BBQをクッキングしましょう
「ふう……隙を突けばいけると思ったけど……かなり上手くいった」
《今のはちょっと無謀だったのでは?》
クオヴァディスの言う通りやり過ごせば済む局面だったかもしれない。
だが考えよりも先に身体が動いていたのだ。
これで立っているのは僕だけになった。
小狡い手だとは言え、これでようやくまともに呼吸ができそうだ。
「それにしてもなんで近場のコンビニに立ち寄るだけで死にかけてんのかね?」
《日本は治安が悪くなったようです》
「まったくだ――……うう目眩が……?」
緊張から解放されたせいか急に目の前が真っ白になった。
慌ててその場に膝を折って貧血の症状をやり過ごす。
《警告! 生存戦略で大量のカロリーを消費しました。生命活動を続けるための基礎代謝に支障が出ております!》
「いや……こうなるって予想はしてたけど……正直どうしろと?」
《何か食べてください》
よろよろと店内に戻って、改めて探して回るが陳列状況は最初のコンビニと大差ない。
缶詰は真っ先に確認したが空っぽで、棚の下にもない。
「見回して目につくのは……あの嫌な臭いのするカップ麺くらいか」
《毒カビラーメンಠ_ಠ》
多分、カロリーは得られるかもしれないが間違いなく体調を崩すだろう。
「まあ贅沢は言ってられないか……ライターはあるから後は……」
《どうするのですか》
「お湯を沸かして三分待つ」
《あの現代アート染みた配色のカビは健康に悪影響を及ぼすはずなので口にすべきではないと進言します》
「仕方ないだろ、毒カビラーメンの他に食べるもののないし。ちょっと風変わりな味の加薬とか香辛料だって割り切ればいけるって」
よろよろとインスタント食品の棚に向かおうとするとふいにクオヴァディスが呼び止めてくる。
《ひらめきました。どうせならもっと栄養価の高いものを食べましょう》
「そんなもの……店内のどこに……?」
《勿論、店内にはありません。店のすぐ外で手に入れることが可能です》
「は?」
クオヴァディスの言葉の意味が分からずにドアの外へと目を向ける。
コンビニを出てすぐ外は駐車場であり、そこには先程まで戦いを繰り広げていたドローンの残骸が残っていた。
他にアスファルトの上に横たわる唐獅子もいる。
瞼を開いたまま円らな目をこちらに向けていた。
確実に頭部を撃ち抜かれ止めを刺されたらしくピクリとも動いてはいない。
血溜まりのなかで放置されたその亡骸を改めて見ると大型犬並みのガタイの良さだ。
確かにあれは新鮮でなかなか可食部分も多そう――。
「――ってあれは食べれないだろ?」
《何故ですか? 肉ではないのですか?》
「いや肉だけどもさ」
《肉とはタンパク質であり脂質であり即ちカロリーに他なりません。そしてカロリーは正義です》
「カロリーは正義……」
無論クオヴァディスの言わんとしていることも分かる。
だが犬なんか食べられるのか?
というのか食べてもいいのか?
大体誰がどうやって捌くんだ?
《レッツクッキング♪》
端末AIがいそいそと野生動物の解体動画をサジェストしてくる。
そして勝手に流れてくる某三分料理番組をBGMにしたジビエの解説音声。
《食べて供養という考え方もありますよ?》
「グイグイくるな……」
グーグーとひたすら空腹を訴えてくる胃とこれまでの人生観とを秤にかけて、悩みに悩んだ末――
「うーん……毒カビラーメンよかマシかー……」
結局、僕はぐっと包丁を握りしめた。
幸い刃物の扱いは上手くなっているから動画を見れば捌けないこともなさそうだ。
あれもしかして、ナイフ術を取得したのってこういうことだったの?
