超絶悲報です
更新再開します
血塗れのホッケーマスクが斧を持って一歩ずつ近づいてくる。
たった十数秒ーーそれだけの間にドローン先輩から受けたはずの銃傷は少なくとも見かけ上は完治しきっていた。
肉片がこそげたはずの左肩は元通りに盛り上がり、千切れた左手の指が元通りに復元し、向こう側が見えかけていた脇腹が元通りに塞がっている。
驚異。そして脅威。例のB級ホラー映画に登場する殺しても死なないレイクサイドの殺人鬼がそこにいた。
「……」
ただ警戒すべきはその化け物じみたタフさだけではない。今更ながらに警鐘スキルが注意を促し始めている。
何か仕掛けてくるつもりなのか。
いやこれはーー。
左前方ーー本来何もないはずの車道からの危険を知らせていた。そして一瞬アスファルトの雑草がざざっと揺れる。
「!?」
直感的に右後方へと浅く跳ねていた。
ワンテンポ遅れて虚空から出現するきらめき。鋭い銀色の弧を描く刃物をギリギリで回避する。
「きひひ……社畜の分際でなかなかイイ勘してやがる」
すぐ近くで聴こえるダミ声。だがどれだけ目を凝らしてもそこにいるはずの何かは見えない。
新手だ。
ウルフの認識阻害に似たスキルの遣い手か。
暗視スキルによる赤外線感知にも微かに反応するのみ。辛うじてラグの様な景色の歪みが微かに視えた。
「オマエはフライドチキンの餓鬼どもよりは喰いでがありそうだなあ」
何やら聞き捨てならない言葉を吐きながら猛烈に斬りかかってくるプレデター。
ほぼ視認できない上、フットワークの軽さからくる連続攻撃を繰り出してきて回避が一苦労だ。これはまずいな。
それにしてもいよいよホラー映画じみてきた。あっちが十三日の金曜日でこいつは透明狩猟民族か。他にも機械人間とかいそう。
「えーと生存戦略」
《起動しました》
抑揚のない淡白なアナウンスが哀しいが、生存戦略自体が使用可能なのは有り難かった。
「時間分解スキル」
《発動》
一応パッシブスキルは発動できるようだ。クオヴァディスさん曰く「生存戦略は最低限の機能しか使えない」との事だが何ができて何ができないのだろう。
端末画面でカウントダウンが始まり、引き伸ばされた時間のなかで銀色の斬撃が出現する。コマ送りの状態で軌跡を描き迫ってくるそれを避けつつ踏み込み、虚空に膝蹴りを放つ動作を行いながら考えた。
このまま攻めるべきか否か。
畳み掛ければ目の前にいるはずの透明狩猟民族をノックダウンできそうではある。
後方にいる斧を大きく振りかぶるモーションに入っているホッケーマスクもやってやれないこともない。
問題はその更に向こうにいる連中だろう。
陸橋の瓦礫を越えて続々とやってくるショットガンを背負ったホッケーマスク数名。一人一人相手にする分には勝ち筋がありそうだが、まとめては難しそうだ。
何よりしんがりにはあの恐ろしい戦車が控えているはず。ここで悠長にしていたら砲撃どかんで殺されるのは確実だった。
「よしさっさとズラかろう」
キッズ相手に舐めプするなら兎も角、勝ち目があるか分からない相手にメンチを切るのは僕のポリシーに反する行為だ。
さてスローモーションが切れそうだーー
膝に土壁にめり込みような感触が起きるのと同時に「うげえ」といううめき声が湧いた。オーケー。無事プレデターに攻撃がヒットしたようだ。
ワンテンポ遅れて飛来してきたそれを回避ーー背後の街路樹にずとんと命中。ホッケーマスクが筋骨隆々の身体でフルスイングさせた斧は幹を折らん勢いでめり込んだ。
「悪臭」
掌からSLの煙突の如く勢いで放たれた紅色の煙を拡散させる。うっすら辺りを曇らせながら後ずさるように距離をとる。
「先輩逃げますよ」
《エエエエスケプ》
右往左往していたドローン先輩を小脇に抱えて縮地を連続使用してそのまま路地まで転がり込む。更に縮地を使って距離を離す。
逃げるだけの為にカロリーを大盤振る舞いだったがこうでもしなければ確実にこの場を退散することができないという予感があった。
◆
超絶悲報、コンビニに戻れない件について。
《キルユー! キルユー!》
ダダダダダダダダ。
《キルユー! キルユー!》
ダダダダダダダダ。
困ったことにホッケーマスクたちが包囲網を張っているせいで鬼ごっこする羽目に陥っていた。
あいつらもともと人数が多い上に、ドローン先輩がマシンガンアタックしても謎のおクスリをキメて復活してくるのできりがないのである。
「うわまた復活したよ」
ホッケーマスクたちは全身穴だらけにされてもむくりと起き上がってくる。むしゃむしゃぼりぼりとスナック菓子感覚でカプセル剤を頬張って怪我を治している姿は不気味だ。
というかエリクサーとかポーションてゲームのなかだけだと思ってたけどいつの間にか実用化していたんだね。飲むだけで欠損した肉体が復元するってどういう仕組みなんだろ。
だが問題は彼らよりも透明になって襲ってくるプレデター(仮称)の方だ。
膝蹴りを入れたことを相当根に持っているご様子で、こちらが脚を緩めるとすぐに追いついて奇襲をかけてくるのだ。
「きししどれだけ逃げたって無駄だかんなあ」
「いい加減、ウンザリだな」
まるでストーカーの如くどこに逃げても見つけてくるのは多分、透明化の他にもキッズたちが持っていた嗅覚か聴覚の強化の類いと同じスキルを所持しているからだろう。
「悪臭」
《発動します》
どうにかこうにか追跡をかわして大きめのビルに逃げ込んだ。最上階が映画館になっているアミューズメント系の建物らしい。エレベーターは勿論使用できないので階段を使って上にあがっていく。
「あー面倒臭い。階段上るの辛い」
《アーハン》
「浮いているやつはいいな」
《イヤア》
それにしてもプレデターの「フライドチキンの餓鬼ども」という言葉が気になった。
何よりあいつらは「営業中のコンビニ」を探していた。この池袋にそんなものがあることを彼らはどうやって知ったのか。
あのホッケーマスク集団の出現がウルフたちと関係とあるかもしれないと思うのは果たして邪推だろうか。
ニュースにもなるような危険な犯罪集団なだけにかなり気がかりだった。
チャリーン。
「……ん?」
階段を駆け上がりながら悩んでいると配管工がブロックにアッパーカットするSEが聞こえた。どうやらメールを着信したらしい。
クオヴァディスさんのやつ、マナーモードに設定してなかったのかよ、と悪態をつきつつ端末を操作した僕は物凄くウンザリした気分になった。
差出人:ALWAYS豊島区エリアマネージャ
宛先:社畜様
件名:業務命令




