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つまりカロリーは正義です

あらすじ:《でかい怖い犬が出てきました……(*_*)》

「でかい‼︎ 疾い‼︎ かなりマズイ‼︎」

《増量サイズの安売カップ麺ですか?》

「いいえゾンビになった大神さんです」


巨躯の猟犬が突進してくる。

しかも予備動作なしのトップスピードで、涎と臓物を撒き散らし向かってくるものだから恐怖しかない。


「うわっヘッドショットも無効化されちゃうの⁉︎」

《ドローン三体の総攻撃も無傷でしたしね》


そういえばサブマシンガンの豪雨をあくび交じりで浴びてたな。

正真正銘のバケモンじゃないか。


「うわっ⁉︎」


周りにいたゾンビ犬ごと轢き殺されそうになったところを辛うじて避ける。

吹き飛ばされそうになるほどの風圧が、直撃を喰らえば全身の骨がバラバラになるぞと脅してくる。


「もー……泣きそうだよ。こんなのどうやって相手にすれば良いんだよ‼︎」

《またきます‼︎》

「ってうわ……ちょっ犬、邪魔‼︎」


大神にかまけていたせいで近くにゾンビ犬がいるのを忘れていた。

盾代わりにした腕を分厚いジャケットごと噛みついてくる。

戯れてる場合か。


その間にも大神が経路上のゾンビ犬を容赦なく踏みつけながら迫ってくる。


「つかこれゲームオーバーじゃね?」

《(TT)》


暴走トレーラーを前にした子猫のような気持ちで立ち尽くす。

あ、これ洒落になら


グシャリ――


跳ね飛ばされて全身の骨が砕ける感触と共に視界が真っ赤に染まる。


「う……あ……?」


気がつくと大量の血飛沫と共に中空にトリプルアクセルを決めながら投げ出されていた。


音が消えた。

時間が引き延ばされたみたいに進む。


多分あんな夢を見たせいだ。

白衣の女の夢――サクッと死ねるならそれで良い、とか思ってはいたけれど正直心残りができてしまった。


思えばいつも一緒だった。

当たり前過ぎて気づけなかった。


社畜時代徹夜で必死こいてキーボードを叩いている時も、

休日の昼間にぼんやりネットサーフィンをしている時も、

慌ただしい毎日の朝だって傍にいてくれた。


もう一度――

もう一度だけでいいから――


「カップ麺が……食べたい……」


「グウ」と音と腹が鳴るのと同時に、時間の感覚が戻った。


投げ飛ばされた先で激突することなくふわっと包まれる。

そういえば四方が気持ち悪いピンクのカーテンで覆われてたっけ。


「死に……損なっ……た……?」


クラクラしながら立ち上がり息を吸い込む。

胸が少し苦しかったが体の不調もない。


ジャケットに血と肉と肉片がはりついているので確実に死んだと思っていたが、案外無事だ。

首だけになってもアグアグ噛みついてくるゾンビ犬――彼が身を呈してクッションになってくれたようだ。


「はは……まあ生きているなら仕方ない」


ゲームオーバーの文字が出てない以上、コントローラは手放せない。

ワンチャンあるならもう少しだけ足掻いてみるだけだ。


「生存戦略……起動……」


二酸化炭素を深く吐き出しながら拳銃からセラミックナイフに持ち替え、下半身を沈めて構える。


《暗殺術がLevel2になりました》

《暗殺術がLevel3になりました》

《暗殺術がLevel4になりました》

《何故、わざわざナイフに⁉︎》


説明している暇はない。


背を向けていた大神が既にこちらに気づいる。

やつはギロリと睨んでくると再び地面を蹴り上げるとゾンビ犬の群れを蹴散らしながらながら猛突進してきた。


「……よし行くぞ」


いつもなら逃げるところだけど敢えて巨獣に向かっていく。

ギリギリで避けると尻尾を掴んだ。


大神が急ブレーキをかけてきた反動を利用してやつの背に着陸。

暗殺術はアクロバティックな体術が可能になるようだ。


《無茶をしたら今度こそ死にますよ?》

「まだ死ねないからこうするんだ」


大切なものが何か分かった。

生きる意味を見つけた。

死なない限り、望みを叶えるために戦おう。


もう一度お湯を入れるために!