◆
はーいどうも。
本日はコンビニエンスストアALWAYSさんにお邪魔しております。
カウンターをキッチン代わりに、手に入れた食材を加工中です。
今回の食材は、はいこのお肉。
卸したての唐獅子です。
さっきまで吠えたり飛びかかってきたりしていた新鮮な獲れたてですよー。
野生は生きるか死ぬか食うか食われるか。
飽食の時代に生きた我々には忘れがちですが、それこそが決して忘れてはいけない世界の本質なのですね。
で今回はなんとBBQに挑戦です。
私、これまで一人牛丼、一人寿司、一人焼き肉と様々なぼっち飯に挑戦してきましたが一人BBQって初めてだよ。
新境地開拓ですね。
ラーメン店からセラミック包丁の他に、使用可能なチャッカマンと炭を持ってきておいて助かりました。
網と串はコンビニの惣菜用のやつをお借りしています。
味付けはなんと照り焼きです。
そんな調味料何処で手に入れたかって?
実は、この店で素敵なものを見つけまして、それが瓶に入ったこの蜂蜜です。
蜂蜜さんは究極の保存食らしく、保存状態さえきちんとしていれば何千年も保つとか。
素晴らしい。
これにお醤油を混ぜて肉に絡めて、串焼きにしてみました。
「じゃあ早速食べてみたいと思います。……いただきまーす、あぐっ」
よく焼けた串を一本取り上げて、恐る恐る齧りついた。
弾力のある、しっかりした歯応えの肉だ。
そして甘みがあって香ばしい醤油の味が肉汁に混ざって口に広がっていく。
「うわ……なんだこれ……あちっ……うまっ……」
だがまさか自らの手で肉を捌く経験をするとは思わなかった。
料理は苦手ではないしナイフ術スキルとジビエ動画のおかげでわりと上手くいったけどそういう問題ではない。
「はー……まさか異形とはいえ犬を食べるなんてなあ……」
《食犬文化はアジア圏内には多く存在してますし、大昔の日本でも盛んだったようですよ》
知識の話だろ。
基本こっちはペットという認識しかないんだよ。
「第一この惨状を動物愛護団体が知ったら抗議がくるだろ」
《学会と一緒であればですけどね》
犬に似たものを食べるのは非常に抵抗があった。
あったが黙々と食べる。
何故なら餓死して死にたくないからだ。
腹が減っているからだ。
勿論、血抜きが十分じゃないから臭みがひどいし肉は筋張ってるが、肉汁が溢れてくるし歯ごたえがたまらない。
「うう……偽餃子なんかよりも遥かに美味い……」
《泣いているのですか?》
「否……断じて否……! これは……これは心の涎だっ……!」
《自らの計略で仕留めた獲物ともなれば味もひとしおですね?》
「おい」
《冗談です》
何故このAIは、無邪気に人の心を抉るような発言をぶち込んでくるのか。
「クオヴァディスさんて、もしかして人間の負のエネルギーで稼働してるの?」
《まさか御主人様の喜ぶ顔だけがエネルギーです^_^》
「……」
ともあれBBQは本当に美味かった。
きっと言いようのない罪悪感めいたものも香辛料となっているのだろう。
「ええっと鳥獣保護法違反……それから不法侵入に……無銭飲食?」
ここ数時間を振り返り、法律に抵触しそうな行為を振り返ってみる。
結構あるな。
《器物破損と銃刀法違反もですね^_^》
「はははまるっきり犯罪者だな……泣けてくる」
こういう時こそアルコールを入れるのがいいのかもしれない。
ストロングなんちゃらをグイッとやれば現実的な問題のあれこれが一遍に消え失せてハッピーな気分になれるのかも。
店の隅に角瓶が残ってたけどあれまだ飲めるのかな。
「まあでも下戸だし、こんな状況で酔っ払ったら即ゲームオーバーになりそうだから飲まないけどね」
代わりに肉を捌いては焼き、焼いては食べを繰り返す。
動画によれば素人が内臓系をさばくのはヤバイらしいのでそこだけは慎重に避けた。
とりあえずそれだけ気をつければ、お腹壊さないよな……?
PVを見ると徐々に読んでくれる人が増えているみたいですね。
もう暫く、書き溜め分の解放を続けてこうかと思います。
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