下衆野郎はお客様ですか
あらすじ:
なし崩し的に教団との戦闘に入りました。
ドローンたちが虐殺でした。
だがーー。
《《《……?》》》
硝煙が晴れると黒ずみとかしたホッケーマスクのなかにそれはいた。驚くべきことにあれだけの猛攻撃にも関わらず耐え残っている猛者がいた。
迷彩服はぼろぼろだったが人の形ははっきり残っているーー但し膚えも肉もなくそこにあるのは外骨格と、そこから覗く複雑なアクチュエータや駆動装置などで構成された義体。
足元に血溜まりができているので全てではないのだろうが所謂、機械化人間という奴だった。完全にスカイネットからの派遣社員じゃないですか。いるかもくらいには思っていたがいたとはな。まじ世も終末だわ。
メタルボディは交差させていた上腕をぎこちなく解くと半壊したマスクの向こう側にある紅い眼球をピカーと光らせる。
だが流石にダメージを受け過ぎているようだ。
両脚の義肢は既に使い物にはならずガクガクと誤作動を起こしているし、左腕は外れかけてダランとしている。これでは戦闘にはならないのではーー
そう思っているとメタルボディが片眼を赤く光らせデス声で呟いた。
《ALTF4》
「……?」
その瞬間は何も起きなかった。
少なくとも何かが起きたようには見えなかった。てっきり目からレーザー光線くらい出してくるのかと思ったので拍子抜けした直後ーー。
《ノノノノーワーク……ノノノノノ……》
「どうした?」
追撃の準備動作に入ろうとしていたドローン先輩に異変が起きた。
キュイーンと鳴らしていたモーター音が次第に落ちていき、やがてプカプカ浮いたまま動かなくなる。
他のドローンたちも習うように次々に動きが鈍くなっていき射撃をトーンダウンさせ始めーーついに全機が中空に旋回したままプカプカするだけのハリボテと化してしまう。
《スヤァ》《スヤァ》《スヤァ》
「おい仕事中に寝るな!」
これはまずい。半数が一瞬で強制スリープされてしまった。多分、機械のみに有効なスキル。僕自身が使用するジャミングに似た何かだ。地味過ぎてちょっとあれだけど威力は絶大だった。
だが一度に全機対象にはできなかったようだ。幸いドローンはまだ残り五体ほどが残っており、違和感を察知して応援に駆けつけてきた。
《ガガガガッテーム‼︎》《ババババスターッ‼︎》《マザファッ‼︎》
次々と悪態を吐きながら撃沈されていくドローンたち。
辺りを見ると黒焦げに包囲されていた。
左右の通りを塞ぎ、ぎこちなく銃を構えた十人の銃撃を食らったはずのホッケーマスクたちがいた。わずかに動かした口元ーーもしかして奇襲を予期して既にカプセルを噛んでいたのか。死ぬ程負傷することが前提での行動って、まともな考えじゃないぞ。
そしてーー
にゃおおおおおおおううううう
アスファルトを揺らし不気味な鳴き声をあげながら迫ってくる禍々しい存在感。
霧の向こうから信号機を破壊し、アスファルトに穴を開けながら現れる甲殻類にも似た鉄の塊。
そして人の頭がひとつ入りそうなほど巨大な穴の空いた筒を複数束ねた砲台をこちらに向けている。
「やあごきげんよう」
上の方から声がする。
霧のせいでまだはっきりとは見えないが錆喰らいの砲台に黒い外套の人物がいた。
「さすがは貴方だ。素晴らしい。これだけのドローンを操る社畜など幹部でもそういないだろう」
ホッケーマスクたちの親玉らしきその男は上空のドローンを眺めながら温和な口調でそう告げてくる。
当然だろう。高圧的に出る必要がない程、優位なのを自覚しているのだ。立場も弁えず啖呵を切るような愚か者は目の前のビルに砲弾をぶち込めば素直に言うことを聴かせられるのだから。
