昇格先はどれにしますか?
「さて……あとはどのスキルを強化しようかな。ナイフ術とジャミングと肉体強化か」
《未習得一覧も含めれば全部で十種類あります》
「けっこうあるな」
《ちなみに少年斥候関連のスキル以外はコストが300kcal、肉体強化は更に倍かかりますのでご注意ください》
「更に倍? 嘘だろ?」
肉体強化ってそんなにかかるのか。
アイコンを確認してみると確かに消費kcalの表示が600になっている。
《スキルのグレードが上がるに従って要求されるカロリーが増えていきます》ということらしい。
そりゃあないという気持ちが半分と、まあそうだよなという納得とが半分だ。
先ずは肉体強化のLevelを……と考えてたけど余剰を考えると厳しいのでパスだな。
「じゃあこれ」
《ナイフ術がLevel10になりました》
《以下四種類のスキルのうちひとつをアンロックしてください》
暗殺術
投擲術
護身術
抜刀術
今度は四種類のうちどれかをアンロックか。
こういうパターンもあるのね。
色々決めなきゃいけなくて良い加減面倒になってきたがここは慎重に選んでおきたい。
「ええとここは護身術かな」
戦闘において「逃げる」の選択肢はマスト。
今後も逃げて逃げて逃げまくる姿勢を貫きたい。
故に「打ち倒すことではなく危険から安全に逃れる方法」を目的とした護身術を選択するというのが正しい判断だろう。
《暗殺術を解除しました》
《……Σ('◉⌓◉’)》
「違うんだ。違うんだよクオヴァディス。なんとなく暗殺術ってどんなかなーって調べようとしてポチッちゃったんだよ」
《(΄◉◞౪◟◉`)》
「その表情はやめなさい」
別に格好良いなあとか厨二的な嗜好がうずいたとかそんなんじゃないから。
本当だから。
「……さてこんなところか」
ついでにジャミング辺りも上げておきたかったが残カロリーが気になってしまった。
結局、豪遊できない自分の性格が恨めしい。
《欲張り過ぎても仕方ありません》
「だな。……じゃあクオヴァディスさん、もう一度昇格の選択画面を出してみて」
何か変化があればいいけど。
またしても暫くお待ちくださいの砂時計。
そしてドキドキしながら待つ事数十秒後ーー
三種類の兵種が表示された。
工作員
密偵
斥候長
ふむ昇格先に微妙な変化があったな。
クオヴァディスの言葉に従って、スキルを増強させた結果が反映されたのだろう。
「斥候が斥候長になってるね」
元々の斥候とどう違うのかは比べようがなかったが名前から格上の兵種だと思われる。
アイコンは一見変化がなさそうだったが、被っているヘルメットの★がひとつからふたつに増えていた。
説明書きも「追跡、偵察のスペシャリスト」になっている。
「結果オーライだ。よし斥候長を選ぼう」
《兵種:斥候長を獲得しました》
《基本スキル、忍び足、警鐘、動体視力を獲得しました》
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兵種:斥候長Lv1
状態:
余剰kcal:3,180
消費kcal/h:145
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スキル:
肉体強化Lv1、小休止Lv10、野鳥観察Lv10、
悪臭Lv1、ナイフ術Lv10、ジャミングLv5、
暗視Lv1、トリガーハッピーLv1、暗殺術Lv1、
忍び足Lv1、警鐘Lv1、動体視力Lv1
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「ふおおおお⁉︎ なんか……熱……いや痛い……イテテ……⁉︎」
肉体強化得た時に似た感覚が訪れる。
違うのは痛みーー骨がミシミシ軋んで肉がバキバキと引き裂かれそうになる。
《恐らく昇格によって身体が成長していると推察されます》
「せ……成長……何コレ痛い痛い……ギブギブ……?」
