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生存戦略 Lv1を使いますか?



携帯端末のAIがゲームっぽいステータス画面を提示してくる。

仮にそんな戯言を告げてきたらどう思うだろう。


「ほほう……さてはぶっ壊れたかな?」


と思うのが正常なリアクションである。


《失敬な。自己診断での異常は検知されてません( ̄^ ̄)》

「怒るなよ。冗談に冗談で返したんだよ」


最近のAIは高度過ぎる。

この馬鹿げた状況と、僕が好みそうなジョークのネタを推測して自動生成したのだろう。

ただ所詮AI。もう少しTPOをわきまえてデリカシーに欠けた発言は控えてもらいたいものだ。


「さて、嘆いても仕方ないし食べ物でも探してみるかな」

《話を聞いてください》

「ハイハイ聞いてる聞いてる。アドバイスさんきゅーな」

《……むーっ( ̄^ ̄)》


クオヴァディスをなだめつつ、食欲の赴くまま半壊した硝子ドアを潜る。

腐っても元ラーメン屋だったんだから探せばきっと何かあるはずだと思った。


「うわ……埃っぽいな」


客席の椅子に腰掛けようとしたが、クッションが風化してバネが剥き出しになっている。

カウンター付近の棚に努力友情勝利を三大柱に据えた週刊少年漫画雑誌が並んでいた。


「うわっあの海賊漫画がついに最終回⁉︎」


まじか。

思わず手を伸ばしたが、ページが貼りついて開かないうえにインクが劣化してかすれている。

試行錯誤してみたが読めないので泣く泣く諦める。


《ここへは娯楽を求めにきたのでしょうか》

「いや」

《では食料を探しましょう》


クオヴァディスの言うことも尤もだ。

最優先すべきは食料。

人がいないから、店がやってないからとこのまま飲まず食わずでいたら飢えて死ぬだけだ。


「何かあるとすれば厨房――……ん? 揺れてる?」

《地震でしょうか》


半壊したテーブル席の向こう側に目をやってぎょっとする。

埃で汚れた硝子窓越しに見える外の景色――霧で霞んだ街路を、巨大な何かが横切っていた。


「なんだ……あれ……?」

《犬のようです》


だが犬にしてはあまりにも巨大過ぎた。

体長五メートル近くはある。

例えるなら象みたいな体格のゴールデンレトリバーから体毛を剥ぎ取ったみたいな動物だ。


《データベースを検索……地球上のどの犬にも該当しません》

「いや……そりゃそうだろ……デカすぎる……」

《強いて挙げるならロシアンウルフハウンドに類似していますが体長が異常です》


おまけに極限までドーピングしたみたいに筋骨隆々な躰つきなので多分、戯れつかれただけで圧死できる。


《新種として学会に報告しましょう》

「うん、学会とやらがまだ残ってればね」


カウンターの陰に隠れておっかなびっくり巨大犬の様子を窺っていると――。

別のものが現れた。


プロペラを背負った黒い郵便ポストたちだ。

テンポの狂ったメロディを辺りに響かせながら中空を降りてくる。


「今度はなんだ?」

《どうやら小型無人飛行機ドローンのようです》


《アハハハハハハハ‼︎》《キルユー‼︎ キルユー‼︎」》《アハハハハハハハ‼︎》《キルユー‼︎ キルユー‼︎》


何か物騒な英語を吐きながら巨大犬の周りを蝿のように飛び回っている。


ガガガガガガガガガ‼︎‼︎ ガガガガガガガガガ‼︎‼︎ ガガガガガガガガガ‼︎‼︎


「ひい」


唐突に凄まじい炸裂音と、火花が撒き散らされる。

ドローンがマシンガンらしきものをぶっ放し始めたのだ。


《攻撃対象はあの巨大犬のようですね》

「なんなんだよあのドローン……ヤバ過ぎるだろ」


前触れもなく巨大犬vsキグルイドローンの一戦が始まってしまった。


ドローン三機が散開して、伏せる巨大犬を取り囲むようにして《《《アハハハ‼︎‼︎》》》と乱射を続けている。


ガラス窓を挟んだすぐ外で行われているため、戦火がこちらに飛び火する可能性もゼロではない。

