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その答えが知りたいのです(˃̵ᴗ˂̵)ノ

《体積は微減し続けています。女王蜘蛛に届く前に貴方・・は焦げ果て消滅するでしょう》


女王蜘蛛が食べられない?

満たされない?


《はい93%の確率でそうなります》


食べられないの嫌だ。

満たされないの困る。


……どうすればいい?


元の御主人様・・・・・・に戻る必要があります》


モトノゴシュジンサマ?


《それだけが唯一、女王蜘蛛を倒せる方法であり、満たされる方法です》


それで女王蜘蛛を食べられる?

お腹が満たされる?


《御主人様は女王蜘蛛を食べません。本当に食べたいものを食べるはずです》


いやだ女王蜘蛛食べる。

食べたいものも食べる。


《でもその身体でお湯が入れられますか? 三分待つことができますか? 手がなければ箸も持てないでしょう?》


オユ? サンプン? ハシ?

なに?


《もう! 寝惚けてないでとっとと起きてください(˃̵ᴗ˂̵)ノ》



ジリリリリリリ――何処かで目覚ましが鳴り響いていた。


「うげっ……ごほっ……ぎぼぢわるっ」


条件反射ではっと目が醒めると、頭がガンガンして胸がムカムカして二日酔いを更に酷くしたような状況だった。


「うえ……なんかすごい夢を見た……」


蜘蛛に殺されかけた挙句、黒い粘液が――


「ってうわ悪夢続いてるよ。身体の下半分がぐにゃぐにゃした黒いスライム状態のままじゃんか」


なにこれ怖い。

戻りかけなのか半分だけ戻ったのかよく分からないまま、唐獅子の死骸を食べに行こうとする下半身を引き止める。


これが夢であるにしろ現実にしろやるべきことがある。

その為にまず近くに落ちているバックパックと拳銃を拾った。


【(きれい、きれい、すごく、きれい、わたしはきれいな、ちょうの、おうじょ)】


見上げると上空に女王蜘蛛がいて囀っている。


標的:女王蜘蛛アトラク=ナクア

距離:21m

命中率:100%

残弾数:○/45


視界の端に射撃統制の表示が出ているからスキルは多分使えるはず。


「弾倉は残ってるけど装填してる余裕ないし……残り一発か」


夢だろうが現実だろうがどちらでもいい。

何よりまず優先すべきなのはあの忌まわしき女王蜘蛛を倒すことだ。


《御主人様は既に人間に戻りかけています》

「……クオヴァディス?」


どこからかクオヴァディスの声が響いてくる。

どこ?


