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さいたま市まで徒歩8時間かかります

《体内のマイクロチップから情報を受信しています》

「マイクロチップ……ってそんなもの誰がいつの間に取り付けたんだよ」

《御主人様自身がです》


僕?

全く身に覚えがないんだけど。


《治療臨床試験の際に服用されていました》

「治験? アルバイトの?」


眠りに就く前に参加していたあれか。

治療臨床試験というのは新しく開発された薬の効果や安全性を確かめるためのテストだ。


日当六万円×拘束日数という報酬を貰う代わりにそのモニターとして参加していたアルバイトについての記憶を辿る。


「確かに同意書にサインして用途不明の錠剤を飲んだな」

《それですね^_^》


難解な専門用語だらけの同意書が携帯端末に送られてきたので読み飛ばして即記名したのを覚えている。


水なしで飲み干したあれか。

開発中の風邪薬か胃腸薬程度にしか思ってなかったがマイクロチップだったのか。


取り敢えず健康状態が筒抜けな理由は分かった。

まさか犯人が自分だったなんて叙述トリック系のミステリを実体験したみたいな気分だ。


「じゃあ次の質問。このスキルとやらはいったいなんだ?」


テーブルの上で偽餃子の残りを見つけた蟻たちがいつの間にか群がっていた。

掌で払う仕草をすると、小さな黒い群れはわっと散りじりに散っていこうとする。


《虫除けの説明を御所望ですか?》

「いや説明というか……例えばこの害虫除けはどういう現象でこうなる?」

《汗腺から、昆虫が苦手とする刺激臭を含んだ汗を発生させ寄せつけないようにしています》

「うーん……」


人間にとっての汗の役割は体温調整のみのはずだろ。

フェロモンとしての機能も有しているって説を何かで読んだけどあくまで説だ。


いったい何をどうすれば汗腺から蜘蛛や蟻が嫌がるほどの刺激臭を発生できるようになるのか。

ちなみに腕の臭いをすんすんと嗅いでみたが人間には効果がないのか、臭くはなかった。


「そもそもスキルを生み出せる生存戦略……ってなんなんだ?」

《モノリス社が開発した次世代健康管理プログラムです》


モノリス社は治療臨床試験を行なった企業だ。

『人類の幸福に寄与する』と謳い、DNAからミサイル技術までなんでも取り扱う世界的な大企業である。


あからさまに怪しいバイトであったのにもかかわらず僕が参加したのは名の知れた企業が主催していたからに他ならない。


だがさすがに携帯端末ひとつでスキル生成とかカロリー消化とかあり得ないくらいオーバーテクノロジー過ぎるのではないか。


「いやいや絶対軍事目的だろ」


健康管理が目的だったら生存戦略なんて名前つけないもの。

兵種とか言ってる時点でアウトだからね。


《申し訳ありませんが、これ以上は企業秘密です(◞‸◟)》

「どういうこと?」


どうやら生存戦略には情報漏洩防止のプログラムが組まれているらしい。

同意書にサインした時点で、クオヴァディスはそれに縛られてしまったようだ。


何度か説明を求めたが《御主人様では、情報開示に必要なセキュリティクリアランスが不足しています》の一点張りだった。


「……まあいいか」


取り敢えずクオヴァディスを追及するのは止しておこう。

あんまり深く考えるとSAN値が保たない。

スキルは偶然手に入れた物凄い科学技術の恩恵って認識で十分だ。


「優先順位は第一に生き延びるのに必要なスキル習得。第二にスキルをどうこうするための食事だな」


残りの偽餃子をいっぺんに頬張ってみた。

このジャリジャリニチャニチャは間違いなく人生最悪の食感だ。


「とりあえずもう二度と偽餃子は食べない」

《栄養価もさほど高くないのでその意見には賛同します》


もう少しまともなものを口にしたい。

餃子定食などと贅沢は言わない。どこか探せばサバ缶とか米くらいは残っているはず。


まともなものを食べてカロリーとやらを貯めて、生存戦略とやらでスキルを強化しよう。


この先を生き残るために。



外に出ると池袋の街は静まり返っていた。

先程までの騒動が嘘みたいで逆に不気味だが見る限り、化け物の姿はない。


車道の真ん中を我が物顔で闊歩していた昨日の自分を愚かしく思う。

もし霧の向こうから化け物たちが出てきたらいったいどうするつもりだったのか。


《何処へ行かれますか?》

「自宅」

《目的地をさいたま市の自宅に設定しました》


幸いクオヴァディスのナビがあったし、亀裂と雑草だらけだが道路も認識できる程度には残っている。

慎重に移動すればきっと帰れるはずだ。


《御利用される交通機関を指定してください》


タクシーは呼んだって来ないだろうしバスだって走ってはないに違いない。

この濃霧だし廃車が点在している道路状況なので運転は無理そうだ。

まあJRも期待しない方がいいだろうな。


「途中途中でできるだけ食料の確保できそうな場所に立ち寄ろう」

《お任せください……三十メートル先にコンビニエンスストアがあります》

「……そういえばあれをやるのを忘れてたな」


端末を操作して生存戦略を起動させる。

先程、害虫除けを最大まで強化したことで、解放できるようになったスキルを選択しておこう。


害虫殺し

昆虫寄せ

猛獣除け


「なるほど、この中なら吟味するまでもないか」


ポチポチ……と。


《猛獣除けを獲得しました》


猛獣除けは獣全般に効果があるらしい。

このスキルを習得していればあの巨大犬と遭遇した際にも少しは役に立つはずだ。


「とりあえず上げれるだけ上げてみるか」

《カロリーの不足している状態での強化はお勧めしません》

「……むう」


確かに小腹は減っていた。

偽餃子をかなりの量食べたのだがその程度では満腹には至らなかった。


「質問。スキルの強化一回につきどれくらいカロリーが必要なんだ?」

《約300kcal。ショートケーキ1個分ですが少年斥候関連のスキルはその半分で済みます》


そういえば兵種を選ぶ際にそんな情報を聞いた気がするな。

ショートケーキひとつでレベル2ってハードル高いような低いような。


《そろそろ経由地に到着します》

「あれか」


暫く、案内通り歩いていると霧の向こうに見慣れた電光看板が見えてくる。

かなり薄汚れてしまっているが緑の葉っぱついたオレンジマークが目印のALWAYSだ。


関東圏内ならわりとどこでも見かける全国チェーンのコンビニエンスストアだ。

お弁当や惣菜はあまりパッとしないけど変わり種のスイーツが並んでいたり何故か時代劇とか幼児向けアニメとコラボ企画をやったりしてSNSで話題に上がる印象がある。


「当然ながら絶賛閉店中だな」


外から見る限り店の灯りは既に切れており、近づいても誰かがいる気配がない。

ドアを押し開けてみると、鍵もかかっておらずあっさり開いた。


「どうもお邪魔しまーす」

《カロリーはどこだ(°▽°)》

生存戦略(SC Lv1/モノリス社職員開示):

モノリス社が「××××」を目的として開発している携帯型アプリケーションです。

「××××タイプ」(××××、××××、××××)を選択することで訓練を積んでいない民間人でもは手軽に理想の××××能力を開発できます。


これ以上の情報請求にはLv2(研究センター職員)以上のセキュリティクリアランスが必要です。


次回、初戦闘です。

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