申し訳ありませんが非常事態のようです
《御主人様?》
「うう……シーフード味……」
《御主人様?》
「うへへ……いただきまー……」
《させるか(╹◡╹)σ凸 ジリリリリリリリリ‼︎》
「……ふがっ⁉︎」
無慈悲な非常ベルによって叩き起こされた時、コンビニの外はまだ暗かった。
「クオヴァディス……なんで起こすんだ? せっかくカップ麺を食べようとしてたのに」
とりあえず体を起こすと小休止が仕事をして秒で冴えてくる。
相変わらずのコーヒー要らずっぷりだが今は余計なお世話だ。
《お休みのところ申し訳ありませんが非常事態のようです》
「非常事態?」
急かされ自動ドアを開けて確認してみると確かに何か様子がおかしい。
あちこちで獣の遠吠えや金切り声、咆哮が響いている。
ここからでは何が起きているのか目で確認できなかったが、物々しい雰囲気は伝わってきていた。
「うーん何か起きてるのは確かだけどここからじゃ確認しようがないな」
契約だと確か「勤務時間内に敷地から出歩くと『処分』される」んだよな。
《敷地内の移動なら契約を守ったうえで周囲を見渡せるのでは?》
「敷地内?」
《このコンビ二が収まったビルも敷地です》
なるほど。
早速バックヤードからビルの共有フロアに出ると非常階段で最上階までダッシュする。
屋上に出ると錆びたフェンス越しに、夜に沈んだ真っ暗な池袋が一望できる。
「野鳥観察で視力は良くなったけど、暗くてよく見えないな。……暗視を上げよう」
《暗視がLevel2になりました》
《暗視がLevel3になりました》
おお、夜に溶けて曖昧だった建物の輪郭がはっきりとし始める。
そして何かの集団が争っている様子が見えてきた。
建物の裏側――駅ロータリー周辺で化け物たちがぶつかり合っている。
《ふたつの派閥に分かれているようです》
「片方は唐獅子で……もう片方は入道蜘蛛のようだな」
どちらの陣営も数百はおり、見たことのない大型や模様の違う亜種が何匹も混じって総力戦を繰り広げている。
「入道蜘蛛は暗くなると地上に這い出てこれるんだなー……」
《これはまるで戦争です》
「軍配は蜘蛛にあるみたいだな」
個々の戦闘力では唐獅子が優っていた。
けれど蜘蛛は数で圧している。
倒れても倒れても地下出入口から続々と援軍を排出してくる。
一斉に取り囲み糸を放射し拘束、動きを鈍らせ噛み付くという集団戦法を確立させていた。
「そもそも何故戦っているんだろう。これだけ大規模な戦争って何が原因なわけ?」
《縄張り争いでしょうか》
「うーん太陽嫌いの蜘蛛が地上を欲しがるとは思えないけどなあ」
《ならば繁殖期かもしれません》
「繁殖期」
《申し訳ありません。御主人には縁のない言葉でした。繁殖期とは――》
うるさい。
説明はいらん。
《子作りには多くのカロリーを必要とします。そのための狩りではないかと推測します》
「どっちが繁殖期なのかは知らんけど互いが互いの捕食対象であるのは間違いみたいだな」
注意して観察して見るとあちこちでそれを裏付ける様子が散見される。
倒した蜘蛛を夢中で貪る唐獅子がいる一方で、糸でグルグルに拘束した唐獅子にがっついている蜘蛛もいた。
「みんなお腹減ってるんだな……」
そういえばコンビニの唐獅子も飢えてたし野生って大変だなあ。
なんとなく親近感湧くな。
ミネラルウォーターを煽りながら対岸の火事のつもりでぼんやり眺めていたが、暫くするとそうも言ってられなくなった。
グルルルルルヴォウッヴォウッ
ギイイイイイイオオオギイイイオオオオオ
「おお……これは近いな」
《真下ですね》
柵越しに覗くとビルのエントランス付近で蜘蛛数匹と唐獅子一匹が暴れていた。
糸まみれになった唐獅子が、正面にいた蜘蛛に向かって突進、雑居ビルの壁に激突している。
