時間分解がLV10になりました
「教団さん、着実にコンビニに近づいているなあ」
プレデターをふん縛ってから、屋上から屋上へと移動しながらホッケーマスク――何とか教団を追跡する。
彼らは戦車を取り囲んでなにやら怪しげな呪文を連呼すると大通りを移動しつつ、あちこちの建物を捜索し始めていた。
どうやら僕を追い回すのはやめて、コンビニの捜索に注力しだしたようだ。割といい勘していて方向的にこのままだとそう時間もかからずに突き止められそうだ。
「はてさてどう攻めるべきか」
ホッケーマスクたちがコンビニを狙っている事についてはさほど問題視はしていない。仮に場所を突き止められてもほとぼりが冷めるまでどこかに姿を眩まれば済む話だ。
何故なら略奪で得られる物資はたかが知れている。せいぜいが店に陳列した商品であり、それ以上は奪うことはできない。
僕が端末を使った発注を行わず、かつ自動発注の設定を停止にする限り、これ以上品物が並ぶことはないのだ。
ということで――
「先輩、とりあえずコンビニ放棄しません?」
《ダミィイ》
駄目って聞こえるが多分Demit(断る)と言ってるのだろう。いずれにしろ銃口を向けられてしまっている時点で却下なのである。
「ですよねー。言うと思った。……さてキッズどもは何処だろうな」
僕だって逃げるつもりは毛頭ない。
目的があるのだ。
プレデターから得た情報では――半狂乱の状態をなだめつつ脅しつつだったので信憑性は低いのだが――キッズどもは教団連中に捕えられているらしい。
あの戦車の内部というのは流石に無理がありそうなので恐らくは何処か近辺の建物に拘束されているのだろう。
安否は確認できたので問題はどうやって居場所を聞き出して救出するかだ。
近づいてひとりずつ襲ってみて尋問してみるのがベストだと考えている。プレデターのような嗅覚に優れたスキル持ちはいないはずだから慎重にやればやれないことはないか。
「いやはや世話のかかる子供たちだ」
《ゲゲゲゲスイズゴッ》
一瞬「下衆は神様です」って言ってるのかと思ったが違ったか。「お客様は神様」だな。
いやはや全くもってその通りである。商品を仕入れても購入者がいなければお金は入ってこない。商売の為にも攫われたキッズたちは救出しなくてはいけないのだ。
「というわけで社畜しますか」
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兵種:斥候長Lv10
状態:
余剰kcal:17,680
消費kcal/h:342
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スキル:
肉体強化Lv10、小休止Lv10、野鳥観察Lv10、悪臭Lv10、ナイフ術Lv10、ジャミングLv5、暗視Lv10、トリガーハッピーLv1、暗殺術Lv10、忍び足Lv10、警鐘Lv10、動体視力Lv10、射撃統制Lv10、カプセルトイLv1、精密射撃Lv10、縮地Lv1、時間分解Lv1、御神籤Lv1、狙撃Lv1、銃拳道Lv3、心領防壁Lv4
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《起動しました》という無機質なアナウンスと共にステータス画面が開かれた。
何度も開いていたはずだけど強化の為にじっくり眺めるのは久し振りな気がするな。
余剰カロリーにはまだ余裕があるとはいえ、プレデターに追い回されたせいでガッツリ減ってしまった。この潤沢とはいえない状況で何とか教団討伐をするしかないようだ。
「さて、まずはこいつのLvを上げておくか」
《縮地が(略)になりました》
《縮地がLV10になりました》
縮地は短距離移動専門のスキルだったが戦闘だけでなく逃走でも十分使い勝手が良かった。
「霧で視界が悪い都市部」という前提条件があれば長距離を走らずとも敵の視界から外れさえすれば逃げ切れるからである。
何よりあのスキルとの相性が抜群であることを今回知ることができたのは大きい。
《時間分解が(略)になりました》
《時間分解がLV10になりました》
というわけで大盤振る舞いである。今あげた二つのスキルは正直、コスパが非常に宜しくないのだが彼らと戦争となると最大強化せざるを得ない。
何せプレデターだけであの強さだ。
衝突したら最後、何が起きるか分からない。戦闘中に細かい調整なんかしていられないし、ましてや残りのカロリーを考えて節約しながら戦っていたら生き残れないだろう。
明日の御飯は明日考える事にしよう。
《最大利用可能時間が三秒まで引き上げられました》
よしこれで今まで以上にスローモーションで戦える様になった。
ただこれブーストかかってる間、無茶苦茶カロリー消費するんだよなあ。クオヴァディスさん曰く、一秒で千kcalだったか。使った後、強化したはずの身体がギシギシいうしここぞという場面以外では控えるべきだろう。
まあ当然といえば当然の話ではあったが、強スキルである二つともカンストさせるも報酬はないのだった。本当期待してないからいいけどね。
「問題はこれらをどう調理するかだよな」
未習得スキル一覧を開くと見慣れないアイコンがずらり。
いつの間にか何かしらの条件を満たしてアンロックされたスキルが七個も溜まっていた。まだ確定させていない暗視のカンスト報酬を含めると八個もある。
拡張現実、弾性骨格、殺戮衝動、足跡追跡、声帯模写、毒物代謝、皮膚迷彩
どのスキルも戦闘向きではないので取得せずにストックしておいたのだがこの際、解放すべきかもしれない。
説明書きを熟読してみたところうち六つはいずれも何かしらの利用価値があり、ほぼデメリットのないものばかりだった。
拡張現実はいわば射撃統制の汎用版だな。携帯端末の情報が視座に表示されるというもので、必要なら半透明の地図を表示したり、フリーハンドでも生存戦略の操作が可能らしくこの上なく便利そうだ。
「これが便利だって言い切ってしまえる時点でだいぶ人間やめてるな」
弾性骨格は骨にゴムのような弾性が加わるというもの。骨折に抵抗力がつくのが有難いな。前々からこういう怪我予防になるスキルが欲しかった。ただやはり強化次第では腕や脚が鞭の如く伸縮するようで某インド人格闘家になるのは嫌なので取得に迷うところだ。
毒物代謝は所謂venom――昆虫や動物が与えてくる毒を分解排出できる体質が得られるらしい。この世界をサバイバルするには有難いスキルだが今は関係ないな。そもそも人間大の毒蜘蛛がいる世界でどこまで通用するか謎だ。
足跡追跡は名前通りのスキルらしい。追うよりも追われる側なので現状それほど活躍の場のないだろう。
声帯模写。これも名前通りのスキルだ。手札にモノマネが追加されれば酒の席で一目置かれること請け合いだ。強化次第で指向性を持たせたり不快音を発したりできるスキルに派生できると説明にはあった。育て甲斐があるスキルではある。
ひとしきりアイコンを眺めた後、僕は問題のアイコンに頭を悩ませる。
そこには笑顔の男がナイフで、別の男を滅多刺しにしている不気味なイラストが描かれていた。
「この殺戮衝動のスキルだけは名前からしてどうかしているけど内容も大概なんだよなあ」
八話先「【人類滅亡史ℹ︎ 〜AIの暴走〜】」まで投稿予約を入れました。
あと二週間ばかりで書籍が書店に並ぶそうです(実感ない)。
8月7日発売です。よろしくお願いします^_^




