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Scene2

 御守夜子は《探偵》である。


 夜子は《探偵》である養父の助手なので、厳密に言えば《探偵》ではないが――。

すでに彼女の働きは助手の域を越えているため、周りの人間達は夜子を《探偵》として扱っている。――本人はあくまで助手だと言い張ってはいるが。


 それはさておき。

ここでいう《探偵》とは人探しをしたり、浮気調査をしたり――そういった「人間」相手の仕事ではない。

まず《探偵》が探すのは、人に成り代わった(・・・・・・・・)《異形の者》達だ。

どこかの誰かの姿と記憶を奪った《異形の者》を見つけ出し、場合によっては専用の《武器》を用いて排除する。

それが《対異形探偵》の仕事だ。


 夜子は、《対異形探偵》を生業とする老人に育てられた。

 その老人というのが、対異形探偵業界でも五指に入るとまで言われた人で――つまり彼女がこの業界に飛び込むことになるのも、ある意味自然の流れだった。

 さて――。

 対異形探偵の追う《異形の者》は、文字どおり人間とは姿形が違う。もちろん限りなく人間に近しい姿の者もいるが、やはりどこかしらが人間とは違っていた。

また形だけではなく、彼らは持っている「力」も人間よりも遥かに強大だった。

腕力の強さは当然のこと、《異形の者》は人間にはない不可思議な力を持っていたのだ。

ある者は火柱を巻き起こし、ある者はこの世に境界を作り人間を閉じ込めるといった奇妙な術を使った。

特異な外見と異能――。それゆえに《異形の者》はかつて、妖怪や悪魔と呼ばれ恐れられた。

――時には、神と崇められることもあった。 

 だがしかし、人知を超える力を持つ彼らとて完璧な存在ではない。《異形の者》にはある弱点があった。

 彼らは異形の姿のままだと、人間がほとんどのこの世(・・・)では衰弱してしまうのだ。


 理由はいまだ判明していない。むしろ当事者である彼ら自身もなぜかはわかっていないだろう。わかるのは異形の姿を現世の空気に晒していると、だんだんと体が弱っていってしまう――ただそれだけだ。

 異形が持つ力は強大だ。だがそれは本性と呼ばれる異形の生まれ持った姿でなければ全力を発揮できない。しかし本性のままでいれば体が病みつき――いずれは死に至る。


 ――だから《異形の者》は、人間の皮を被ることにした。


 肌に痛い外気も、人間に変じていれば脅威ではない。本来の力こそ使えないが、緩やかな死を迎えるよりはましだ。

しかも人間の姿を奪う際に流れる血も啜れば、腹も満たされる。人間の血を欲する《異形の者》にとっては一石二鳥だ。

 そう――。《異形の者》は、人間の血肉を好む。

これもまた詳細な理由はわからない。

腹が減るからだと笑いながら言う異形もいれば、口にせねば渇いて死んでしまうと涙する異形もいる。なかには意味など無い、本能だと言う異形もいた。

これは《異形の者》を研究する《機関》の見解だが――彼ら異形は人間のとるような食事だけでは満たされず、それだけではいずれ飢渇するのだそうだ。

 つまり人間の血肉は、彼ら異形が生きるために必要なエネルギー源であるのだろう。


 まるで、人間を害するために生まれてきた存在だ――。


《異形の者》についてそう憎々しげに言う者がいる。――が、実は一概にそうだとは言い切れない。

 神と崇められた《異形の者》のなかには、その異能の力を以って人間を救ってきた者がいた。また人間に好意を持つ《異形の者》は、人肉を喰らおうとする同族を止めるべく戦ってきた。


人間に力を貸す異形もいるのだ。


 彼らは自身の血肉を欲する(さが)を律し、人間と共存しようと力を尽くしている。どうしても渇く――と涙しながらも、人間と共に生きたいと願っているのだ。


 人間の姿を奪い隠れ蓑にし、人間を喰らう捕食者。

 人間を慈しみ守り、手を取り合うことを望む新たな友。


《異形の者》とて一枚岩ではないのだ。


 改めて《探偵》とは――。

 人間に牙を剥く《異形の者》に特別な《武器》と《装備》をもって立ち向かう戦士であると同時に、人間と共に生きることを望む《異形の者》と人間の仲を取り持つ仲介者である。

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