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お買い物タイムです

「ヤバそうだから隠れよう」

《ですです^^;》


呑気に喋っていたのを反省しつつ、慌てて手近な京生菓子売場に逃げ込んだ。カウンターに縮こまって身を潜める。


暫くすると――床が微かに揺れて何かが移動している気配。ガラスケース越しに外の様子を窺うと、近づいてくる巨大な大きな影があった。


「リンゴンリンゴンの警報が鳴り止まないんだけど」

《警戒警戒^^;;》


極力戦いたくはない。でも死にたくはない。

何度戦ってもその気持ちは変わらない。おっかなびっくり銃を握りしめ戦闘準備に入った。


「クオヴァディスはマナーモードだぞ」

《^_^b》


ズシンズシンと近づいてくる巨大な影。

照射する複眼や、ガードマン然とした挙動がどことなく手長足長蜘蛛に似通っている。


標的:蜘蛛(名称未設定)

距離:11m

命中率:100%

残弾数:○○●/45


射撃統制によって表示された名称は未設定となっている。ということは別個体なのか。


天井すれすれの位置にある頭部にはサーチライトのように()()()()()()()備わっていた。

いや正確には五つか。ひとつは潰されて昏くなっている。


辺りをビカビカ照射しながらタカアシガニみたいな長くゴツい八本脚がのっしのっしとフロアを闊歩する。


造形としては確かに手長足長よりも一回り大きかったし、足のあちこちに棘のような突起物が生えておりゴツさがあった。


「……行ったか」


幸いタカアシガニはこちらに気づかないまま離れていった。やつはこのフロアをひたすら練り歩いて巡回しているようだ。


神輿入道(みこしにゅうどう)蜘蛛と命名しました》

「第一声がそれなのか」


相棒はつくづくマイペースだ。


「ここにあんなヤバいのがいたんだな」

《最初に訪れた際はたまたま遭遇していなかったのでしょう。幸いでした^_^;》

「……だな女王級まではいかないけど多分、即ゲームオーバーだろ」


ともあれ危機は去った。

神輿入道蜘蛛が暫くこの場所に戻ってくる様子はなさそうだ。今のうちにエスカレーターから地下二階に降りるとしようか。



「なんというか地下一階に比べて若干湿度があるな」


エスカレーターから地下二階に降りる途中で、急にむあっとした空気を肌で感じた。


《不快指数高めですʕ⁎̯͡⁎ʔ༄》


停止したエスカレーターの段を降りながらフロア全体を見通してみるとあちこちで棚が倒れて商品が散乱している。


《床に蔦が張っています》

「ちょっと歩きづらそうだ。何処から生えてるんだろ」


取り敢えずフロアに降りる前に敵影がないか観察しておこう。

レジカウンター付近よし。陳列棚の影よし。注意深く見るが蜘蛛の姿は見当たらないようだ。不審な何かが動くような気配もない。

これなら安心して探索に専念できそうだな。


《目の前に障害物であります》

「む?」


エスカレーターを降りると付近のカート置き場にあったカートがめちゃくちゃになっていた。ひしゃげたり倒れたりまるで震災にでもあったかと思うほどの惨状だ。


原因はカートに埋れている干からびた入道蜘蛛の死骸のようだった。


「他にも何体か死骸が転がっているな」

《どれも複眼が潰されています。ナニモノかにだいぶ前に殺されたようです》


ナニモノか――候補として挙げられるのは唐獅子か。

だが死骸を見る限り損傷箇所は複眼だけ。

急所だけを的確に攻撃するようなスマートな戦い方をあの犬たちがするとは思えない。


カランと音がして、足元を見るとつま先に転がっている金属の塊。


《薬莢のようです》

「なるほど……ナニモノかは人間だな」


まあどうでもいいか。

蜘蛛の死骸の状態から察してもナニモノカが戦闘したのはかなり過去の話だ。遭遇する心配もないだろう。


「厄払いをしてくれたと思えば有難い。じゃあ早速、お買い物タイムだな」

《お買い物♪ お買い物♪ ♪(๑ᴖ◡ᴖ๑)♪》


足元に転がっていた買い物カゴを拾い上げ、倒れたカートを一台起こすと早速、調味料のコーナーに向かった。



「ほー……さすがは都心の食料品店ですな」

《素晴らしい品数ですな》


レジを通り抜けて目的の場所にたどり着くと、棚に種類豊富な調味料の数々がぎっしりと並んでいた。

塩、砂糖、胡椒、唐辛子、勿論お目当ての醤油までちゃんとある。


「目についたものをカゴに放り込んでいきたいところだが……キャパ的に問題あるな」


いっぺんに持って帰るわけにもいかないので品定めが必要だ。


《通販サイトの評価を参考に選別していくのはいかがでしょう》

「じゃあクオヴァディスさん、これと、この塩だとどっちがいいと思う?」

《断然ヒマラヤ紅岩塩です。なんとRAKU¥ENのレビューで星四・五》

「じゃあ次、この和三盆とオーガニックシュガー」

《それならば――》


そんな感じで八号から頼まれた調味料の調達が始まった。

地下で保管されていたためか、使えるものも多そうだ。必要なら後日、また八号と足を運べばいいだろう。


「それにしても件の『常夜』とやらはないなあ」


醤油の棚には濃口、淡口、たまり、再仕込み、白。種類豊富なうえに、さまざまなメーカーの商品が揃っている。だがどれだけ探しても八号さんご執心の品は影も形も見つからなかった。


「一滴で御飯三杯か……」


さすがに話を盛りすぎだと思うけどどんな味かちょっと気になる。

試しにクオバディスで「醤油、常夜」と検索をかけてみた。


《黒樽古醤『常夜』――創業千八百年の老舗醤油ブランドのようです》


宮内庁御用達……ひと瓶三万円……ありえん。

端末に驚きの文句や数字が踊っている。目的の『常夜』はこんなにとんでもないお化け醤油だったようだ。


「いや丼屋台で使って良い醤油じゃないだろ」


どんぶり飯を馬鹿にするわけじゃないけど高級料亭とかで使う類じゃないか。そりゃあ仕上がりの味も変わるわけだよ。


「都内の小金持ちが行くスーパマーケット程度では手に入らないだろうな」

《池袋にお醤油専門店がないか調べてみましょう》


『常夜』は今後も探していこう。だがここにはない。今回は代わりに高級そうな醤油数本を用意するのでこれで許してもらおうではないか。



《そろそろカゴがいっぱいですけど次はどうしますか?》

「ついでだから缶詰のコーナーに向かいたい」

《今、非常食を持ち帰る必要はないのでは?》


確かにレジカゴは調味料でいっぱいだ。これらを持って戻れば八号さんが料理の腕をふるってくれるだろう。


「確かにクオヴァディスさんが言うように今、無理に非常食を持ち帰る必要はない。……非常食はな」

《それはどういう?》

「ミカンにあんみつ、フルーツカクテル」

《はっ……∑(゜Д゜)》

「缶詰には甘味もあるんだ。ステーキ丼を食べた後、サッパリとした食後のデザートが食べたくはならないかね?」

《ステーキ丼を食べるだけに留まらず更にその一手先まで読んでいるとはなんという深慮。さすが閣下です( ̄^ ̄)ゞ》

「うむ」

《食いしん坊万歳。カロリーは正義です\(^o^)/》

「うむ苦しゅうない」


いったいなんの茶番だこれ。

久しぶりの更新でも感想を頂き、ありがとうございます。非常に励みになります^_^

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