「おいおいうちの敷地で何やってんだよ。他所でやってくれよ」
《うーん何かの拍子に押し寄せてきてもおかしくない状況ですね》
「これは店長案件では? あのゴリラアーマーは何処ほっつき歩いてるんだ」
《本日はまだ「清掃」から戻ってきていません》
「そんな遠くには行ってないはず……」
あれか。
コンビニの通りから少し離れた十字路で店長の姿を見つける。
大入道蜘蛛相手にガトリング銃を容赦なくぶっ放して大立ち回りを繰り広げていた。
周囲にある唐獅子や蜘蛛の死骸を見る限りだと、目につくものを無差別に「清掃」しているようだ。
「いつもフヨフヨしているキグルイドローンは一匹も見当たらないな」
《既に全滅したと考えるべきかもしれません》
《おや……一件のメールが入りました》
着信音と共に画面に内容が表示される。
差出人:ALWAYS池袋店 店長
宛先:社蓄様
件名:業務命令
「店長から? 件名からして嫌な予感しかしないんだけど?」
《至急「清掃活動」に参加するようにとのお達しですね》
「ええと……落ちてる空き缶を半透明のポリ袋に詰め込めばいいのかな?」
《最低ノルマは100匹以上とあります》
おかしいな。
空き缶の数え方が間違ってますよ店長?
《参加報酬が書いてあります》
・昇級(見習いから正規スタッフへの採用)
・昇給(時給十円アップ)
いやこれ本当にどう突っ込んでいいのか分からない。
生死を賭けた業務をさせながら報酬が時給十円アップとかありえないだろ。
というか今まで正規のアルバイトじゃなかったんだ。試用期間てやつか?
目の前に広がる夜景もビックリするくらいのブラックな会社だな。
店員を戦地に向かわすコンビ二が何処にあるんだよ。
《更に追加条件を達成した場合、成功報酬として更なる昇級と昇給が与えられるようです。
「追加条件って何?」
「二つあるようです。まずエリアマネージャの救助》
「エリアマネージャって誰?」
《恐らくですが信号機で遭遇したドローンでしょう》
「あれが⁉︎ エリアマネージャだったの⁉︎」
他にもキグルイドローンはいたけど見た目も性能も大差無さそうなモブドローンじゃん。
つかあれでゴリラアーマー店長の格上なのか?
「もうひとつは?」
《女王蜘蛛アトラク=ナクアの討伐とあります》
「何その強そうな名前……女王蜘蛛って完全にボス級じゃん」
《どうしますか?》
「いや助けに行きたい気持ちはあるけど……どうみても勝ち目ゼロだろ」
生存戦略で鍛えまくってはみたものの、あのなかに混じって大立ち回りをする気には慣れない。
ドローンと時給十円アップのために、命懸けってありえないもの。
《尚、ノルマ未達成の者は「処分」とあります(╹◡╹)》
店長は未だにガトリング銃で大蜘蛛と交戦中だ。
見た目通りのタフさで相手の攻撃をものともしていない。
あれとは極力敵対したくない。
「うーん……このまま逃げたら地の果てまで追いかけ回されそう……あ」
《危ない》
大入道蜘蛛がふいにブレスの如く大量の糸を吐き出した。
絡め取られて身動きが次第にぎこちなくなるゴリラアーマー店長。
ガトリングの射撃が鈍くなった隙を狙って別の蜘蛛たちが群がって押し倒してしまう。
そして遂に――
《店長、完全に沈黙しました(;_;)》
「これはまずいな……」
残念だけれど店長が倒れてしまった時点でここはもう安全圏ではない。
こうなったら拠点を放棄するより他ない。
今背負っているバックパックは既に荷造りを済ませてあるのでいつでも発てる状態だ。
「よし夜逃げ決行だ!」
《とんずらΣΣΣ≡ ┏|^_^|┛》
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