《斥候は偵察、追跡、哨戒に長けた兵種です。知覚と俊敏性が向上される恩恵が与えられ……聞こえてますか?》
「ムリ……」
正確には斥候長になったのでより強力な恩恵とやらが得られるっぽいけど痛みもより強力になってるのかな。
ガテン系のバイトに挑戦して全身筋肉痛で寝たきりになった時よりもキツかったが、ピークが過ぎると痛みは落ち着き、嘘のように消えてしまう。
「ふう……ヒロイックピル手に入れとけば良かったかも」
《もう大丈夫なようですね》
「ああ……でもちょっと弱ったな。兵種をカンストさせるとてっきり別の兵種を選択できるんだと思ってたのにな」
何度も繰り返すが最終目的は銃関連スキルの入手だ。
そのために歩兵か砲兵になるつもりだったのに完全に計画が崩れてしまった。
クオヴァディスが「少年斥候をカンストさせれば別の兵種を選択できる」と言っていたのはなんだったんだ。
疑問は直後流れてきたアナウンスによって氷解した。
《昇格特典――スキル副業が解放されました》
「副業?」
《サブ兵種を下記候補から選択してください》
砲兵
輜重兵
通信兵
衛生兵
歩兵
おもちゃの兵隊
既存の兵種からどれかひとつだけを選択できるようになっている。
「あ……おもちゃの兵隊も混じってる。これだけ違和感バリバリだな」
念のため、アイコンを確認。
直立した古き良きくるみ割り人形が描かれていた。
なになに「幼年期の想い出。忘れ去られたおもちゃ箱の兵隊」。相変わらず意味があるのかないのか分からない説明書きだ。
「ええっとじゃあこれを……ポチ」
《サブ兵種:歩兵を獲得しました》
おもちゃの兵隊を選んだと思った?
色物枠など勿論、論外だ。
当然のことながら銃系のスキルを持っていそうな最有力候補を選んだ。
他に目移りして当初の目的から外れるような真似はしないのだ。
《基礎スキルからいずれかひとつを獲得することができます》
格闘術
射撃統制
「なるほどね。サブ兵種は基礎スキルを『ひとつだけ』獲得できる仕様なのね」
《はい。基礎スキルがカンストすれば再び別の兵種を選択可能です》
目的がはっきりしているので迷うことはなかった。
二種類あるアイコンのうち拳銃マークのアイコンの方をタップする。
《射撃統制を獲得しました》
射撃統制の説明書きには「目標に対して効果的な射撃を行うための支援システム」とあった。
まさにお誂え向きのスキルである。
具体的にどういう効果をもたらすのかは分からないが、これで素人でも銃を扱えるようになれば御の字だ。
「ふう……なんとか目的の銃スキルが取得できたな」
《お疲れ様でした》
ひとまず生存戦略を終了させるとソファーにどっかりともたれた。
ええっと手に入れたスキルはなんだっけ?
斥候長のスキルが忍び足、警鐘、動体視力。
サブ兵種の射撃統制。
それから悪臭、ハッピートリガー、暗視、暗殺術も手に入れたんだったか。
全部で八つ。
これまでの進捗に比べると大躍進だな。
うーん短期間での変化が激しすぎて正直把握しきれていない。
だが戦力増強が叶ったのは間違いないはず。
《次は何をしますか?》
「次は寝ます」
というわけでこのコンビニがある雑居ビルの上の階を漁って見つけてきた毛布に包まった。
「ふう……ちょっと埃臭いけどソファの寝心地は悪くないな」
《……》
理想は映画付けっ放しにしてポテトチップス齧りながらウトウトするやつだけど、贅沢は言えないか。
せめて近くにある大型書店で小説か漫画を持ってくれば良かったな。このコンビニ、漫画を置いてないんだよな。
サブ兵種:
兵種を選択して基礎スキルを『ひとつだけ』獲得できる。
基礎スキルがカンストすれば再び別の兵種を選択可能。
制約は下記。
①兵種の恩恵は得られない。
②昇格はしない。
③一度獲得した兵種は抹消される。
手に入れたスキルはおいおい確認したり検証したりします。




