スキルガチャの実験開始です
殺戮衝動ーー
実際「一日一回五分間以上、発作的に殺戮衝動に駆られる。殺人への抵抗が激減する」というもので、何度読んでもデメリットしかない。正真正銘の完全無欠に地雷スキルである。
何故こんな気味の悪いものがアンロックされたのか理由を知りたいものだ。
「そういえばクオヴァディスさんが前言ってたな」
《生存戦略は進化を意図的に促す装置ですが、万能ではありません》とか。
様々なスキルを生成していく過程で、一見不合理にしか見えないスキルを生み出すこともあるとかかんとか。
「だとするとこれがそれか」
ただ殺戮衝動はメリット面が皆無なわけではない。対人戦闘において有利に働く上にPTSDなどの耐性がつくらしい。更にはカンスト後に強力なスキルが取得できる可能性が見込まれるともある。
「まあ普通に考えて却下だな。急に暴れ出すような奴にはなりたくないぞ」
殺戮衝動が役に立つとはとてもではないが思えないし、役に立つとしても取得はしたくない。この環境下で日に五分、殺戮したくてしょうがない衝動に駆られたら単純に寿命縮めるだけだもの。
「さて……他にもまだ未習得のスキルが残ってるわけだけど皮膚迷彩ね」
これは「皮膚を保護色にして周囲に溶け込む」というものでつい先程の戦闘を思い起こさせるスキルだ。
但しプレデターのように完全に不可視の存在になれるわけではないようだ。そうであれば何においてもマストなスキルだがひとつだけ致命的な欠点の記述が説明書きにあった。
「当然、影響を及ぼせる範囲は眼球を除く肉体のみであり衣類などへは影響を与えられない」である。
つまりはあれだ。このスキルを十全に利用したいなら裸で戦えというわけである。古く古来よりある透明人間の致命的欠点その一「服は透明にならない」だ。
いや確かにそれは極論で、都市迷彩柄の衣類などと組み合わせれば多少のメリットはあるだろう。ただあくまで多少であり実用性には欠ける。
「クオヴァディスさんなら《害がないのなら取得してもいいのでは?》とか《裸で戦いましょう》とか面白半分に言ってきそうだが保留でいいな」
スキルを取得するにもカロリーがかかる。使えもしないものに余計な支払いをするくらいならその分のリソースを戦闘準備に回した方がお得である。
「まあ保留にしてもスキルガチャのトークンにするっていう使い道もあるからな」
ストックする利点はスキルガチャーー正式名称「カプセルトイ」のトークンとして、いつでもスロットを回しランダムでひとつ兵種かスキルを得る権利が保持できる点だ。
少なくとも皮膚迷彩と殺人衝動に関しては保留にしていつでもガチャを回せるようにしておこう。
「……ちょっと待てよ。もしやあのスキルとガチャを組み合わせればかなり上手いこと料理できちゃうのでは?」
面白いことを思いついてしまったのでちょっと実験してみるか。
「カプセルトイ」
《起動しました》
《トークンを二枚入れてスロットを回してみよう》
楽しげなアナウンスと共に賑やかなBGMが流れてくると、画面がアンロックされたスキル一覧に切り替わった。
《素敵な可能性に出逢えるよ》
適当にふたつアイコンを放り込むとリールが高速回転し始める。
動体視力のおかげで流れてくるスキルや兵種の名称をひとつひとつ視認できたが確実に欲しいもので止められるかといえば微妙なところだ。
これにハッピートリガーを上乗せしても七割前後が良いところな気がする。そう考えると精密射撃よく手に入れたな。
というわけで実験開始。
「時間分解」
《発動しました》
◆
さてトークンの数も豊富というわけではない為、何度も実験できなかったが結果から言えば首尾は上々だった。
「ここまでやればホッケーマスク相手なら楽勝にのせそうだな。……まあ問題はそこじゃなくて錆喰らいの方だけど」
教団攻略の肝はあの理不尽戦車をどう対処するかだと思っている。
あれとの対峙を極力避けてキッズたちを回収、コンビニは最悪放棄してトンズラする……というのが上出来な流れだと思っている。
先輩にどつかれるので言わないけどね。
ただそんなことを考えていても何が起きるかはぶつかってみないと分からないのが世の中だ。日頃の行いが良いにも関わらずついてない僕なので最悪の最悪を想定しといたほうがいい。
確実に生き残る為にも今こそなけなしのカロリーを叩いてでも今できる限りの強化に専念すべきだろう。
「というわけで仕上げだなーー」
端末をポチり、保留にしていた昇格まで行ってみるとアイコンが五つ現れた。
夜戦兵。
潜伏猟兵。
落下傘兵。
観測手。
斥候小隊。
「よしここまでは問題はなさそうだ」
クオヴァディスさんが不在なので、生存戦略をどこからどこまで使用可能なのか分からないが、この機能も利用できそうだな。
このタイミングで昇格するのは多分得策ではない。何となくクオヴァディスのヴァージョンUPが完了するのを待ってからの方がお得なはずだ。
でも今戦力を増強しなければ錆喰らいには歯が立たないからな。
「……さて今回はアイコンが多種多様だな」
全五種類。最初期の選択ほどではないがバラエティが非常に豊かだ。
月の下で銃を構えた狼男、マンホールの下から視線とナイフを握る手だけをのぞかせたやつ、パラシュートで降下する兵士、単眼鏡と六分儀みたいなものを構えた兵士などなど。
説明書きから察するに、夜戦兵と落下傘兵に関しては限られた状況においてのみ本領を発揮するタイプの兵種であるらしい。
夜だけ戦闘力が上がるのはまだしも高い所からの落下時に適している兵種ってピーキー過ぎて使いものにならなそうだな。
潜伏猟兵は良く分からんが奇襲向きで、観測手は狙撃に関係した技能持ちらしい。
「こういう時にはやはりクオヴァディスさんのアドバイスが欲しくなるなあ」
観測手は単眼鏡を手にした兵士で、足元にはスコープ付きのライフル銃ぽいものが転がっている。恐らくは狙撃関連のスキルが手に入るのだろう。
そしてーー
「うーん斥候小隊ってマジかこれ?」
斥候兵でも斥候長でもなく「小隊」。字面は素朴だが何故か単数ではなく複数を示すーー名前からして異色を放つ兵種。
そのアイコンには陽気な斥候長と目の前で戯れている同じようなヘルメットを被る蜘蛛たち。
注意深く観察すると斥候長の左の五本からは糸が伸びており蜘蛛と繋がっており、更には右掌からは鉤爪の生えた脚。
もしこれが見たままの解釈なのだとすればかなりえげつない感じのスキルが得られる可能性がある。
これまでの健康配慮ゼロ、倫理観マイナス臨界点突破な生存戦略の特性を考えるとあり得ない話ではない。
現時点でかなり人間やめているのだが、もしこれを手にしたら更に一線越えたことになる。正直これは遠慮しておきたいところだ。
「うんこれはないな。例えそうではなくとも絵面的に絶対にこれだけはありえないない。……というわけで無難なこれにしてみるか」
いろいろ悩んだ挙句、僕は五つのアイコンのうちのひとつをポチる事にした。
予約分については誤字脱字など調整しつつ発売日前後まで投稿していく予定です^_^