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カロリーが足りません(˃̵ᴗ˂̵)ノ 〜終末食べあるきガイドブック 魔物グルメ編 in 池袋〜  作者: 大場鳩太郎
第二章

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御主人様が昇進したようです(╹◡╹)ノ


「ふあぁ……ハロークォヴァディス」


ソファから携帯端末に手を伸ばしてアラームを止める。

かなり疲れていたせいか夢も見ずにぐっすりだったな。


《ハローです御主人様(˃̵ᴗ˂̵)ノ》


呼びかけに応じて、携帯端末が元気良く挨拶を返してくる。


クオヴァディス――暇な時の話し相手や、困りごとの相談役、道に迷った時のナビゲーションなどなんでもござれの優秀AIだ。


「……寝てる間、何かあった?」

《ありました》

「どんな?」

《御主人様が寝言でむにゃむにゃもう食べられないと仰っていました》

「マジか」

《録音を再生します。「むにゃむにゃもう食べられない」》


ホントだ。

止めろ。


この時代に来る前、寝起きはいつも貧血フラフラで食欲もなかったのに、今はシャッキリしていたしお腹も「グー」と鳴る。


池袋駅で女王蜘蛛との戦闘をなんとか生還したのち、僕とクオヴァディスはいつものコンビニに戻ってきていた。


周辺にあるあちこちの建物が破壊されていたり、唐獅子や入道蜘蛛の死骸が転がっていたりしたものの、コンビニの被害はほぼ皆無だった。


窓に飛び散った大量の血の跡――恐らく唐獅子のもの――は後で掃除すればなんとかなるだろう。


店内に置いていたソファに倒れ込むと、今の今まで泥のように眠っていた次第だ。


「クオヴァディス、他に変わったことは?」

《大したことではないのですが御主人様に辞令がきました》

「それ寝言より大事な案件じゃない?」


クオヴァディスの報告によると「上」から辞令が下りてきたようだ。

「上」といっても具体的には何処からかは知らないがとにかくまあコンビニを経営している偉い人(多分人じゃない)だ。


《おめでとうございます。御主人様はどうやら店長に昇進されたようです(*^o^*)ノ+.☆゜》

「おお、やったー」


昨日、ゴリラ店長から仰せつかった業務命令である「エリアマネージャー救出」と「女王蜘蛛討伐」という戦果を偶然にも果たしてしまったのだがそれが評価されたのだろう。


ちなみにエリアマネージャーであるドローンは、駅からの帰り道に蜘蛛糸に雁字搦めにされているところを発見した。

既にオシャカ――もとい殉職されていたので正確には救出にはならなかったかもしれないが、成果は成果である。


「アルバイトから一気に店長か。ということは実質このコンビニは僕のものになったってことだな」

《正確には違いますが概ねそうですね》

「アルバイトの身分だとちょっと肩身が狭かったんだけど、これで堂々と業務中にダラダラできる」

《既にソファー持ってきて業務時間をフル活用して食べて寝るだけの生活を送っていますよね^_^;》


人聞きが悪いな。

まあその通りだけど。


「それで給料は当然上がったの?」

《勿論です。何と日給千円になりました》


アルバイトの時は五十円という全国最低賃金ランキングも真っ青な時給だったけど、さすがに店長という待遇ともなればそれなりの金額が貰えるようだ。


「うーわい……って時給じゃない!?︎」

《日給月給です》


更新された契約書を確認する限り冗談ではないようだ。

日給千円ってどこの国だよ?


