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カロリーが足りません(˃̵ᴗ˂̵)ノ 〜終末食べあるきガイドブック 魔物グルメ編 in 池袋〜  作者: 大場鳩太郎
第二章

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ステーキ丼の時間です

しれっと更新。

いい加減、書溜めをちょっとずつ投下していきます。

「よおしできたで、おまっとさん」

「ゴクリ……」


どんと卓上に差し出された巨大な肉の塊。思わずよだれが出そうになった。


湯気を立て分厚いステーキでどんぶりが隠れて見えない。食べ易いように入った切れ目から肉汁をしたたらせた赤身がのぞいていた。


「たこ八限定メニュー、うさぎステーキ丼やでえ」

「いただきます!」


箸で肉を掴んだ。肉厚が凄まじい。たった一切れに重量がある。


「ほへはふはひひふ(これが兎肉)! ひひへへほはた(生きてて良かった)!」

「宜しゅう召し上がれやでえ」


口に運びながら噛み切れるかな。少し心配になったがそれは杞憂だとかぶりついた瞬間に悟る。


歯に伝わる弾力。心地よい噛み応えに変わり、肉汁とその旨味が溢れ出てくる。飲み物みたいにジューシーな喉越しだ。


《うさうまいようですU(๑╹ᆺ╹)U》

《気に入ってもらえて何よりや。……それにしてもこんな買物籠いっぱいに調味料もろてええのん?》

「へひふはへふははい(是非使ってください)」

《バックパックのなかにも入っているのでそっちも貰ってください》

《うひゃあコンソメに岩塩に粉末出汁の素にターメリック……色々あんなあ。ほな遠慮なく使わせてもらうでえ》

「ほうひはひはふへ(どうぞどうぞお使いください)」

《例のお醤油はまた今度見つけてくるです》

《ぐす……クオちゃんもありがとう……。さあお礼と言ってはなんやけど、これからステーキじゃんじゃか焼くからたんとおあがりやで》

「ははふ(あざす)!」

《たこはち、あざす!》


遠慮なく丼をかきこんだ。

ハラミのような弾力と汁気がたまらない。これは間違いなく生涯ベスト級の赤身肉だろう。

兎に似ていたが自分が知る時代の兎とは明らかに別物の肉だった。


それにしても野生とは思えない風味だ。

ジビエ独特の嫌な臭いがしなかった。八号は兎肉は臭みが強いと言っていたが血抜きなどの下ごしらえによる成果だろうか。


質問してみると《血が臭いゆうんは誤解やな》という回答があった。


「ほうはんへふは(そうなんですか)?」

《血を使った料理だって色々あるやろ。ソーセージとかプティングとか豆腐とか》

「ほふふへは(そういえば)」


ブラッドソーセージくらいなら知っている。ヨーロッパや東アジアでは一般的な、動物の血液が入った腸詰料理だ。


《そもそも臭いゆうても原因は多種多様やで。野生固有のもの、泥や糞、加熱過程での化学変化。血が臭くなるんは腐敗するからや》


八号曰く、それらの臭いを解体過程、調理方法、食材などあらゆる段階で原因別に殺し、時には活かして風味に変えているという。


たしかにこの肉は臭くはないが、風味がちゃんとあった。野趣の味はむしろ濃く残っていて、それが不快ではない。むしろ美味しさとして昇華されていた。


唐獅子でBBQをしたことを思い出した。餓死寸前だったから美味しく食べられはしたが、今覚えばひどい風味だったとも思う。もうあれは二度と食べられないだろう。それが良いことなのか悪いことなのかは分からないが今この瞬間は幸せを噛み締めている。


