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鍛冶師と調教師 ときどき勇者と 【改稿中】  作者: 坂門
裏通りと薬剤師

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空(から)

 小男と対峙するふたり。ユラはくりくりと愛嬌のある瞳を輝かせ、マッシュの袖をつかむ。

 まるで子供がおもちゃをねだるかのようなあどけない仕草を見せるが、吐き出す言葉に可愛いさなんて欠片も無かった。


「なあ、マッシュよ。あれくらいなら、なんとかなるんじゃねえのか?」


 ユラは指さしながらわざとらしく声を上げた。マッシュは咎めるわけでもなく面倒臭そうに肩をすくめて見せる。


「うん? そうだな。やれそうだけど、今日はダメだ。きっとそういうことはしない日なんだ。なあ! そうだろうオーカのお偉いさん」


 二人の舐めきった態度に、こめかみをひきつらせながら笑顔を作る。

 そんなに分かりやすかったらダメだぞ、その姿にマッシュが笑みを浮かべた。

 こっちは追い込まれちゃいない、おくまでも追い込まれているのはそっちだと虚勢を張り、相手の出方を探る。

 実際のところはどうなっているのかさっぱりわからないが、とりあえず強がっておけばいい。

 団長頼むぞ。


「もちろん、今日はただの引っ越しだからね。ヴィトリアさんに迷惑かからないようにわざわざお手伝いに来たのだよ。さあ、始めようか」


 マッシュとユラは顔を見合わせる、二人は小首を傾げ小男へと視線を向けた。


「なあ、そんな話だったっか?」

「オレは知らねえよ」

「すまん、いちから説明して貰ってもいいか?」


 小男の表情から笑顔が消えた。

 背中越しにやり取りを見つめている待合いの三人が、思わず吹き出す。


「あれ、怒るわよ」

「大丈夫ですかね?」


 ハルヲとフェインが待合いから外を覗き囁き合う。

 煽りすぎちゃダメよ、とハルヲは心の中で呟く。

 小男は二人へ手の平をかざし自分の心を冷静に落ち着けようと必死だった。

 マッシュとユラはその様子を無表情で淡々と見つめている。

 こちらから話を進めることはしない、相手の出方をみてのらりくらりとかわすだけだ。


「僕もね、そこまで短気ではないけどね、あまり舐めて貰っても困るのだよ。サッサとして貰ってもいいかな?」


 怒りを必死に抑えながら震える声で言葉を吐き出す、怒らせ過ぎか。


「そっか、急いでいるところすまなかった。そらぁいちから説明なんてしていられないな」

「わかって貰えればいいんだ、じゃ……」

「あ、ゴメン。わかってはいないんだ、説明がないからさ。でも、急いでいるってのだけはわかったよ。で、誰の引っ越しなんだ?」

 

 マッシュに言葉を遮られ顔を紅潮させる。


「ここの住人を全員! オーカに帰すのだ! わかったか! サッサとしろ。これは決定事項、命令だ」

「ええー、ここの住人ー? 大勢だぞー? そんなすぐには無理だろうー、ちょっと待てよー」


 抑揚のないマッシュの声にさらに怒りの度合いが上がる。

 さすがにやり過ぎじゃないの、見守る待合いにも緊張が走り出す。

 後ろに控えていた獣人の二人もその空気に素早く身構えた。


「ハハ、悪い、悪い。冗談だよ。まあ、そう焦るなよ。こっちにも準備ってもんがあるんだ」


 小男は派手に舌打ちする。マッシュの言葉に溜飲が少しだけ下がった様子を見せた。

 笑顔を作り直し、後ろに控える獣人をいさめると引きつった笑顔を作り直す。


「そうか。準備なら手伝うぞ、そのために連れて来たのだから、サッサと片付けてしまおう」

「いやいや、いいよ。そんな国のお偉いさんなんかに手伝って貰ったらバチが当たるから、茶でもすすってくつろいでいてくれよ」


 お茶を飲むポーズをしながらマッシュは答えた。

 あちらさん相当焦っているな、あまり引っ張れないぞ、これ。


「遠慮するな。後ろのヤツらを使って貰って構わない、良く働くヤツらだ」


 ヒューマンの騎馬隊か。

 小男の後ろにずらっと騎馬に跨がった軽装備を纏うヒューマン達が連なっていた。

 口ではああ言ったものの、フル装備50人の相手なんて無理だよな。なんか削る方法ねえかな。


「へぇ、優秀なのか。オーカには優秀な兵士が多いのか?」

「関係ない話だ、答える必要はないね」


 チッ。


 乗ってこなかったな。

 ふとニウダの言葉を思い出した。オーカのヒューマン同士はやりづらいって言っていた。

 兵士の方も同じように考えているならやりようあるんじゃないのか……。


「それじゃあ、騎馬隊の隊長か代表者と打ち合わせ出来ないか? 闇雲に動くのは効率悪いだろう?」


 小男はマッシュの穏やかな問いかけにひとつ頷く、後ろの獣人に声を掛けるとひとりのヒューマンを呼び出した。

 兵士らしくマッシュとユラに対して警戒を見せる。

 マッシュもユラも両手を上げ危害を加える意志のない事を知らせた。


「あんた名前は?」


 マッシュは近づいた男に問いかける、両手を上げたまま小男に気づかれないように囁く。


「……ヨルセンだ」


 警戒したまま剣呑な表情で答えた。


「ま、そんなに警戒すんな。オレはマッシュ、こっちはユラだ。ニウダって男は知っているか? オーカから移住してきたヒューマンだ。そいつがあんたたち兵士とはやり合いたくないって言っているんだ。あんたら兵士たちはどうだ? 移住したヒューマンとやり合う気満々なのか?」