待ち遠しい三分間のために!

化学調味料で彩られたジャンクな味のために!


「カップ麺のために!」

《カップ麺(´-`).。o(ナニイッテンダ?)》


放電しかけた大神の毛をむしるように掴みながら頭部まで辿り着き、虚空・・を数カ所斬りつける。


ナイフから伝わる僅かな手応えが期待を確信に変える。


それだけで、

たった一振りの動作で、

圧倒的な強さを持つはずの巨大な猟犬はぐにゃりと四肢から力を失った。

そして周りにいたゾンビ犬どもを巻き込みながら横倒しになって崩れ落ちる。


《えーと……(╹◡╹)? 御主人様はいったい何をしたのですか?》


まあ驚くのも無理はないか。

あの犬神がたった一撃で倒れたのだ。

それも直接攻撃もせずに。


「えーとちょっと待って……こいつだな」


巨躯の犬はもはや起き上がる気配どころか呼吸すらせず文字通り糸が切れたようにぐったりと横たわって動かなくなっている。

その頭部から見つけた煌めく細い細い糸を掲げてみせる。


《糸ですか?》

「うん糸」


それは天幕から垂れ下がった数本の糸の残滓だ。


跳ね飛ばされて宙を浮いている時に見つけ、それが女王蜘蛛とゾンビ犬どもを繋ぐものだと直感した。


「多分、女王蜘蛛はこいつで傀儡を操作してるんだ」

《ほほう》


手繰っていくと大神の耳の奥に続いており引っ張ると白く濁った目玉をビクンビクンと痙攣させる。


恐らくは脳だか神経だかを悪戯して人形のように操っていたのだろう。

気味の悪い絡繰だ。


ちなみにナイフを使ったのは糸が細すぎて銃弾では当たらないからだ。


《唐獅子たちも同じように糸で操られているのでしょうか》

「恐らくな」


まあただ女王蜘蛛のトリックが判明したからといって大勢に変化はない。

唐獅子や大神が多少倒し易くなった程度で、不毛なバトルが終わるわけでも、ここから逃げ出せるわけではない。


【(だ、か、ら、ど、う、し、た、の?)】

《死骸の山がまた……⁉︎》

「そうくるよな」


そう状況は全く改善されていない。

寧ろ悪化している。


何故なら死骸の山場が再び大きく崩れてそこからもう二体の大神が出現したからだ。


【(ま、だ、ま、だ、あ、そ、び、ま、し、よ、う?)】


つまりはゲームの難易度設定がウルトラハードモードからハードコアインフェルノモードに移行しただけのこと。


まあ僕に言わせれば、だからどうしただ。

こんな気持ちは社畜時代に嫌というほど味わってきた。

何より決意が固まった以上、絶望はない。


「クオヴァディス」

《はい》

「もし女王を倒したら褒賞はどうなるんだっけ?」

特別な賞与ボーナスが与えられるようです。恐らくは管理職への昇格かと》

「なら業務の権限と領域の拡大は必然だよな」

《それが何か?》

「発注業務できるんじゃね?」

《ハッ( °ω° )⁉︎》


発注に携わればコンビニに陳列する商品のラインナップをコントロールできる。

つまりカロリー源であるライトミートが頼み放題になる。


それだけではない。

もし発注リストにライトミート以外の食料品が掲載されていれば、それらを好きなだけ注文できることになる。


「カップ麺とか。好きな食べ物を頼み放題だろ?」

《つまりカロリーは正義ということですね?》

「だな」

《そしてそれを妨げるものは即ち悪。御主人様、女王蜘蛛を倒しましょう٩(ò_ó)و》


よーしじゃあやっちゃいますか。

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