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カロリーが足りません(˃̵ᴗ˂̵)ノ 〜終末食べあるきガイドブック 魔物グルメ編 in 池袋〜  作者: 大場鳩太郎
第二章

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東京はダンジョン化したようです

《兄ちゃんお代わりは?》

「大盛りでお願いします」

《あいよ》


食事をしながら、地下商業施設で見つけたラジオの所有者についての話が続いた。

僕はステーキ丼に舌鼓を打つ役割に徹しているので、喋るのはクオヴァディスに任せている。幸せだ。


《いずれにせよ。そいつは池袋まで到達したわけで猛者やろな》

《池袋までこれたグールは猛者ですか?》

《せや。ちなみに「環状線」をどれだけ越境できるかでグールの実力はわかる》


東京都は都心に向かうほど霧の濃度が上がり、生態系の乱れが激化――恐ろしい怪物が出没する仕組みになっているらしい。


「環状線」――東京環状線は都心に向かって半径16km範囲で八号線から一号線からまで存在する環状道路だ。


だからこの環状線を越境すればするほどに危険度が上がるので指標代わりにされているそうだ。


《大外回りにある東京外環自動車道は「魔窟の入口」呼ばれて、そこから先はまずアマチュアは立ち寄れん》


外環を渡る場合、怪物の凶暴さ以上に、霧の濃度が問題になるそうだ。毒性が一気に上がり、越境にはプロ仕様の防毒マスクが必要になる。


仮にマスクがあっても耐性のない者は目眩や吐き気に襲われる。耐性があっても長時間の滞在ともなれば確実に寿命を削られ、最悪の場合は廃人或いは死に至るらしい。


《例えるなら環状線は、RPGのダンジョンにおける階層みたいなものですね》


なるほど。外環自動車道が入口、八号線が最浅層。

数字が減っていく毎に難易度が上がっていき、魔物も毒も凶暴性を増していく。

そして都心の中心――環状一号線が最下層になるわけだ。

まさに東京は魔窟ダンジョンだね。


《さしずめこの池袋は環状六号線なので中階層くらいでしょうか》

《池袋は蜘蛛の砦呼ばれとる場所でな、多くのグールから敬遠されとる例外中の例外なんや》

「……」


環状六号線のなかでも過酷な場所だった。

僕はそんな場所に放置されていたのか。我ながらよく生き残ったな。自分で自分を褒めてやりたい。


《グールさんたちは何故そんな危険をおかしてまで東京にくるですか?》

《外側はもうあらかた掘りつくされとるからな。良いもんディグるには危険な場所まで行かなあかん》


国道十六号線から外環までは、放棄された都市でも比較的霧の薄い地域。その辺りは立入り易いが故に「品薄状態」らしい。


都心は恐ろしい場所だからこそ品揃えが豊富――電化製品を始めとする品々がたんまり残っている。グールたちが環状線を越えたがるのは道理だった。


掘りおこしディグは稼ぎがええ。家電や保存食、衣類。それから企業が買い取るから怪物どもの死骸も金になる》


人里はインフラがまともに機能していないそうだ。旧時代から僅かに残った絞りかすのような技術に依存しているらしい。資源や物資の奪い合いも日常茶飯事で、仮に供給があっても質が悪い。


だから旧時代の商品を掘り返す行為は忌み嫌われる反面、大いに需要はあるそうだ。


《何より運良く新製品ギズモでも見つけたらそれこそ遊んで暮らせるようになる》

《新製品ですか?》


《これやでえ》と八号は弄っていたそれをまな板の上にそっと置いてみせた。


《ラジオじゃないですか?》


ラジオ――言うまでもなく僕らが地下商業施設から持って帰ってきた品である。

オンボロという程ではないが、どうみても新製品ではない。ただの量産品だが一体。


《これをこう……きえーい!》

《おじいちゃん!?(T . T)》


八号は何を思ったのか突然握っていた出刃庖丁をラジオに叩きつけた。それも一度のみならず目にも留まらぬ速さで何度も斬りつける。斬りつける。斬りつける。


うん確か安いお肉を柔らかくする方法があったけど、ラジオにも有効なのかな。叩くと受信感度があがるのかな。それにしても力込めすぎでは?


《驚かせてすんまへん。東京歩くとたまにこういうおかしな工業製品が拾えるねん》


「おかしな」という言葉が、ラジオの状態を指していることに暫くして気づいた。


《無傷?》


あれだけ凄まじい攻撃を浴びたにもかかわらず破片ひとつ散っていないし凹みひびもない。さすがは日本製品と言いたいところだがそういうレベルを超越している。


《新製品と書いてギズモちゅうてな。ほれ、商標の©︎のところ見てみい》


八号が指した、ラジオの電池カバー付近に©︎Unbreakableという文字が刻まれている。商標はだいたいメーカー名や商品名になっていることが多いが馴染みのない名称だ。商標の他に商品情報らしきものも見当たらない。


直訳すると「破壊不可能」だろうか。


《これがついとるシリーズはどんだけ乱暴に扱っても傷一つつかん。極端な話、ミサイル喰らっても壊れんやろな》


そんな馬鹿なと言いたかったが、このラジオの異常な耐久性ならありえるかもしれない。一見プラスチック製にしか見えない表面は、にもかかわらず、舐めるように見ても小さな傷一つ付いていなかった。


《ちなみになんでそんなことが分かるか、言うたらわいの出刃包丁「斬鉄さん」も同じシリーズやからや》


八号はそう言って、今しがた使用した出刃庖丁を見せてくれる。刃の持ち手に近い部分には銘の代わりに©︎Unbreakableの文字が刻まれていた。


刃は今しがた研いだばかりのような鋭さだ。ラジオを相当叩いたのに刃こぼれ一つしていなかった。そういえば巨大首狩兎を一刀両断したのもこの包丁だ。


象に踏まれても壊れないというキャッチフレーズの腕時計があるけどミサイルで壊れないラジオや包丁は初めてだ。


《不思議ですね。どんな素材なのでしょうか》

《そういうのが分からんのが新製品なんや》


新製品は東京をブラつくとたまに拾えるらしい。

例えば、車道とか歩道に転がっていたり、薬局のマスコット人形の上に置いてあったり、コンビニの雑貨売場に紛れてたり、或いはヤーさんの事務所の金庫に保管されていたりするそうだ。


「斬鉄さん」も杉並区のマンションの壁に刺さっていたのを偶然見つけて拾ったそうだ。


まさにドロップアイテム。だが何故そんなスペシャルな技術がぽつんと道端に落ちてるんだ?

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