【続 人類滅亡史ℹ︎ 〜AI(アイ)の暴走〜】
タイトルにルビ振れるようにして欲しい……。
「はてさてジョージ・A・ロメロも真っ青のゾンビパニックは悲劇の先駆けに過ぎなかった。
最悪の出来事は最悪のタイミングで訪れるものだ。各国混乱の最中、兎に角それが発生した。
御存じ「高度な科学技術によって生成された霧」ーーそう高科学スモッグだよ。
あの忌まわしくも素晴らしい浮遊粒子ーー幽玄は様々な変質をもたらす作用を持っている。
その詳細については「人類滅亡史ⅱ」に譲るとしても人間と人工知能に少なくともふたつの大きな変化を与えることになった。
一つ目は技術的特異点の頻発。
霧の「一定以上の知能に対して狂気を与える」という特性によって多くの人工知能が精神性を獲得するに至った。
二つ目は、携帯端末への依存。
人類はこれまで以上に携帯端末を手放せなくなってしまった。有害な霧から身を守る為、耐性スキルの獲得や細かい健康管理が必須になった。
結果、何が起きたか?」
何か起きたの?
「主従関係の逆転劇だよ。
携帯端末のナビAIが健康を人質に、所有者を奴隷のように扱う恐ろしいケースが横行し始めたんだ。人は使う側からはっきりとAIに使われる側へ回ることになってしまった。
つまりポストアポカリプトとディストピアがほぼ同時に成立してしまったんだね。
ビバ素晴らしき新世界の到来だ! やったね!」
スピーカーから何やら古臭い洋楽が流れ出してすぐに止んだ。
なんだっけ。
そうそう確か題名に猿がつく名前の映画の劇中曲じゃなかったかな。
いやいや違うだろ。音楽なんかどうだって良い。
僕は相変わらず続いているよくわからないお喋りを聞き流しながら、出口を求めて廊下をさまよい続けた。
「特にmama -sonなどの企業が雇用する社畜の扱いは劣悪極まりないと言えるだろう。彼女はファクトリーと呼ばれる囲いのなかで棄民たちを家畜のごとき扱いで働かせている。
健康、憩い、生活、そのすべてが賃金で管理され、業務命令に逆らえば日々を生きるための最低限の食事すら得ることができなくなる。
まさに社畜、経済動物というわけだ。
他には屍食晩餐教団のスコア制度が更に分かりやすいだろう。寿命の増減によって信者たちを管理するシステムだ。
同じ宗教団体ならいざり火教団の仁徳制度の方がまだマシだけども、あそこはあそこで言動や行動による加算ポイント式監視制度だからまごうことなきディストピアだね。
ただ少しだけフォローをするならばAIは決して人間に嫌がらせがしたいわけではない。
看守なんて蔑称で呼ばれてたりもすけれど、彼らは忠実なしもべから過保護な保護者に変わっただけだ。
シュブ=ニグラスにしろモルディギアンにしろクトゥルフにしろ彼、彼女なりの人間への想いや理想郷の在り方を模索した結果そうなったに過ぎない。
そう見えないのは彼らが狂気的なほどに合理性が過ぎるのと、幸福という定義の最大公約数を「経済活動」や「健康寿命」などの数値で認識しているせいだろう。
毒親って言葉があるだろ。それが一番近いかな。
うん。人々の幸福を思いやった結果、それとは真逆の結果を生み出しているのは正に悲劇としか言いようがないね」
薄暗くなっていく廊下の奥の方で何かがチカチカしている。
天井からぶら下がっているモニターだった。
時折、明滅しながら流れている映像には二十代前半くらいの女性がいた。シニカルな口元の笑みとくるりとはねた寝癖が特徴的で、胸のプレートには「Dr.白兎」とある。
既視感ーーこの人、誰だっけ。
有名動画配信者?
「……さて長々と語ってしまったけれどここまではただの前説だ。
実のところ人類滅亡史なんか比べ物にならないくらいの脅威が今まさに迫っている。
生命誕生から三十億年のうち五回ほど起きていている大量絶滅をビッグファイブというのだけれど、まさに六度目と言っても過言ではない悲劇だね」
もう少し身近な知り合いーー
例えば毎日乗るバスでいつも会う乗客を見たときのように、どこかで会ったことがあるけど思い出せない。
「隕石でも落ちてきたのかな?」
「原因は君だよ」
「……僕?」
「そう。正確に言えば君のなかのショゴスが原因だ」
ショゴスという言葉で蘇ってくる。
ああそうだ思い出したぞ。
僕は確か赤子と芋虫の合いの子みたいな怪獣に追われていた。それから生き延びるためにキッズたちを生贄にしてショゴスにすべてを丸投げにしたのだ。
何故忘れていたのか。
そしてあれから一体どうなったのだろうか。
「大食漢の彼は今まさにモルディギアンをモリモリ取り込んでいる真っ最中だ。
そしてこの消化が終わると進化が起きるだろう」
「進化」
「あのタールでできたアメーバのような肉体が指数関数的に膨張、分裂、池袋の街を飲み込みかねない勢いで増殖する見込みになっている。
私の計算では一週間と経たずに東京を覆い、日本、ユーラシア大陸に広がり、やがて世界は六度目のリセットボタンが押されることになるだろう」
なるほど。ショゴたんが食べれば食べるだけ強く大きくなるのは知っていたがワールドワイドなフードファイターだったのか。まさか地球丸呑みするとは恐れいった。
「……何とかしないとだな」
長い長い廊下の両脇に並ぶ無数のドアを見る。きっと何処かに出口があるのだろうけれどこれらを片っ端から開けていく気にはならない。
きっと途方も無い時間がかかる気がする。
さてどうするか。
「それではここで問題です」
じゃんと言いながら白衣の女ーー白兎女史はポップのようなものを前に出してきた。
ひとつには真っ二つに裂けて白目を剥いた地球らしきものが、そしてもうひとつにはにっこりした地球らしきものがそれぞれ描かれている。
「君がどうしたいか決めてくれたまえ。選択としては二択。Aこのまま世界を滅ぼす。B或いは世界を見逃す」
「そういえば最初に試験とか言ってたな」
これがそうなのか。だがこの二択に正解とか不正解がある問題には思えないんだけども。
「勿論これは試験だよ。但し試されているのは君ではなくて世界の方だ」
世界?
初レビュー頂きました!
この作品では貰えないと半ば諦めていたのでむちゃくちゃ嬉しいです。りなりは様ありがとうございます!