未習得スキル:◾︎◾︎◾︎◾︎がありません
「ふう……さて休憩終了」
《これからどうしますか?》
勿論、食べた以上、スキルを強化するに決まっている。
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兵種:少年斥候Lv3
状態:
余剰kcal:3,581
消費kcal/h:95
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スキル:
基礎体力向上Lv3、小休止Lv3、野鳥観察Lv3、
害虫除けLv10、猛獣除けLv1、ナイフ術Lv3
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「クオヴァディス、この余剰kcalっていうのがスキル強化に使える数値なんだよな?」
《その通りです》
現在値は3,581kcalとなっている。
BBQのお陰で余剰kcalが大分溜まったな。
何故、口に入れたばかりの食事をすぐエネルギーに還元できているのかは疑問だ。
深く考えると怖くなるのでその件について今は掘り下げないことにしよう。
「余剰がゼロになるとどうなるんだ?」
《当然の原理として低血糖や飢餓を引き起こします》
「……あれか」
そういえば既に二度体験していたな。
寒気がして目眩がして立っていられなくなったのを思い出す。
だが大事なのは数字の上でなら最大で20回くらい強化できるという事実だ。
今できる強化とするとやはりナイフ術か猛獣除けの二択か。
「……そういえば猛獣除けは意味なかったじゃん」
せっかく取得したのに唐獅子には有効じゃなかったんだよな。
やはりLevelが低かったせいだろうか。
《効果はゼロではありませんでしたよ》
「どういうこと?」
《獅子が突進した際、臭いを嫌がって勢いを緩めていました》
「そうなの?」
携帯端末に何かが再生される。
いつの間に撮影したのか唐獅子が突進してきた場面の動画だった。
唐獅子が接触してきた瞬間、僅かに躊躇するように速度を緩めている。
えらい勢いで突進されたわりに押し潰されずに軽傷で済んだのは変だなとは思ってたが、これが理由か。
動揺していてそれどころじゃなかったから気づかなかった。
つまり猛獣除けがなかったら骨折くらいしてたかもしれなかったのか。
「ならもっと強化を進めてもいいのか。……でも欲を言えば新しいスキルが欲しいんだよなあ」
現状、選択肢の幅が狭い。
少年斥候の基本スキル三つと猛獣除けにナイフ術だけだ。
兵種を最大Levelまで強化した後でなら、新しいスキルを得られるのだろうが、そこまで駒を進めるにはコストが足りない。
《ありますよ未習得スキル》
「は?」
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未習得スキル:
検閲校正、止血、ジャミング、浄水、
クリック音、火打ち石、神経毒、
蝋燭、◾︎◾︎◾︎◾︎
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《現在習得可能なスキルは八種類です》
難しく考えていたのに問題があっさりと解決してしまった。
未習得スキルってこんなあったの?
