拠点
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皆の顔が真剣そのものとなると、むしろここからが勝負とでも言いたげな印象を受けた。
ただ寝ていただけという身としては、やるせなさも多にして感じてしまう。
きっとそんな事を気にしている場合ではないことは、漂う病室の緊張感に一目瞭然だった。
「それで、拠点はあったのか?」
キルロの問いにマッシュとシルは顔を見合わすと何度も頷いた。
拠点があった割にはスッキリしないリアクションを見せる。
「岩壁つたいに進むと洞窟があったよ。アイツらの使っていた大きな拠点を見つけたのだけど⋯⋯。まあ、なんというか身元や何かと繋がりが分かるものが、今のところは見つかっていないってのが現状だね」
ユトが肩をすくめながら答えてくれた。
マッシュやシルをもってしても、大きな成果なしか。
それは確かにもどかしいよな。
やっと掴んだヤツらの尻尾の先、なんとしてでも本体まで辿り着きたい。
「それでも、何かしらはあったんだろ?」
「白精石と魔具を見つけて、小さな黒金岩もあった」
「それって、勇者がらみのパーティーか、そこにいた奴が絡んでいるって確たる証拠だよな。あ⋯⋯ヤルバは元ノクスニンファレギオ所属か。奴が知っていたのか⋯⋯」
精浄に使うアイテムか。
マッシュの答えにキルロは逡巡する。
ヤルバがいたって事は精浄の存在や知識は持ち合わせているのは、おかしい事ではない、むしろそれを何に使うのか? 何の為に集めているのか。
「精浄の邪魔をしているって話は聞いたが、盗んでいるって話ではなかったはずじゃ……そこらへんに捨てているって前に聞いたような……」
「確かにそんな話ありましたです、もったないなぁって思って聞いていましたです」
「そうだ! イスタバールの時だ! 捨てずに集めていたってのが、分かっただけでも収穫じゃないのか?」
フェインが思い出すとキルロもタントの言葉を思い出した。
捨てるのと集めるのでは意味合いがだいぶ違う。
集めて何に使う? いやどうして精浄する? やはりここに戻ってしまうのだが。
「でも、捨てていたのは確かよ。その痕跡を何回も見ているわ」
「失った量と捨てていた量はイコールですか? それと白精石を作っていたという可能性は?」
シルの言葉にネインが疑問を呈す。シルは宙を仰ぎながら考え始めるとギリギリと抱きしめる力が徐々に強くなっていった。
く、苦しい。
「そう言われるとイコールではないわね。捨ててある痕跡をいくつか見たのでそうしていると思ってしまった感はあるわ」
「捨てていたと思わせたかった……」
ハルヲが思考を巡らせながら囁くように言い放つ。
「集めるにしろ作っていたのにしろ、どこかを精浄したいって事だよな?」
「だな。それ以外の使い道がわからんからな」
「まあ、それがわかっただけでも前進じゃないか。何考えて行動しているのか分からなかったけど、どこかを精浄する気があるって事だ。そしてそれを隠したい。次はどこを精浄したいか探れば自ずと見えてくるんじゃないのか?」
「そうだな。尻尾が見えて焦っちまったかな。おまえさんの言う通りだよ」
「さすが王子様~」
キルロの言葉を受けマッシュは大きく頷き、抱きしめるキルロをシルは大きく振り回した。
病み上がりなのでお手柔らかに、キルロはシルになすがままに振り回される。
「ヤルバの脳みそがとろけてなければなぁ~、いろいろ聞き出せたのに」
ユトが後ろ手に嘆く、シルのパーティーメンバーは誰もが苦い顔を見せる。
確かに、やっと掴んだのに使いものにならないとなれば愚痴りたくもなるか。
死ぬより何も感じなくなる方が楽、まあ、躊躇なくそっちを選ぶよな。
何も感じないか……。
そんなものは死んでいるのと変わらないと思うけど、そうまでして繋がりを隠したい? 隠さなくてはいけない? 者? 物?