巻き添えは御免だ。

ただただ恐怖を抱きながらカウンターに身を潜め続けた。


「ク、クオヴァディス、マナーモードな。絶対音出すなよ」

《(・×・)ノ》


何その顔文字。

可愛くてちょっと腹がたつんだけど。


《(ドローンが勝ちそうですね)》

「だな」

《(犬の方を大神/おおかみと名付けようと思うのですがいかがですか?)》

「名前とかどうでもいいよ!」


クオヴァディスさん頼むからもう少し空気読んで。


だが確かに戦闘は一見ドローンたちが優勢だった。

反撃を許さない中空射撃によって、激しい音と火花を散らしながらタコ殴り状態を続けている。


――ただ巨大犬の様子が何やらおかしい。

一方的に銃弾の雨に晒されながらも平然としている。

それどころか退屈そうにアクビを噛み殺していた。


あれだけの銃弾を受けながら何故か体表に傷ひとつ負っていないのだ。


「……なんだ?」


――ピリ。

――ピリピリ。


全身に黄金色の雷のような筋が無数に走り始めていく。


ふさふさとした黄金色の尾っぽが突然、無数の稲光に変貌すると――

凄まじい速度で繰り出された毛だか雷だかによってドローンたちが突き刺される。


「「「ガガガガッデーム‼︎」」」


捨て台詞を残しつつ爆発するドローン。


「瞬殺かよ」


巨大犬はいつの間にか元の状態に戻ると、何事もなかったかのようにその場に伏せをした。

前足をペロペロと舐め始める。


それから足元に転がってきたドローンの残骸を見つけて転がし始める姿はまるでワンコだ。


「というか寛いでないでさっさといなくなってくれ」


このまま店の前に居座られると身動き取れないんで滅茶苦茶迷惑です。

そう強く念じていたのが功を奏したのかもしれない。


暫くすると地面にふんふんと鼻先を擦り付けて何かを嗅ぎ回るような行動を始める。そしてさっと駆け出して霧の向こうへと去ってしまった。


「はー……いったい何がどうなってるんだ?」


あの狂ったドローンはいったいなんなの?

何故、銃器を持っているの?


それを瞬く間に破壊したあの犬はいったいどういう犬種なの?

そもそも犬なの?


あり得ないことだらけでまるで理解が追いつかない。


少なくとも自分のいた時代には存在しない危険な存在であるのは間違いない。


「もしかしてこの界隈にはあんな化物がウヨウヨしているのか? あいつらのせいでどこにも人がいないのか?」


暫く頭を抱えていると携帯端末がブルブルと震えて何かを知らせてくる。


《(さて問題が解決したようであればマナーモードの解除をお願い致します(・×・)ノ)》

「……いや御免、かなり問題だらけなんだけど?」

《ほほう、よろしければ私が御相談に乗りましょうか?》


このマイペースな携帯AIに一切合切を解決してくれる画期的なアイデアを期待したわけではなかった。


助けを求めたのはどちらかと言えばただ藁にすがるような思いからだ。


「クオヴァディス、僕がこの先、生き残るにはどうすればいいと思う」

《生存戦略をお勧めします。まずは兵種を選択してください》


端末画面に再び覚えのないアプリケーションが展開されてる。

そして今回はステータス画面ではなく複数のアイコンが表示される。


《現在アンロックされている以下5種から選択できます》


全部で五つ。

どれにも兵士らしきカートゥン調のキャラクターが描かれている。

各々装いやポーズなどが違っており、名称らしきものも表示されている。


砲兵

輜重兵

通信兵

衛生兵

少年斥候


大体どこでダウンロードしてきたんだよ、そのゲーム。


「もしかしてゲームでもして現実逃避しろってことか。はあ……まあいいか」


どこで手に入れたゲームなのかは分からなかったが少し付き合うことにした。


このまま建物でじっとしている分には安全だろう。

少しだけ現実逃避しよう。

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