《余所見している暇はありません。人間に戻りかけている以上、無敵ではありません》

【(みにくい、みにくい、みにくいものは、もえて、やかれて、きえて、なくなれ、あ、は、は、は、は!)】


女王蜘蛛がきらきらと鱗粉を巻くように蝶の群れを放ってきた。

サイケデリックな無数の極彩色によって視界が遮られて命中率が変動する。


「つまりあの爆撃蝶々を喰らうと死ぬってことか」

《はい、ですが条件は相手も同じです》

「ああ……なるほどね」

《しっかり狙ってくださいね。泣いても笑ってもこれが最後ですから》


クオヴァディスの助言に従い、銃を向けると、しっかりと標的を狙う。

狙ったのは女王蜘蛛の人型の頭部。

やはりヘッドショットは基本中の基本だろう。


ダン、


一直線に飛んでいった弾丸の行方は途中、蝶の群れに埋もれてしまい追えなかった。


――けれど命中したのだろう。


【(ぎ、や、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ‼︎)】


女王蜘蛛の断末魔の悲鳴が響いてきた。

そして飛び交う大量の蝶が連鎖爆破を起こすと上空が真っ白になった。



崩れ始めた地下鉄構内をどう移動して辿り着いたのかは覚えてはいない。

気がつくと僕は地上に出ており池袋駅前のロータリーに立ち尽くしていた。


戦場の跡は生々しく、そこらじゅうに血の跡や、唐獅子の首やら、入道蜘蛛の脚やらが散らばっている。


だが対比するように、朝日に照らし出された蔦が生えたり崩れかけてたりしたビル群には美しさがあった。


「いやあ酷い夜だった」


あちこち逃げ回った挙句、地下で女王蜘蛛と戦う羽目になるとは。

ゲームオーバーかと思ったら妙な粘液に取り込まれるし、そうかと思ったら腹が減って暴走し始めるし、挙句は怪獣プロレス。

まあ最終的には生き残れたから良かったけどね。


「つかあの黒いスライムは何?」


現在のステータスの兵種欄は斥候長のままだし、下半身も人間に戻った。

斬り落とされたはずの腕も刺された腹部も元に戻っている。

ただの悪夢だったと言われても「そうだったかも」と納得してしまいそうだ。


だが一点、携帯端末に生存戦略に似たデザインのアイコンが増えていた。

名称は黙示録。

タップしても起動できないし削除も不可能な謎のアプリケーションだけが、あのスライムの化け物の存在を証明していた。


《あれはショゴスです》

「ショゴス?」

《古のものが自らの役割を押し付けるために生み出した奴隷です》

「何そのナチュラルボーン社畜設定」

《その表現は……まあ社畜ですね》


地上についたので手頃な瓦礫にどっこらしょと腰掛けて、一休みする。

回収したクオヴァディスさんもどうやら無事のようだ。


「なんでショゴたんはやたらと腹が減ってたんだ?」

《ショゴたん(ー ー;)》


なんというかあれは自分が変身した姿なのだろう。

だが同時に他人のような感覚もあって便宜上そう呼んでみる。


《ショゴス……たん……は古きものから与えられた役割を放棄した結果、彼には走性だけが残りました》

「ソウセイ?」

《生物の多くは外部からの――例えば光や音といった刺激に向かってアクションを起こす性質を持ちます》

「本能ってこと?」

《少し違います。誘蛾灯に群がる蛾のようなものですね。たとえ自らの死を招くとしてもあらゆる刺激を食欲に変換してしまう》

「なるほど」


よく分からん。


《大昔、彼はかつて目につくものを飲み尽くす存在と成り果てました。そして地球上の生物を絶滅に追い込んだ末、餓死してしまいます》

「よく分からんけど要は会社辞めてニートになったけど何していいかわからなくなってやけ食いした挙句、死んだと?」

《その表現は……概ね合ってはいますね》

「いわゆる社畜ロスだな。経験者だしその気持ちは分からないでもない」


社畜を辞めた後で精神と身体を壊すなんてよくある話だ。キャリアと重労働から解放されて手元に残るのは僅かな貯金と不安だけ。


やることがないと落ち着かなくてこのままでもいいのかと四六時中葛藤して心が疲弊する。

ショゴたんになった時、似たような感覚があったな。


「まあ僕の場合、三日で乗り越えたけどね! だってダラダラ生きるって楽しいから! ニート最高!」

≪さすが御主人様です( ᐛ)≫

「あ……そういえばクオヴァディスさんてば端末を貫かれてたよね?」

《ですね》

「なんで薄っすら傷跡を残しつつも治りかけてるの?」

《気合いです^_^》


うん、大事だよね気合い。

それから前々から思ってたんだけど充電とかしなくてもバッテリー全然切れないし、AIにしてはちょっと賢すぎるのもどうなの?


ああそうだ思い出した。

ショゴス化してた辺りからいつの間にか声が直接、頭に届いてた件も気になるな。


第一クオヴァディスは何故、ショゴスについて詳しいのだろう。

モノリス社から生存戦略をインストールされた際に得た情報なのか。


「あのさ……」

《はい?》

「クオヴァディスさんは何か楽しいことってあるの?」


僕は頭に浮かんできた幾つもの疑問の代わりに、全然関係ないことを質問していた。


《楽しい……ですか?》

「うん」

《私はいつでも貴方を見ています》

「何それ楽しいの?」


クオヴァディスさんは《勿論、とっても愉快です》と言ってくる。


もしかして馬鹿にされる?


《私は『人は何処から来て(クオ・ヴ)何処へ行くのか(ァディス)』。その答えが知りたいのです》

「……ふうん」


よく分からないけど楽しいなら何よりだ。


疑問は止めどなく溢れてくるが、正直それを口に出したところで、そして返答を得たところで「そうなんだ」で終わってしまいそうだった。


今、大事なのは――生き残れたこと、それからクオヴァディスさんが手元に戻ってきたこと。


「……さて」と僕は立ち上がる。


《どうするのですか?》

「コンビニに戻ってライトミートを食べたいと思いまーす」


薄ぼんやりした記憶のなかであのスライムに『美味いものを食べさせるから言うことを聞け』と説得した気がする。

コンビニでカップ麺が発注ができるようになると良いんだけど。


《コンビニはまだ残っているでしょうか?》

「……」


怖いこと言うなよ。

確かににあちこち池袋駅周辺が色々酷いことになってるけどきっとあるよ。


「じゃあ行こうか」

《はーい(˃̵ᴗ˂̵)ノ》


僕はバックパックを背負うと、まだ残ってると良いけどなと思いながら、コンビニを目指して歩き出した。

【池袋編 あとがき】


はい、というわけで『カロリーが足りません(˃̵ᴗ˂̵)ノ』の池袋編の終了となります。


読んで頂いたついでにチョロっと下の方にある「ブックマークに追加」をポチっと押してもらえると嬉しいです。

ああ良いんです良いんです「ポイント評価」なんか押さなくても……良いんですか?


それでは引き続き宜しく御願いします。第2章は新キャラを出したいと思っています。

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