 マッシュは顔上げ煤けた顔に疲れが見え隠れするヨルセンの顔を見つめた。

 良くみると装備もボロボロだ。ひいき目に見たっていい待遇を受けているとは言えないな。

 隊長クラスでこれってことは下っ端はロクな扱いを受けてないと容易に想像がつく。

 ヨルセンはゆっくりと首を横に振る。


「ニウダってやつは知らないが、やる気満々なわけがないだろう」

「兵士全員か?」

「多分な」

 

 多分か、マッシュは逡巡する。

 不確定要素は排除したい、どうする。



「ヨルセン、おまえさん自身はどうだ?」


 肩をすくめてみせる。


「やりたくないに決まっている。互いの苦労をイヤってほど知っているんだから」

「正直に言おう、オレたちは降りかかる火の粉は払う。そこにやりづらさはない。ただここの住人のために動いているのに住人が望まないことはしたくない。やり合わなくても済むならそれに越したことはない。手はあるぞ、どうする?」


 選択肢がある状況に慣れていないのか、戸惑いが大きい。

 今まで自ら考え行動するってことが無かったのだろう。


「なあ! この男ともっとしっかり打ち合わせしたい! ちょっと借りてもいいか? 準備に向けて話しあいをしたいんだが、どうだ?」


 小男に向けてマッシュが叫ぶ勝手にしろとばかり軽く片手をあげた。

 まあ、随分とぬるい対応だな、ヨルセンは人質にはならないって事か。


「ヨルセン、ちょっとつき合ってくれ。大丈夫、取って食ったりしないから」


 不安な表情を浮かべながらもマッシュについて、メディシナの中へと入って行った。


「ヨルセンだ。ニウダいるか?」

 

 待合いに座り、ヨルセンはキョロキョロと見回していた。

 敵陣のど真ん中に連れてこられたにも近しい、落ち着けって方が無理か。


「ヨルセン、落ち着いて。私たちはあなたを傷つけることはしないから」


 ハルヲの言葉に少しだけ落ち着きを取り戻す。

 階段からニウダが現れた。


「ニウダ、こちらは騎馬隊の隊長、ヨルセンだ」


 ニウダはヨルセンのボロボロの姿に黙る。

 その姿から暮らしぶりイヤというほど伝わってきた。

 ニウダが悔しさを滲ませているようにも見える。いろいろな感情が混じって、ニウダの口は重くなった。


「腹減ったぞ」


 ユラが腹を抑えてうずくまる、確かに朝から飲まず食わずだ。

 いいタイミングだ、補給をしておこう。


「なんかあるかな?」

「昨日のおばちゃんたちの残りが結構あるわよ」

「構わない、くれ。ヨルセンあんたもどうだ? 食いながら話しをしよう」


 簡単なスープとパンを差し出すとヨルセンが目を剥く、食べていいのかどうか逡巡している。


「食べろ、うまいぞ」


 ニウダが声を掛けると一気に頬ばった。まるで今まで食ってなかったかのように一気に平らげていく。

 あまりの食いっぷりのよさにまわりは呆然と見つめるだけだ。


「おかわりする? おばちゃんたちががんばってくれたからまだいっぱいあるわよ。遠慮しなくて大丈夫よ」


 ヨルセンはハルヲを見つめ、素直にスープ皿を差し出した。

 ニウダの心持ちは複雑なままだ、腹いっぱい食えるなんてことは今までなかったはず。

 その様子をだまって見つめる、なんとかしなきゃダメなんだ。

 重い口を開き、その思いを言葉に乗せる。


「ヨルセン、食いながら聞いてくれ。この人たちの言うとおりに動いてくれないか? 決して悪いようにはしない。現に今、こっちに移住してきた人間は質素だが楽しくやっている。あなたたちもこちらに来くれば楽しく暮らせる、そのために彼らは動いてくれているのだから」


 空っぽになったスープ皿を眺めている。

 空っぽだった胃袋にスープが染み込んでいくのが分かる。

 空っぽな生活が人間らしく暮らせるようになるのか?

 心が揺れる。


「くず野菜が少し入ったスープと廃棄前の堅いパン、分かるだろう。兵隊だから毎食パンがつくけど街のやつらなんて一日三食なんて食ったことないヤツらばかりだ。こんなうまいスープが毎日飲めるのか……」

「ちょっとおばちゃんたちが背伸びした感じけど。ここは質素だが三食腹いっぱい食うくらいなら訳ないよ」


 ヨルセンが顔あげる。

 人間らしい生活が出来るところがある?

 いや、今そこが危機なのか。


「ここを維持するためにオレたちは動いている。ヨルセン、おまえさんも人らしい生活を送れ。今までの生活を断ち切れ。今ならそれが出来る」

「どうすればいい?」


 マッシュはニヤリと笑う、騎馬隊の圧力はこれでなくなる。


「おまえさんは一度隊に戻って、引っ越しの手伝いをするフリをして隊員の意志を確認しろ。オーカに戻りたくないやつはこれから渡すリストに名前を書き込んでこっちに渡してくれ。そうすればオレたちがおまえさんたちを守ろう」


 ヨルセンは大きく頷いた。


「カズナ、ネスタのところにひと走りして白紙のリストを貰ってきてくれ。ユラはオレと来てくれ、ヨルセンについて作業するふりして、こっちにくる人間のフォローにあたる。ハルとフェインは待機しつつなにか動きがあったら逐一教えてくれ。向こうに絶対悟られないように。よし! いこう」


 カズナが裏口から飛び出す。

 マッシュ達はメディシナの外に出て騎馬隊の方へと向かった。

 ヨルセンの空っぽだった心は今まで感じた事のない使命感が満たす。悟られないように変な動きにならないようにと何度も自分自身に言い聞かせ、緊張を押し殺して行った。


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