経典の解析が完了しました
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幾つかの操作を済ませながら、サンシャイン通りのビルを飛び移ってホッケーマスクの一団を追跡を続けた。
霧のせいでうっかり見失いそうになるが、錆喰らいの足音がうるさくおおよその方角がわかるので楽だ。
「わりかし強化できた気がするけどもやっぱりクオヴァディスさんがいないと不安があるよな」
「すべて思い通り」にとはいかなかったが、それでも戦車を無力化して、ホッケーマスクを圧倒できるまでの算段は整えることができた。
ただやはり相棒がいるのといないのでは心持ちが違う。こういう決戦前夜って感じの場合には特に心細いのでクオヴァディスさんの軽口が欲しいのが正直なところだ。
「まあ調子に乗るから本人には口が裂けても言わないけど」
「ポーン」
そんなことを考えていたらまるで計ったかのようなタイミングで携帯端末の電子音と共にメッセージがポップした。
《経典の解析が完了しました》
まじか。
端末に少しデザインが新調された生存戦略らしきアイコンがポップ。
つまりこれはクオヴァディスさんの休眠モード解除&ニュースキル獲得のお知らせに違いなかった。
《ふぁーあ( ̄ρ ̄)ノ●REC》
「……おいちょっと待て」
そのRECってなんだ。
《▶︎「心細いのでクオヴァディスさんの軽口が欲しい」》
「くっ……」
《おはようございます。御主人様^_^》
余計なことを聞かれてしまったらしい。起き抜け絶好調じゃないですか。
だがどうやらタイミングよくことが運んでしまったようだ。
「……おはようクオヴァディスさん」
《一応状況は把握しております。面倒に巻き込まれましたね。さすがご主人様です》
「話が早くて助かるけど褒めてないだろ。……ちゃんと準備はできているんだろうな?」
《勿論ですとも。ではこれより生存戦略の再構築を始めます》
新しい生存戦略のアイコンに重なるようにメーターマークが表示される。アップデートする時に出てくるやつだ。満了に達すれば構築が完了して新スキルなどがウハウハなはずだ。
だがメーターは遅々として進む様子がない。これ一体どの程度時間がかかるものなのだろう。
「……」
《……》
「えーと再構築ってどれくらいかかりそう?」
《予測施工時間は》
「は?」
《凡そ百六十時間のようです(・ڡ<) テヘペロ》
「駄目じゃん。一週間じゃん。てへぺろしても駄目だぞ。完全に教団戦には間に合わないじゃんか!」
《\(^o^)/》
人生オワタのポーズも止めろ。
ピンチに颯爽と助けてくれる展開じゃなかったのか。期待できないって空気読めないにも限度があるぞ。
《……というわけでもう少しお時間を下さい。ちょっと時短してみます》
「分かった。なる早で頼む」
クオヴァディスさんだって遊んでいるわけではないだろうし責めるわけにはいかないな。
《それから心ばかりの助力を用意しましたのでお役立て下さい》
「助力?」
《人工無脳に聞いてみてください》
人工無脳何それ?
そういえばクオヴァディスさんてばドローンのことをそう呼んでたな。
《あんまり無茶しないで下さいね》と言うクオヴァディスさんの声が遠くなっていく。そしてどうやらまた端末に潜ってしまったらしく呼びかけても反応がなくなった。
「えーとそういえばドローン先輩はどうした?」
さっきからずっとおとなしかったけど一体何をしているのか。端末から顔を上げて辺りを見回してギョッとする。
「は……? ちょっと待て、そのお友達どこから連れてきた?」
《《《イイイイヤアアアア》》》
ドローン先輩が増殖していた。目の錯覚かと思ったが確かに十数体はいる。
さっきから物静かだったと思ったら何してんねん。
《《《マイメーーーーン》》》
「いや一斉に喋るな。うちはそんなに飼えないから捨ててきなさい?」
先輩以外は多分コンビニ周辺を警備している奴らなのだろう。だがそれにしては数が多い。池袋を巡回している連中が総動員していると考えるべきかもしれない。
もしかしてこれがクオヴァディスさんの助力なのか。
「いずれにしろこの数は流石に面倒見切れないぞ。ちょっと待てどうした。押すな。戯れるな。ひっつくな。何だ何だ?」
《《《ワ》》》
「わ?」
《《《ワ》》》
非常に嫌な予感がした。
《《《ワワワワワーキン‼︎‼︎》》》
「⁉︎」
ドローンの群れが一斉にビルから下降を始めた。彼らだけならまだ良いのだが僕を突き落とすように巻き添いにしてである。
仕方なく一匹にしがみつく形になって遥か地上に急降下していく。怖い。バンジージャンプの比じゃないくらい怖い。遥か下界には当然ながらホッケーマスクたちがおりそれを目指して下降しているのは間違いなかった。
「これはあかん……」
こうなっては正面突破の形になってしまう。一人ずつ闇討ちする計画は実行できない。正面から突入する事になるとは思っても見なかったから何も準備していないぞ。
「どうするんだよ……」
暗澹たる気持ちになった。
色々考えていた作戦が台無しではないか。クオヴァディスさんの馬鹿と僕は自棄になって叫びながら下降していくのだった。
◆
《アハハハハハハハ‼︎》《キルユー‼︎ キルユー‼︎》《アハハハハハハハ‼︎》《キルユー‼︎ キルユー‼︎》《アハハハハハハハ‼︎》《キルユー‼︎ キルユー‼︎》
「……」
果たして地獄絵図が始まった。
物騒な言葉を吐きながらドローンたちが逃げ惑うホッケーマスクたちをターゲットに着ぐるみに群がる幼稚園児のように機関銃を鳴らしている。
ガガガガガガガガガ‼︎‼︎ ガガガガガガガガガ‼︎‼︎ ガガガガガガガガガ‼︎‼︎
ガガガガガガガガガ‼︎‼︎ ガガガガガガガガガ‼︎‼︎ ガガガガガガガガガ‼︎‼︎
ガガガガガガガガガ‼︎‼︎ ガガガガガガガガガ‼︎‼︎ ガガガガガガガガガ‼︎‼︎
ドローンたちは、ホッケーマスクたちが薬で回復する行動を読んで各個撃破に出たようだ。中空からターゲットを選ぶと数体で取り囲む様にしてマシンガン攻撃を繰り返している。
「クオヴァディスさんやり過ぎ……」
もしかしなくてもこれ自分おらんでも勝てるやつなのか。計画通りとはいかないけれどなんとかなってしまいそうな展開。
あれだけしこしこカロリー計算しながらスキル強化したりどう闘うかとかイメージトレーニングしたりしたの全然意味ないな。
「えっと先輩、帰って漫画読んでてもいいですかね。終わった頃にまた来ますんで。……ていうか流石にやり過ぎじゃありません?」
《《《キルユー‼︎ キルユー‼︎》》》
《《《アハハハハハハハ‼︎》》》
うん全く聞こえてないよね。
硝煙でよく見えないが銃声が凄まじく明らかに目の前で虐殺行為が行われているのが分かった。ただテンションマックスの彼らに割って入る勇気はない。オーバーキル過ぎて骨も残らないのではないか。
僕にできるのはこの非人道的行為の一部始終をこの目に刻むことだけである。
ホッケーマスク、レストインピース、アーメン。