「はふがははふごふはんははあ(さすがは八号さんだなあ)もぐもぐ」

《さすがは八号と褒めています^_^》

《うへへえ。褒められると照れるでしかし》


八号はノズルをくねらせた。嬉しいらしく踊りのような動作をしながら器用に次のステーキを焼いている。


食材が揃っていても料理の技術が伴わなければ美味しいものは食べられない。僕はそれを実感していた。彼に出会わなければ今でもろくな食事ができなかったろう。


きっと日常的に口にしていたスーパーのパック肉や飲食店の料理もまた素人が知らないような工夫が施されていたんだろう。今はなき時代に思いを馳せずにはいられなかった。


《そいで地下商業施設の探索はどないやった? 他に何かあった?》

「ほへがへふね(それがですね)、ほんなほのをひふへまひは(こんなものを見つけました)」


戦利品であるラジオを見せてみると八号はしげしげと眺めて感心したように唸った。


《ほう。目立った破損もないし保存状態も悪うない。なかなかええ品やな》

《ただのお爺ちゃんラジオでは?》

《馬鹿言うたらあかん。今時の有り合わせの部品の粗悪品ジャンクパーツラジオと比べたら月とスッポンやで》


僕からしてみれば電気量販店に並ぶ安物のラジオにしか見えない。だがこの世界では既に工業製品自体が貴重な存在になっているようだ。


《旧世代のラジオ一個ですら持ち帰ればそこそこの値段で売れる。もし新製品ギズモともなれば幾らで売れるか想像もつかんな》


ギズモ?


八号は喋りながら未だにラジオを眺めたりこすったりつまみを回したりいろいろ弄っていた。まだ何か気になることがあるようだ。


地下商業施設探索の報告は更に続いた。


《なるほどねえこのラジオに空き罐……兄ちゃん以外に人間がいた形跡か……》

《ですです》


次々に投入されるステーキ丼に舌鼓を打ちながら、地下商業施設で起きた出来事を話した。といっても僕自身は食べるのに忙しいので、喋るのはほとんどクオヴァディスに任せている。


《十中八九グールやろな》

《グールとはなんですか?》

《墓暴きと書いてグール。関東くんだりまで出稼ぎにくる連中やな》


墓暴きグール

不気味な呼び名だがなんてことないただの職種であるそうだ。公には認められていないが危険を顧みず東京に眠る旧文明の品々を持ち帰る人々の総称だという。


《うちの屋台の客はたいていグールなんやけど荒くれ者ばかりやね。人里に住めんくなった訳ありとか略奪者とかな》

《ほうロクでもない人種ばかりですね( ͡° ͜ʖ ͡°)》


クレーマーとか多そう。


《まあ案外、気のいい奴らやでえ。おっちゃんの料理、味なんか気にせずうまいうまい食べてくれるからな》


いや八号さんの料理は美味しいですよ。本当です。

定番メニューを頼む気がしないだけだ。だってスライム餡掛け丼、ゲッコーのモツ炒め丼ワームの蒲焼き丼。どれもグロテスクなイメージしか浮かばないから。


墓暴きグール

誰もいない都市をひとつの墓所に例えるならそれを荒らして物品を持ち帰る行為はたしかに墓暴きだろうな。忌み嫌う人も当然いるそうだ。


八号が使う「掘るディグ」という言葉もそこが由来なのだと窺える。


《グールとは御主人様向けに言うところの冒険者ですね》


なるほど、その例えはイメージしやすいかもしれない。一攫千金を求めて命を顧みない荒くれ者ども。過去の遺物を求めて、怪物の跋扈する領域にやってくる存在。それはフィクションで例えるところの冒険者に違いなかった。


《たまに礼儀正しいのもおるけどそっちのが厄介やな。たいていはとんでもない強いうえに、自殺志願者まがいの戦闘狂とか趣味で怪物を解体して廻ってるのとかよくある話や》

「……」


ベテラン冒険者はアクが強いらしい。

確かにどんな職種でも有能な人ほど性格がユニークになる傾向がある。ラジオは持ち主に返したいが、そういうくせ者であれば極力会いたくないものだ。

11月辺りに本にして頂けるというお話を頂きまして改稿作業やら、本業やらに忙殺された年末でした。


本年もどうぞ宜しくお願いします。

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[一言] お、待ってました! 明けましておめでとうございます!
[一言] 更新あざーす。今年もよろしくお願いします
[一言] あけましておめでとうございます、今年も頑張ってください 書籍化……とな……?(ワクワク)
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