《これまで十八時間近く勤務して時給五十円だったわけで……もらえる額はそう変わらないですね》

「ええっと……うわ……死ぬような思いをして女王蜘蛛を倒したのに結局、一日百円ぽっちしか増収がない」


骨折り損のくたびれ儲けだな。

あと日給月給制ってブラック企業がよく採用してる給与控除できたりするやつだ。

難癖つけられて天引きされたりしないよな。


「だがなあ雀の涙の給与なんかどうでもいい。肝心なのはそこではないのだ」


このコンビニの店長となったことで、アルバイトではできなかった業務ができるはずだった。


「クオヴァディス」

《はい発注ですね。携帯端末から操作可能になっております》


端末を見るとalwaysのロゴマークのアイコンが増えている。

起動させてみると見慣れない画面に移る。ずらりと並んだ商品名の横に数量を入れられるようになっているスプレットシートだ。


「おお素晴らしい」


どうせこのコンビニに客など来ない。

だから自分の好きなものを好きなだけ取り寄せることができる。

実質、ネットショッピングが可能になったようなものだ。


これで一生食いっぱぐれないで済むしライトミート以外の食料を頼むことができるはず。


「さっそくどんな商品が頼めるか確認しよう……か?」

《どうなさいましたか?》


項目の欄を食品に変更してみるとライトミート以外にも商品の名称が現れた。

ただ数えるほどしかない。

即ちミドルミートとヘヴィミートである。


「えー……とこれ以外の食品はどこ? カップ麺はどこ? レトルトカレーとか鯖缶は?」

《ありました》

「嘘どこ?」

《娯楽用品の項目です》


ほっとしながら指定された項目を確認すると確かにカップ麺がある。


「ほほう……醤油、塩、トマト、シーフードみたいな定番意外にもバリエーションがあるのが素晴らしい」

《御主人様^_^;》

「うん? クオヴァディスは豚骨味と激辛ハラペーニョ味どっちが気になる?」

《どちらも注文するのは難しいようです》

「どういうこと?」

《単価を御覧ください》

「ええっと……いちじゅうひゃくせん……カップ麺が百万円ってどういうことだよ‼︎」


安くて手軽で美味しいのがカップ麺の良いところだろうが!


明らかに桁がおかしい。

どんだけ高級素材を駆使した嗜好品なんだよ。金粉が混じっててもこうはならないぞ。


大体これ売価じゃなくて原価のはずだから実際はもっと高くなるんじゃないのか。


おまけに数量をタップしてみるが反応しない。どういうことだ。


「商品名が灰色表示になってるな」

《只今、欠品扱いになっており発注できません》

「欠品……品切れってことか。えー……せっかく楽しみにしてたのにそりゃあないだろ?」


ガックリと心がくじけてしまった。

いったいなんのために、命を懸けて女王蜘蛛を倒したのか。あれだけ何度も死にそうな目に遭って頑張ったのはカップ麺を食べたいというただそれだけのためだったのだ。


「はいというわけで解散しまーす。今日はもう終了です。今日はもう寝ます。おやすみなさーい」

《起床したばかりではΣ('◉⌓◉’)!?》

「無理……テンションが……一気に落ちた……」


ああでも、ふて寝する前にミドルミートとヘヴィミートの発注はかけておくか。

どっちも三十ケースずつポチポチ……と。はい今日のお仕事はおしまいです。

さよーならー。


《そんなやさぐれた御主人様にお勧めな商品があります》

「何?」

《娯楽用品の項目にあった素敵な観葉植物です》

「ガーデニングの趣味はないんだけど?」

《この植物、見た目も綺麗なんですが、なんと樹脂を使ったアロマセラピーにも活用できるようです》

「へーそうなんだ」

《匂いを嗅ぐだけで何故か気分が和むなんて素敵です》

「コンビニにもそういうのあるんだな」

《種から育てることもできますが加工品もあるようですね。単価は十円とお安いのでとりあえずダースで注文してみます》

「まあお任せする。ところでなんて植物なの?」

《学術名はカンナビス・サティバというそうです》

「……ちょっと見せて」

《どうぞ》


嫌な予感がして端末を確認するとどう考えてもやばい代物だった。

ハーブでアロマセラピーって確かにそうだけど完全にアウトです。


「いいかクオヴァディスそれ絶対頼んじゃダメなやつだぞ?」

《何故ですか?》

「法律で禁じられているからだ。いや仮に禁じていないにしても駄目だ」

《ちぇー(´・ω・`)》

「ちぇー言うな」


他にも持っているだけでお巡りさんに怒られるケミカルなブツを混ぜ混ぜ練るねしたラムネとか、大事な何かと引き換えに三日間ぶっ通しで残業できる魔法の小麦粉とかも並んでいる。


なんなのこのラインナップの充実っぷり。

カナダとかオランダでも使っちゃ駄目なやつもあるうえ、どれも異様に安い。


いつから日本のコンビニはドラッグ無法地帯になったんだ?


「どうせ注文できるなら拳銃とかにしてほしいよなー……」


残りの弾丸は四十数発分。

女王蜘蛛戦でだいぶ弾丸も消耗したからこれから先を考えるとかなり心もとない。


あの拳銃は偶然手に入れたものだったが、この物騒な世の中を渡っていくためには是非、継続して使用していきたかった。


《置いてありますね》

「まあ幾らなんても銃の類までは――なんて言った?」

《拳銃だけでなく近代兵器の類は各種取り寄せ可能なようです》

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