出会い
黒い霧は、まるで意志を持つ生き物のように人々の住む世界へと南下していた。
勇者とその一行は、その悪意を持った黒い霧、【黒素】の南下を阻止すべく、過酷な任務に従事していた。
吹きすさぶ黒い霧は、視界を塞ぐほど激しく、怪物は その悪意によって活性し、自身の欲望のままに暴れ、容赦なく暴れ続ける。
勇者達は折れない心を武器にして、人々の安寧のために【黒素】に抗い続けていた。
だが、街の人間達は、そんな勇者達の困難など知りもしない。
いつもと同じ一日を謳歌する———。
■□■□
街道を塞ぐ十匹ほどのゴブリンの群れが行く手を阻む。
対峙する壮年のいかつい冒険者と、首からゴーグルを下げるやんちゃそうな青年。
壮年の冒険者は、顎を撫でながら後ろの青年に、いかにもな口調で言い放った。
「こいつは厄介だ。兄ちゃんは下がっていろ。オレがコイツらを引き受けてやる」
「そうかい。そいつは悪いな。んじゃ、まぁ、遠慮なく」
群れの最後方に陣取る、装飾品を身に纏う上位種のレッドキャップ。そのレッドキャップが、首からぶら下げている白い鋭角な欠片がいくつもついた首飾りを見つめ、冒険者は目を細めていた。
(サーベルタイガーの牙⋯⋯)
冒険者はいやらしい笑みを浮かべながら、頭の中で算盤を弾く。
(サーベルタイガーの牙)
とでも思ったのかね。冒険者の後ろ姿に、口元にニヤリと笑みを浮かべ、サッサと踵を返すと街道を駆けだした。
ありゃあ、サーベルタイガーの爪だ。
青い瞳の小さなエルフが小袋一杯の爪を差し出し、『いらないから、あんたにやるわ』と言っていたのを思い出し、また口元に笑みを浮かべた。
さてと、言われた通りお任せするかねぇ。
元々、街道のゴブリン退治のクエストなんて興味はなかった。助っ人付きで、楽に街道を進みたかっただけで、ちょうどいい感じでさよなら出来た。
冒険者さん、今頃必死にゴブリンを叩いているんだろうな。爪でもそれなりに価値はある、まぁ頑張ってと一応エールは送っておくか。清算の時に気が付いて、えらい落ち込むだろうけど、欲をかいた結果だ、いい勉強になるだろう。
街道に並ぶ高い木々の隙間を逸れ、剥き出しの岩肌にぶつかる。一日中木々の葉が陽光を遮っているためか、空気はひんやりとして心地よい。
高くそびえる岩肌を眺め、そっとその岩肌を撫でて行く。指先が硬い岩肌に触れると、乾いた岩粉がさらりと崩れ落ち、削りやすそうな場所にあたりをつけた。
「ここに決めた」
ゴーグルを装着し、腰に携えたピッケルに手を掛ける。自慢のアダマンタイト製の刃先が優しく、そして大胆に岩肌を削っていった。
コン。
刃先が埋まる程削ると、刃先から伝わる感触にほくそ笑む。
ゆっくりと繊細な手つきで、岩を削ると土くれの間から覗く輝きを放つ銀色の何か。
指先で銀を愛でる。素早い手つきでその銀色の鉱石を掘り出して行く。見えてくるその全容に破顔する。
「キター! ハイミスリル!!」
ハイミスリルを抱き締めながら、頭の中では高級素材の皮算用。頬は勝手に緩んでしまう。
剣もいいな、いや、鎧にしちまった方が需要あるかな? いやなんにせよウマウマだぜ。
「フヘヘヘヘ」
森の外れにある岩肌に向かい、ひとりでだらしのない笑いを浮かべてしまうほど上機嫌で、その銀塊を背中のバックパックに丁寧にしまっていった。
今日は何ていい日だ~。
鼻歌まじりに森を進む。背中に感じるハイミスリルの重さが、テンションを更に上げていった。
少し湿った森の土を踏みしめ、森の空気を肺にいっぱい吸い込む。
ひと仕事を終えたあとの空気は美味い!
