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鍛冶師と調教師 ときどき勇者と 【改稿中】  作者: 坂門
裏通りと薬剤師

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猫と薬剤師ときどき調教師

 質素な作りのハルヲンテイムの客間。

 調度品など一切無くテーブルと椅子があるだけ。

 手入れの行き届いた清潔な部屋。ヤクロウは目をつむり逡巡する。

 向こうは大丈夫か? これで良かったのかと。

 常にあった心の重石が今頃になってのしかかってくるなんて。

 あの若者に頼ってしまった、託してしまった。

 正解が見えない。らしくない行動をとっている自分がいる。

 そんな自負と共に感じる後ろめたさ。

 なぜ今更、いや今だからか⋯⋯。

 肩に掛かったブランケットの温もりに包まれると、いつしか眠りについていく。

 エレナもその姿に安堵し、テーブルにうつ伏せになった。


 

 コン。


 軽いノックの音で二人は顔上げた。

 エレナが扉を開くと、少し困った笑顔を浮かべ、ハルヲが立っていた。

 申し訳ないという思いが溢れる。

 相変わらず自分で何も出来ないと再認識してしまう。


「ハルさん、突然すいません。何も思いつかなくて……その」

「ああ、いいわよ別に。どうせまたあいつが、何か首を突っ込んだのでしょう」


 ハルヲはエレナの頭にポンと手を置いた。

 いつもの事、あいつの事。

 それだけで動く動機としては充分ではある。

疲れの見える二人を見つめる青い瞳は澄んでいた。


「いや、オレからもスマン、ヤクロウ・アキだ。薬剤師だ」

「ハルヲンスイーバ・カラログースよ。ハルでいいわ」


 ハルヲは諦めたように、ため息をつくと二人に笑顔を見せた。


「で、何がどうなっているの?」

「はい、ヤクロウさんはキルロメディシナで薬剤師をされているのですが、メディシナに怪しい男達が現れて、ヤクロウさんを返せといきなり乗り込んで来たのです。たまたまヤクロウさんがその場にいらっしゃらなかったので、キルロさんが追い返したのですが、また来るかもしれないという事で、どこかに隠れなくちゃいけなくて……なにも思いつかなくて……ここに……」


 ハルヲは苦笑いを浮かべ、エレナの頭をワシャワシャと撫でまわした。

 エレナは自身を過少評価しすぎる。多分、今出来るベストの選択が出来ているのに。

 信頼しているのにまったくもう。


「あいつがここに連れて行けって言ったの?」

「いいえ! 私の独断です」

「スマン、オレもそれに甘えた」


 ハルヲは椅子に腰掛けるとテーブルを指先でトントンと刻む。

 怒っている感じはまったくないが逡巡している。

 ハルヲの指先が止まった。


「で、なんでヤクロウは追われているの?」


 ハルヲとエレナがヤクロウのほうを向く、ヤクロウは頭をガシガシと掻いて視線を外す。

 ひとつ息を吐き出し、視線を戻した。言いづらいのは承知の上だ。

 ただ、言わないという事が、不誠実なのも分かっているはず。

 ここに来ておいて何も言わないはさすがにない、ヤクロウの重い口が開く。


「オーカって国は知っているか? 裏通りのヤツらは、ほとんどがオーカのヤツらだ。ほとんどのヤツらがオレの手引きであそこに流れついている。それが面白くないのかもしれんな」

「ふーん、アイツもそれを知って、あんたを逃がしたってこと?」


 避難民のブローカー? そんな感じは受けない。

 ガラはいいとはいえないが、そこらへんのチンピラって感じはない。

 そもそも、そんなヤツをあいつは側に置かない。

 しかし、なんでオーカから避難しなくてはならないのだろ?

 確かオーカは金持ちの多い国じゃ……。

 ハルヲンテイムの顧客リストを頭の中で引っ張り出す。逃げ出すような貧しい国とは思えない。


「いや、小僧はこのことを知らない。なんでオレを庇うのかこっちが知りてえくらいだ」

「はあ~、まったくあいつはなに考えているのだか」

「でも、らしいですよ」


 後先考えずにまた突っ走った。結果的には良かったみたいだけど少しは、頭を使え。

 ハルヲはこめかみをぐりぐりとして頭痛を和らげていた。


「そうなんだけど、事情くらい確認しろって話よ」

「そんな時間もなく私が連れ出しちゃったので、すいません」


 さて、どうしたものか。

 匿うのは構わない、ここに連れてきたのは好都合だ。

 それより今後の自分の動きだ。

 ヴィトリアに行くべきか、ヤクロウについているべきか。

 ハルヲは逡巡する。


「突き出して、終わるならそれで構わないぞ。迷惑なのは分かっているからな」

「うん? ああ、匿うのなんて迷惑でもなんでもないわよ。部屋は余りまくっているし。それより今後どう動こうか考えていたのよ。あんたを突き出した所できっと問題の解決にはならないのでしょう。エレナがここに連れてきたのは、きっと正しい判断よ」


 バツが悪そうにヤクロウはまた頭を掻いた。

 居心地が最初は良くないでしょうけどね。

 それが分かっていたうえで、ついてきているんだ、オーカに戻るというのは愚策で間違いない。


「ねえ、オーカって貧乏な国なの? そんなイメージはないんだけど」

「国自体はそこそこ儲けている。油とか石なんかが取れるからな。ただその富は一部の人間に流れているだけだ。貧しい暮らししているヤツらは大勢いる」

「なるほど……?」


 あれ? なんか違うな。

 貧しい? 避難? 何もない裏通りに?

 国自体が貧乏でないのなら、ものが無いわけではないはず。

 何も無い所に避難して暮らしが向上する?


「ねえ、避難したほうが、飢える可能性は高くないの? まあ、あの裏通りの雰囲気から飢えているって事はないのかもしれないけど、貧しい暮らしって変わらなくない?」

「まあ、あそこで豊かな暮らしってわけにはいかないが、オーカよりマシなんだよ」


 小僧といい、このハーフといい勘が鋭いな。しかも小僧と違って良く考えている。

 お嬢の優秀さってのは、こいつら譲りか、頼もしいが……。


「あそこより貧しいのか……オーカのイメージからピンとこないわね。そういえば、良く家がバレなかったわね。真っ先にバレそうだけど」

「あそこの連中は余所者には冷たいからな」


 それだけでバレないものかな? 


 パン!


 ハルヲが手を打った。

 突然の行動にヤクロウがびっくりする。


「腹の探り合いは止めましょう。時間の無駄だし意味ないわ。私達はアナタの味方。だからちゃんと教えて、情報は多ければ多いほど武器になる。対処も出来る。でしょう。話しなさい、全て」

「大丈夫ですよ、キルロさん、ハルさんに任せればいい対策法が見つかりますよ」


 エレナはヤクロウの肩にそっと手を掛けた。

 頭をガシガシと掻いて逡巡している。

 大きく息を吐き出し、腹を決めたヤクロウが前を向いた。


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