「ヤルバは元に戻らないのか?」
「ひと通りのヒールは使ってみたけど効果はなしでしたわ」
「全く?」
「ええ、玉は落ちましたけど特に効果なしでしたわ」
ダメか、キルロは嘆息する。
シルのパーティーで治療師をやっているくらいだ、優秀なのは間違いない。
そのマーラが言うんだ、手の施しようがないの本当なのだろう。
完全なる精神の崩壊か、タチが悪いな。
「どこを精浄したいのか、ヤルバは何を隠したいのか? この辺が今回の鍵かな」
「だな。あとこれを。ヤルバが持っていた打器だ」
マッシュがキルロに投げ渡した。
手のひらよりさらに小さな、小さな、板バネのついた打器。
二つに分かれた貝がらのようなものを、親指と人差し指で押し合わせると“コキ”と音が鳴った。
これって……。
マッシュも分かっていたかのように、キルロに上目で視線を送る。
「ヤルバが持っていたやつだ。間違いなくあのケルベロスの動きといい、カズナ達の術を流用しているよな」
「ねえ、カズナ達の術って何?」
シルが眉間に皺を寄せマッシュの言葉を受けた。
シルにはまだ話してないか。
「兎人の集落が襲われるっていう事件があったんだ……」
『兎人?!!』
キルロが説明を始めようとすると兎人という単語にいきなりシル達が食いついた、そらぁそうか。
「なに、なに、なに、なに、それ! スミテバアルバやばいよ!」
ユトが鼻息荒くテンションが上がりまくっている。
あ、こいつもおかしなエルフだったけ。
「落ち着けって! ヴィトリアに兎人の居住区あるから行けばいつでもあえるから!」
「さすが王子様ね、次から次へと面白い事を起こすわね。私も入れてよ、スミテバアルバに~」
「シ、シル様! 何言い出すのですか!!」
「そうだよ、シル。でもさ、僕ならいいよね!」
「ユトも止めなさい、あなたが言いだすとややこしくなるから」
「じゃあさ、ユラを入れようよ。勇敢だしあの人数の中一人で潜入とかやばいよね」
「何言って……」
「そうね。ユラ良かったらウチ来ない?」
ユトの誘い文句にユラが顔を真っ赤にして、ヘラヘラと笑っている。
そうだった、ユラ異常にエルフに憧れていたんだった。
「ああ! もう、ノクスニンファ落ち着け。ウチのメンバーをどうどうと引き抜くな。そもそもエルフオンリーのソシエタスだろうが! ユラも耳を引っ張らない! 耳伸びてもエルフにならんわ! 移る気マンマンか?! そもそも、ノクスニンファからメンバー引き抜いたらウチなんか一発で潰されるわ!」
「ウチの団長、頭堅いからねぇ~」
ユトが悪びれもせず言い放つ。
なんかどっと疲れた。
キルロは大きくせき払いをして続ける。
「で、兎人のモンスターを操り方が独特なんだ。詳しいことは教えて貰えなかったけど、今回のケルベロスの操り方がそれと酷似している。近いうちに彼らの所に行って事情を説明して協力を仰いでみるよ。無理強いは出来ないけど、なんかしらの協力はしてくれると思う」
「さすが王子! やるわね。私もついていくわ」
「シルずるいよ、僕もいいだろう」
「あんたらが仕切ってくんないと、ここの捜索が進まないだろう。オレが行ってくるからいいよ。こっちを頼むよ、カイナ! この二人、なんとかしてくれ!」
「シル様をなんとかしろとは何だ! この無礼者が!」
えええ、カイナ使えねえ。
マーラは?
我関せずで、お茶すすっている。
マッシュ……は腹抱えて笑っている、止める気はないな。
ハルヲ……は何か青い顔してユラユラしている。
ユラ……はダメだな、ユトの勧誘に完全に舞い上がっている。
そうだネイン、ネインだ。
あれ? ネインは? いない?
「あれ? ネインは」
「トイレです」
タイミングわるっ!
こうなったらフェインだ、フェイン。
フェインに救いの手を求めようと視線を送るとフェインはソッと目を逸らす。
フェイン! こんな時だけ空気読むな。
バタン!
「⋯⋯病室ではお静かに」
突然扉が勢い良く開き、仁王立ちのエーシャが淡々と言い放つ。
口元は笑っているが目が笑ってない。
一同が凍りついたように静まる。
『『スイマセン』』
余りの恐怖に、皆一斉にエーシャに頭を下げた。