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基礎体力向上がLv10になりました

《他に刺傷箇所はなし……これは刃物ではなく太い針のようです》

「傷跡の割に血痕が異様に少ないな。これだけの深い傷を負ったら、もっと血が噴き出るもんじゃないの?」

《ふむ……右手の人差し指を御覧ください》


クオヴァディスが何を言いたいのかは見てすぐに察した。

ピーターさんのグローブをはめた指がトリガーを引く形状のまま固まっている。


これだけお膳立てされればここでいったい何が起きたのか想像に難くない。


「つまりピーターさんはここで誰かと戦闘になって殺害されたんだな」

《この場合『誰か』ではなく『なにか』という表現が正解かもしれません》

「『なにか』ってなんだよ」

《針のようなもので血や体液を吸う何かです》

「……」


なるほどね、ピーターさんの遺体が腐らず干からびてるのはたぶんミイラ化してるからなんだな。


「……ってやっぱこの地下にも化け物クリーチャーがいるんじゃないか‼︎」

《それも銃を持ったピーターさんを正面から一撃で仕留めるような手練れ級の何かDEATH》


蜘蛛の巣みたいなネバネバを見た時点で嫌な予感はしてたけど、これはもう楽観できる状況じゃないな。


「よし、さっさと用事を済ませてこの場所から撤退しよう」

《荷物はどうされますか?》

「う……こうなったら持ってくよ。缶詰の入ったバックパックも迷彩服も編み上げブーツも拳銃も残らず一切合切だ」

《そうこなくっちゃです(╹◡╹)》


良識のある人からすれば泥棒だと咎められる行為かもしれない。意地汚い奴だと非難されるかもしれない。死者への冒涜だと罵られるかもしれない。


けれどここではもはや常識も良識もなんの役にも立たない。

そして僕は潔く死ぬより誰かに後ろ指をさされてでも生き延びるための行動を優先したかった。


《ところで運搬に問題はありませんか?》

「……うわ重っ」


バックパックを背負おうと試みたが、持ち上げるのも難しかった。

五十キロくらいはあるんじゃないか。

自分にはとてもではないが背負いきれる荷重ではない。


「さて困ったな」

《地上とこの場所を往復する必要がありますね》

「いや地下に化け物がいると判明した以上、無闇に何度もウロつきたくはない」


何より億劫なのでその案には乗れなかった。

大体、地上に上がった後だって運ばなきゃならないのだ。根本的な解決になってない。


《不要なものと必要なものとを整理しますか?》

「いや悠長にしてられないし持ち帰るって決めた以上は全部持ち帰りたい」

《御主人様はわがままです( ̄3 ̄)》


クオヴァディスさんが拗ねている。

そもそもあれもこれも持って帰ろうと言い出したのは誰でしたっけ。


「よしスキルを使ってなんとかしよう」

《例えばどのような?》

「ええと基礎体力向上のスキルを上げるとかどうかな?」

《なるほど、良いアイデアだと思います》


基礎体力向上は、筋力と心肺能力を高めるスキルだ。

つまり運搬能力の向上にも十分に期待が持てるはずだ。


「ならばちゃっちゃと体力を上げようか。生存戦略起動」

《生存戦略を起動しました》


携帯端末の画面が切り替わるのを待ってからポチポチ連打して基礎体力向上の強化を試みる。


《基礎体力向上がLevel4になりました》

《基礎体力向上がLevel5になりました》

《基礎体力向上がLevel6になりました》

《基礎体力向上がLevel7になりました》

「おお……さっきまで持てなかったバックがなんとか背負えるようになったぞ」

《細マッチョですね》


元々サラリーマン時代は身体を壊したせいで脆弱で貧弱だった。その後、無職フリーターを経て無駄な脂肪を蓄えたややぽっちゃり気味の体格を維持していたのだがーー。


Level5辺りから筋肉が目に見えて引き締まりだし、Level7の段階で筋肉質と言って差し支えない身体つきに変化してしまった。すごいなこれ。


「そういえばこれ少年斥候の基本スキルだったよな。だとしたらこれから兵種はどう強化すればいいんだ?」


本来、少年斥候を強化することで基本スキルのLvが一律上がるはず。

足並みを崩してしまったが支障はないのだろうか。


《兵種Lvは基礎スキルのうち最も低いLvに依存します。だから残りのスキルを底上げすれば少年斥候も後追いで上がっていく仕組みです》

「なら心配はないか。まだ余剰カロリーは残ってるしもう少し基礎体力向上をあげてみるかな」


少年斥候関連のスキルは消費カロリーが半分だし、手に入れた缶詰やライトミートもあるから簡単に餓死はしないはず。


《基礎体力向上がLevel8になりました》

《基礎体力向上がLevel9になりました》

《基礎体力向上がLevel10になりました》


一足先に基礎体力向上をカンストさせてしまった。

見た目は更に筋肉が引き締まったくらいで大きな変化はなかったが、格段に体力がついた実感はある。いいね。


もしかしたら虫除けの時と同じようにスキル解放の選択肢が得られるのだろうかーー

などと期待しているとアナウンスが流れる。


《基礎体力向上が肉体強化に変質しました》

「お? うおおお……⁉︎」


同時に身体にピリッとした感覚が走る。

高校時代にマラソン大会で河原沿いを十キロ近く走らされた時を思い出すほどに身体が上気し始め、大量の汗が流れ始めた。

堪らずに身につけていたワイシャツとシャツを脱ぎ捨てる。


「うわ何この力瘤、腹筋もくっきり六つに割れているんだけど?」

《基礎体力向上が、肉体強化に変化しました》


肉体強化の説明書きには「筋繊維になんたら」という記述があったが、要は基礎体力向上の上位スキルであるようだ。

見た目だけではなく身動きのひとつひとつが滑らかで力強くなっているのが何気ない動作を通して実感できる。


「ちょっと待ってくれ……これステータス見たら肉体強化がLv1ってなってるけど?」

《それがどうかしましたか?》

「この究極細マッチョ状態から更に伸び代があるの……⁉」


だってもうこれ以上は鍛える余地はあまりなさそうな感じになってるよ。


もしかしてキャップやソーどころかハルクみたいなガチムチの体格になってしまうのだろうか。

恐ろしくも頼もし過ぎるな。


それにしても本来、ここまで鍛えるにはハードなトレーニングと蛋白質と休息とを何ヶ月も繰り返す必要があるはずだ。

お手軽に手に入ってしまうこの現象に、一抹の不安を感じないわけでもない。


クオヴァディスは契約書に縛られているせいで「企業秘密」だと教えてくれないが自分の身体に何が起きているのか知る必要はあった。

確かセキュリティクリアランスがどうとか言ってたよな。あれがどうにかなれば情報開示できるんだろうけど……。


《一定の条件が満たされたため、兵種:歩兵が解放アンロックされました》

「おや?」


見たことのない兵種のアイコンがポップした。

基礎体力向上:

肝臓、筋肉のグリコーゲン蓄積量を常人の二〜十倍まで引き上げる。

他、心肺機能、筋肉の強化。

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