「ええっとこういうの最初の段階で教えといてほしかったんだけど……」
《操作中に気付ける設計になっているので説明をスルーしてました》
確かにスキルの強化を選択しようとしたら勝手に一覧表示される仕様になってるな。
音声操作に任せっきりで要所要所でしか画面を見てなかったので気付かなかった。
「せっかくだから吟味していくか」
名前だけでなんとなく把握できるスキルもあるけど、なんじゃこりゃってのもあるな。
アイコンを一通り選択して、説明書きを咀嚼する。
「うーん……生活面で役に立ちそうなのは火打ち石と蝋燭かな」
火打ち石は指パッチンで火を起こし、蝋燭は掌から可燃性の汗を出せるようになるらしい。
だけどどっちもライターや懐中電灯という道具が存在するから必要ないんだよな。
《両方の能力を最大強化&併用すると小動物程度なら一瞬で灰にできます(*⁰▿⁰*)》
「……ほう」
《でも使う毎に大量のカロリーを消費しちゃいます》
「うーん」
唐獅子みたいなのに襲われた時には使えそうだけどカロリーが惜しい。
それなら神経毒の方が有用そうだけど……これはこれで説明書きを読む限り前提条件が面倒臭そうだな。
「まあ戦闘は極力避けたいけど……他にそっち方面で役に立つのは止血かな」
大怪我はしたくないけど、万が一の可能性もある。
出血多量で死ぬこともあるしできれば取得したいスキルだ。
《ドローン戦を考えるならジャミングもお勧めします》
「何ができるんだ?」
《距離欺瞞、方位欺瞞、速度欺瞞……強化すればほぼ無力化できるでしょう》
ドローンにはもう二度と会いたくないが、わりと遭遇頻度が高そうなんだよな。
だからジャミングは最優先取得候補だ。
「逆になんの利益があるのか不明なものもあるな……検閲校正とクリック音?」
検閲校正は「誤字脱字などを瞬時に見抜ける」というもの。
元の時代なら有益かもしれないけど、今の状況ではかなり役立たずだ。
クリック音の「口蓋から鋭い破擦音を発生させる」に至っては意味が分からない。
「これどんな状況下で必要になるの?」
《すべてのスキルは最大レベルまで強化すると派生スキル或いはよりグレードの高いスキルが得られるようになります》
「つまり役に立たなさそうでも後々役に立つかもってこと?」
《ですです》
ということは一見無意味なこの二つのスキルも意味があるってことなのか。
役立たずを最強に育成するスキル錬金術には正直興味はある。
ただそのレベルに至るまで費やすほど、カロリーは潤沢ではないんだよなあ……。
「ところでクオヴァディスさんこの隅っこにあるスキルは何?」
多種多様なスキルに目移りしつつも、最も気になるのはやはり◾︎◾︎◾︎◾︎だった。
名称が黒塗りされたみたいなこのアイコンはイラストがなく説明書きもない。
《どれですか?》
「いやこの◾︎◾︎◾︎◾︎だよ」
いや隅っこにあるじゃんか。
クオヴァディスがまるで認識できてないみたいな反応をするので試しにアイコンをタップしてみる。
《どれですか……^_^;》
「これだけど……いや……何そのリアクション」
画面についた塵とか傷かと思ったが間違いないなくそこに表示されている。
だが何度タップしても獲得できる気配がないどころか反応すらない。
「どうなってんだこれ……」
怖くなってきたのでそれ以上、謎の◾︎◾︎◾︎◾︎については触れないことにした。
もしかしてこれバグ表示なのか。
この生存戦略自体試作品であるらしいからその可能性は捨てきれない。
まあ取得できないものはできないのだろうし、気を取り直して強化作業を進めるしかない。
「うーんまずはこいつかな」
《ジャミングを獲得しました》
ジャミングは「任意」で妨害電波を発生させるスキルらしい。
試しに使用してみると指先にぼんやりした何かを微かに感じる。
「また遭遇したら嫌だからもう少し上げておくか」
《ジャミングがLevel2になりました》
《ジャミングがLevel3になりました》
《ジャミングがLevel4になりました》
《ジャミングがLevel5になりました》
「こんなものかな?」
《これだけ上げれば軍用ドローンに照準されても解除が可能です》
十分通用するレベルだな。
もしまたキグルイドローンに襲われた際、逃走の手助けにはなるはずだ。
勿論、「何故、軍用ドローンに通じるなどと分かるのか」という疑問については飲み込むことにした。
モノリス社ヤバイな。
完全に真っ黒。違う意味でブラック企業だな。
さすがはDNAからミサイル技術までなんでも取り扱ってると謳うだけはある。
まあ民間人にマイクロチップ飲ませて人体実験してる時点でアウトだけどね。
「さて、あとはどのスキルを強化するかな」
神経毒:
指先から任意で神経毒を含んだ体液を発生させる可能になります。
但し使用には経口摂取したアルカロイドを蓄積させる必要があります。
※耐性:神経毒スキル保有者でなければ、麻痺症状があらわれます。