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無人のコンビニを漁りましょう

書籍版発売は2020年8月7日になりまし。

「うわー……ドアをこじ開けてコンビニ漁ってるのってなんか緊張するな」


天井の蛍光灯は当然のように役目を忘れて、午前中なのに店内は薄暗い。


このコンビニに人がいなくなってからいったいどれだけの月日が経ったのだろうか。

ここで働いていたスタッフや通っていた客たちはいったい何処に消えたのだろうか。


陳列棚を物色して回ってみると、どうにも並んでいる商品自体少なかった。

そして僅かに残っていたものも時間の洗礼を受け殆ど使い物にならない始末だ。


「この際、お金は払わなくてもいいよな? 非常事態だから仕方ないよな?」

≪紙箱に入った石鹸などの生活用品はまだ使えそうですが、プラスチック容器の整髪料とか洗剤系はアウトですね≫

「うーんクオヴァディスは冷静だなあ」

《(-.-)y-》

「さて食料は……うわ」

《チルド系は当然のことながらパンも全滅のようですね》


陳列棚はかつてのおにぎりや弁当、サンドイッチだったものが並んでいた。

だが今はどれも見る影もなく黒ずみ干からび別の何かに変貌している。


「ならこっちの棚だな」


目当てはスナック菓子とカップ麺だ。

日持ちしそうだから大丈夫だろうと思っていたのだけれど――。


「このカラフルな色彩はなに?」

《カビのようです》


なんだかどのスナック菓子も開封した時点で、おかしな色と臭いを発している。

カップ麺も似たような状態になっていて食べられそうにもなかった。


「某ヌードルは持った時点で容器がボロボロと崩れてくるのか」


コンビニだから少しは食料があるはず期待していたが、ここまで絶望的な状況だとは。


「どいつもこいつも情けない。賞味期限なんかに負けるなよ」

《缶詰ならいけるのでは、と進言します》

「それだ」


確かに缶詰なら保存食だからカビたり腐ったりせず安心して食べられるはずだ。

コンビニにもおつまみ系なら置いてあるはず。


「鯖缶、蟹缶、ツナ缶、蒲焼、蜜柑、餡蜜、どこだ?」


だが見当たらない。

探し回って値札が残っている棚を見つけるが、そこには埃が積もっているだけだった。


「……どうなってるんだよ」


這いつくばって棚の下を覗いてみるが埃と塵がたまっているだけ。


「いや試しに探してみるか」

《そんな場所に手を入れても》

「いや、ちょっと待ってくれ。……おっ何かあるぞ」


埃まみれになってようやく戦果があった。

『ツナの味わいノンオイル塩分無添加』だ。

カロリーは一缶190kcalとある。

できればノンオイルじゃなくて塩分たっぷりなのが良かったが仕方ない。


「とりあえずポッケにしまっておくか……後は飲み物が欲しいな」


冷ケースは大昔に故障したらしく開けたら常温だった。

異様に膨らんだ缶コーヒーや見るからに変色したメロンサイダーなどが陳列されており手に取る気にもなれなかった。


バックヤードをのぞいてみると陳列前の段ボールケースに入った大量のミネラルウォーターを発見した。


「全部持ち歩くのは無理だし数本だけ貰っておくか」


他にも目ぼしいものがないか探してみるが、口にできそうなもの見つからなかった。


「……これ以上はなさそうだな」


うわーまじかコンビニにも食料がないって結構絶望的な状況じゃないか。

これからどうすればいいんだ。


――ガサゴソ


「⁉︎」


物音がして俄かに緊張感に包まれた。

手にしていたセラミック包丁をゆっくりと持ち上げ辺りに気を配る。


《ドローンではないようですね》

「……分かってる。これは店内からだ」


耳をすませると物音はレジカウンターの方から聞こえてくる。

だが恐る恐る近づいて覗き込んでみるが何もない。


音は更に奥――半開きになった従業員扉の向こうから聞こえてくるようだ。


《お店の方でしょうか?》

「……どうかな」


人間なら大歓迎だけど化け物クリチャーならばかなり厄介だ。

まだ食料調達が済んでないし外にはドローンがいる。


これ以上、何かが出てくるようなら完全に逃げ場がなくなってしまうので、あえて確認しないのが正解な気がする。


「こういう場合、君子危うきに近寄らずが正解だよな?」

《虎穴に入らずんば虎子を得ずという言葉を御存知ですか?》

「好奇心は猫を殺すとも言う」

《枝先に行かねば――》

「クオヴァディスさん検索してる?」

《故事成語ことわざデジタル大辞典からの引用です》

「ズルいAIめ」

《( ̄3 ̄)〜♪》


緊張感のない会話を交わしつつも物音の正体が気にならないわけではなかった。


もしここに家主が誰かいるのであれば色々助かる。

世界がどうなっているのかとか色々教えてもらえるし、食べ物を分けてもらえるかもしれない。


「どの道暫くここから動けない……ちらっと見るだけだぞ?」

《慎重にお願いします》


足音を立てないように慎重にカウンターの内側に移動して、扉の向こうを覗き込んでみる。

灯のない暗く狭いバックヤードが横に伸びており、差し込んだ僅かな陽ではなかなか見通せない。


「クオヴァディス、ライト」

《ラジャーです》


携帯端末から灯りを送ると、物音の正体が現れた。

床に転がったカップ麺のダンボールを食い破って漁っている動物がいる。


何というか大型犬みたいな獣だ。

みたいなというのは犬にしては体表が青く、鬣のようなくりくりの巻き毛が金色だったからだ。


そして隈取りされた両眼、鋭い犬歯がのぞく大口、それらは特徴的な顔つきをしており、なんとなく小型のライオンに見えなくもない。


「お邪魔しました~」

《どうぞごゆっくり》


いずれにしてもハズレである。

扉を閉めようとしたがそうはいかないようだ。


「……グルルルルルル」

《来ます!》

「マズ、生存戦略起動」


身構えながら早口で告げる。


「猛獣除けを――げふっ」


言いかけている途中で、犬が溜めなしで突進してくる。

カウンターの端から端へと突き飛ばされた。


「痛てて……」

「ガフッガフッガフッ」

「ひい」


兇悪な面構えが眼前にある。

息が荒い。

今にも齧りつかんとする勢いで乱暴に顎門を突き出してくるが――


上手い具合に落ちてきたコーヒーマシンを盾にして防いだ。

今のうちに何かスキルを強化してどうにかしなくてはいけない。


「猛じゅ……いや少年斥候、強化」

《少年斥候のLevelが3になりました》

《基礎体力向上がLv3に、小休止がLv3に、野鳥観察がLv3になりました》

《ナイフ術が解放されました》


とっさの判断が吉を呼んだ。

今の状況におあつらえ向きなスキルが降ってきたようだ。

生存戦略(SC Lv0/公式開示情報・・・・・・):


モノリス社が「健康管理」を目的として開発している携帯型アプリケーションです。

アスリートタイプ(短距離、マラソン、水泳など)を選択することでユーザーは手軽に理想の体型、運動能力を開発できます。

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