そう思った矢先、空気の微細な変化に辺りを見渡した。森で仕事をする人間は、その微細な変化が命取りになる事がある。
彼の目に映るのは、50Miはるであろう先で、こちらを睨む猪の姿。人を優に超える、体長2Miはありそうな巨大な猪。
大猪かよ。
鼻息荒く、自慢の牙を青年に向けていた。今にも飛びかからんばかりの鼻息が離れていても届いて来そうな勢いに額にじわりとイヤな汗が滲む。
まぁ、落ち着こう。たかが一頭、落ち着いて対処すれば⋯⋯。
「本気か!?」
ひと呼吸あけて見つめ直すとそこには、都合10頭ほどの立派な群れが現れた。額どころか体中の穴という穴から汗が噴き出す。
あれはダメだ!
一瞬硬直し掛けた体に自身に鞭を打つ。方向などどうでもいい、あの鼻息から逃げろと、もつれそうな足を必死に動かし、木々の間を抜けて行く。
飛び出した木の根や、岩が行く手の邪魔をした。その度にもつれる足を前へと蹴り出す。
後ろに感じる圧はじわじわと大きくなってくる。地面を力強く蹴る音が大きくなっていった。
ヤバイ! ヤバイ!
突っ込まれたら、一瞬で終わる。あの鋭く大きな牙で、一発であの世行き決定だ。
心臓が激しくポンプし血液を体中に巡らす。肺がもう無理だと呼吸を拒絶し、苦しい。
自身の呼吸音と後ろからの足音が焦燥感を煽る。
何かないか? 何かないのか?!
後ろへと流れる景色の中、視線を激しく動かした。
前方に見える太い枝が伸びる大木。
迷う事なく大木を目指す。
大きくなっていく地面を踏むいくつもの足音に、見ないようにしていた後ろを一瞬覗いてしまった。
大猪を余裕で覗いていた。だがすでに、10Miを切っている。
間近に迫る、いくつもの巨躯に心臓が口から飛び出しそうなほど、激しく打ち続ける。
行け! 行け! 行け!
もっと速くと、大木の枝だけを見つめ足を動かした。
飛べ!
枝へと手を伸ばす。
足元を駆け抜けて行く猪の群れ……。
手の平はしっかりと枝を掴み、体を枝へとせり上げた。
た、助かった⋯⋯。
太い幹を伝い、ひとまず上へとのぼり、ほどよい枝ぶりの根元に腰を下ろした。
「かはっ、はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」
悲鳴を上げた心臓と肺を落ち着かせていく。額から流れ落ちる汗を拭い、全身の力を抜いた。あとは、ヤツラが過ぎ去ってくれれば、ハイミスリルと共に帰還するだけだ。
肩の力を抜いて、空を見上げる。晴れやかな心を嘲笑うかのような激しい摩擦音が下から届く。
ガリガリ! と獲物を求めるレギアボアス達が我先にと、大木の幹を削っていた。その勢いは今にも太い幹を駆け上がらんばかりで、やり場のなさに顔をしかめてしまう。
辺りを見渡していく。
重なり合う木々の枝。
これを伝って行けば⋯⋯。
イヤ、たどり着けたとしても下の群れもついてきたら街の人間からひんしゅくを買ってしまう。
まいったな。
うん?
シュルルと白く長い影が木々の枝をスルスルと縫ってこちらに向かって来た。
ううんん???
まさか⋯⋯あれは⋯⋯蛇?!!
青年にとってこの世で最も苦手とする生物。
嘘だと言ってくれ。今日はいい日だったはずだ。
ぎゅっと目を、きつく閉じた。見た物が無かった事になるのでは、ただ勘違いで終わるのでは、そんな淡い期待を胸にそっと目を開けていく。
目の前に赤い舌をチロチロと見せる、金眼の白蛇が近づいて来た。
小さな子供ほどであろうか、150Mcはある大きな白蛇を目の前に、思考も体も固まり、シュルシュルと枝を縫う白蛇を見つめる事しか出来ない。
あれ? 何でこうなった?
何でこうなっているの?
本気か?
サラサラ葉を揺らす爽やかな風も感じず、途方に暮れる。
上も下もまさかの逃げ道なし、今日はラッキーデイだったのでは?
誰か嘘だと言ってくれ。
初めての投稿でドキドキしますね。
“ド”ストレートなファンタジーを書いてみたいと思い初めてみました。
宜しくお願い致します。
しかし主人公が逃げ回ってるだけで調教師出てこない所か主人公の名前すら出て来なかった。




