じ事を考えていた。

 一通り話が終わったのか、アルフェン達は帰還の準備を始める。


「ねえ、どうして私達に声掛けたの?」


 帰り際にハルヲはアルフェンに訊ねた。素人とは言わないが手練れ連中ならギルドに溢れ返っている。手練れとはとても言えないキルロと、ハルヲに声を掛けた理由が話を聞いても分からなかった。


「面白そうだった。あとはそうだな、君達二人が信頼しあっているのが分かったからね。信頼は早々には築けないものでしょう」


 アルフェンは満面の笑みで答え、帰って行った。


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