「えーと油断しているところ悪いけどまだ伏兵が」
《キルユー‼︎ キルユー‼︎》《アハハハハハハハ‼︎》《キルユー‼︎ キルユー‼︎》《アハハハハハハハ‼︎》《キルユー‼︎ キルユー‼︎」》《アハハハハハハハ‼︎》《キルユー‼︎ キルユー‼︎》《アハハハハハハハ‼︎》
ビルの屋上から笑い声をあげながら鳥の群れの如く飛び立ったドローンたち。彼らが上空から次々と弾丸を降らせ始めた。
クオヴァディスさんの仕事舐めんなって話なのだろう。
だがーー
にゃごおおおおおおおお。
銃弾の豪雨は司祭に届く前に、猫ごえに似た咆哮を上げながら砲撃を開始する錆喰らいの腕に薙ぎ払われる。
ドローンたちが素早く散開ーー回避は彼らの方が上手だ。小蝿を払うように振り回す錆喰らいの巨大な鉄の脚もまた届かない。
《《《キルユー‼︎ キルユー‼︎》》》
更にドローンの増援部隊が投入される。全体でどれだけの数が存在するのかは知らないが計二十機はいるな。
錆喰らいが撃墜せんと主砲をあちこちに撃ち放つが命中はせず、一方でドローンたちがマシンガンを降り注がせるが、ことごとく弾き返された。
辺りのビルが破壊され、あちこちで火の手が起こり、地上にはちゅいんちゅいん鉄の雨が降り注ぎ、辺りはまさに戦場と化していた。
◆
「少々、道を尋ねたいがいいかね?」
司祭とやらが戦車を降りながらそう話しかけてくる。流れ弾など気にもしない素ぶりが大物感を漂わせている。
一方僕は流れ弾は怖いわ、ホッケーマスクたちの銃口が一斉にこちらに向けられているわで最悪の状況だったので正座して両手を上げながら無抵抗をアピールしていた。
いざとなれば時間分解も縮地も忍ばせた拳銃もあるので逃げられるはずだが、折角のチャンスだ。キッズたちの情報を得たい。
「銃を下ろしなさい」
一瞬僕に言ったのかと思ったら違った。司祭の言葉に従ったのはホッケーマスクたちの方だった。あれれ。
「君は何か誤解をしている様だ。我々は最初から危害など加えるつもりはない」
「えーとうちのコンビニを占拠したいのでは?」
キッズたちの居場所を聞き出す。素直に教えてくれるとは思えなかったがうまく世間話に持ち込めばヒントくらいは手に入るはず。
「それは誤解だ。たしかに我々はコンビニを探しているがただ利用したいが為だけだ」
「利用」
「都心攻略の為の物資を補給する安全地帯としてね。当然、対価も払うつもりだ」
ふむ案外紳士的な方々なのか。
「貴方方は何が欲しいんですか」
「差し当たっては聖地巡礼の為の生活用品、それから怪物から身を守る為の弾丸が欲しい」
「聖地巡礼ですか?」
「ああ一号線の向こう側だ。我々はそこに用があるのだ」
「……」
東京環状一号線ーー霧の発生源。
まだ誰も辿り着いて戻ってきた者のいない場所。
そこが彼らにとっての聖地であり目指している場所らしい。
何より対価を貰えるならこれは商売じゃないか。怪しげな宗教団体だろうが犯罪者集団だろうが関係はない。
資本主義という名の信仰の元では、お客様は等しく神様である。
戦車を引き連れているからてっきり略奪行為に走ってくるかと思っていたので拍子抜けしたな。
彼の話を聴いて妙な言葉の説得力に安心と高揚を感じている自分がいる。
商売ができて彼らの為に力を貸せるならそれ程喜ばしい事はないがまだ大事なことを訊いていなかった。
《精神干渉を受けています》《洗脳が付与されました》《無気力が付与されました》《多幸感が付与されました》《思考停止が付与されました》