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善良で幸福な社畜ですか?

「クオヴァディスさん……これ逃げた方がいいよね?」

《非常に危険な状況です》


機体にマシンガンらしき筒が備え付けられているのが見える。

この状況で背中を向ければキルユーキルユー言われて射殺されるのは間違いない。


《サピエンス、あなたは社畜ですか?》

「いや……もう違うけど」


ガチャリ――おかしな音が聞こえた。

何かが装填される音だ。非常に嫌な予感がする。


働かざる者ノーワーク・には死をノーライフ――以上》


ひび割れたハレルヤのメロディが鳴り始めると《アハハハハハハハハハハハハ》と素っ頓狂な笑い声を上げながら上昇する。


《キルユー、キルユー、キルユー》

「やばい。これは非常にマズイ流れだ。ジャミングジャミングジャミング !」

《スキルがあっても常に照準を外せるとは限りません、速やかな逃走をお勧めします》


ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダーー‼︎‼︎‼︎

凄まじい銃声と共に近くのアスファルトに走った火花を合図に、死の追いかけっこが始まってしまった。


なんとか弾丸の雨をかわしつつ全力で横断歩道を渡りきると、ようやく霧の向こうに雑居ビルの並ぶ通りが見えてくる。

きっと逃げ込めそうな場所があるはずだ。


「手頃な路地があった」


このまま逃げ込むべきか?


ただもし行き止まりで、ドローンに見つかったら逃げ場がない。

たとえジャミングがあっても回避しきれなくなるかもしれない。


なら走り続けるか?

多分それは無理。

持久走は苦手だし体力的にも既に厳しいので、間も無く息が切れて確実に追いつかれてしまう。


「……一か八か逃げ込む」


ちらりと振り返るとドローンは霧の向こうだった。

大腿筋に残されたありったけを振り絞り歩道からビルとビルの合間に入り込んだ。


残念ながら行き止まりとなっていたが雑草が生い茂り、ポリバケツと空の一斗缶が山のように積まれていたので、その陰に隠れる。


「クオヴァディス、マナーモード」


携帯端末をポケットにしまい棚の後ろに隠れて、なるべく呼吸を小さくするように努めた。

暫くすると《キルユー、キルユー》という叫び声と乱射音が建物に近づいてきた。


こちらの姿を見失ったらしくしつこく探しているようだ。


前回はセラミック包丁を投擲して勝てたが過信は禁物だ。

いくらジャミングできるとは言え中空からマシンガンを乱射してくる相手と正面からやり合うつもりはない。


頼むからこの路地に入り込んでくるなよ……と念じながらじっと身を縮めた。



キグルイドローンの《キルユー》が遠くなってどれくらいの時間が過ぎただろうか。

ドローンは諦めたらしく戻ってくる様子もなくなっていたので取り出した端末に「マナーモード解除」と呼びかけた。


《ぷはーε-(´∀`)》

「はあ……死ぬかと思ったな。この辺りドローンが多過ぎるだろ」

《ジャミングを取得していて幸いでしたね》

「あれがなかったら間違いなく死んでたな。クオヴァディスはAI同士なんだから宥めたりできなかったの?」

《とんでもない。あれは所詮ボットですからとてもじゃないですが話しかける気にはなりませんね》


ボットってSNSとかに自動投稿とかするあれ?

よく分からん。


「どっちだって同じじゃないの?」

《むっその発言はポリティカル・コレクトネスではありませんね(¬_¬)》

「は?」

《あのようなチューリングテストすら通過できなさそうな人工無脳と一緒にしないでいただきたい》

「うえっもしかして怒ってる?」


あのドローンと同列に扱うことはクオヴァディスのプライドを痛く傷つける行為であるようだ。


《速やかな謝罪と訂正を要求します》

「分かった分かった。謝るよごめん」

《いいでしょう。金輪際言わないのであれば謝罪を受け入れましょう(´ー`)》


何故怒ったのかピンときていないがクオヴァディスにとっては非常にデリケートな問題らしい。今後ドローンと同列に扱うような発言は避けよう。


「さて……目的のコンビニはこの雑居ビル街の通りだったよな?」

《この通り沿いです》


まだドローンがウロついている可能性が高かったから多少危険ではある。

食料品売場はまだ他にもあるだろうからこのルートに関しては探索を放棄しても良かった。

ただせっかくここまで来たのだから勿体無いので行くとしよう。


結果からするとその判断は間違いではなかった。


「コンビニが見えてきたけど……なんだか様子がおかしくないか?」

《ええ……(・・?)》


ALWAYSの目印である緑の葉っぱついたオレンジの看板が明滅・・している。

恐らく内部の照明装置が寿命を迎えかけているのだろう。


戸惑いながら店のそばまでやってくると自動ドアが勝手に開いた。

勿論、センサーが作動しているのだから自動で開閉するのは当たり前なのだがそういうことではない。


おののきながら通り抜けると――やはり店内が明るい。

無論それは天井に備え付けられた蛍光灯が灯っているからなのだが、その照度にはまるで下ろしたての太陽のような眩しさを感じる。


そして陳列棚に目をやれば隙間なく整然と並べられた商品群。

どれひとつとっても埃が堆積しておらず、包装用のパッケージのプリントが色褪せたりもしていない。それどころか真新しい輝きを放っていた。


「これは……どういうことなんだ……?」

《定期的に設備メンテナンス、清掃、商品の補充を行わないとこうはなりません(@_@)》


そこの貴方、コンビニなのだから当然じゃないかなどと言わないでほしい。


この地域は――クオヴァディスの見立てでは少なくとも十年以上の歳月、人の手が離れていたのだ。


実際、前回訪れたコンビニはほぼ廃屋といって差し支えのない有様だったではないか。


「いったい誰が管理を……?」

《サピエンス、あなたは社畜ですか?》

「ひいジャミング!」


咄嗟に繰り出した妨害スキルによって、それ・・は動くのを止めて静かに駆動音を響かせるだけの状態になった。


危なかった。

棚の品揃えに気を取られていたせいでレジカウンターにいたのに気づかないでスルーしていた。


ヘヴィーアーマーと呼ぶべきだろうか。

それは潜水服じみた不恰好な分厚い装甲で鎧ったゴリラのような体格の機械人形ドロイドだ。


ファイティングポーズをとった状態の頑強そうな拳には明らかに銃器と見られる装備が備え付けてある。


《ガガ……サピエンス……ガガ……あなたは社畜ですか? ガガ……?》


ゴリラアーマーはノイズ混じりに同じ言葉を繰り返してきた。

それは先程、追いかけ回されたばかりのドローンにされたのと同じ質問だった。


「社畜社畜ってなんでそんなこと訊いてくるんだ?」

《御主人様がネクタイにワイシャツ姿だからではないでしょうか?》

「いや確かに元社畜ではあるけどもさ、これは職質対策で着てるだけ、ってどうしよう」

《ガガ……社蓄で……ありま……すか……?》


ゴリラアーマーがこちらの言葉に反応してくる。

理解しているのかしていないのかよく分からないがギコチナイ動作で首を僅かに傾げてくる。

とりあえず物騒な拳が下がったし攻撃してくる気配はなくなったようだ。


《ガガ……では……善良で幸福な社畜たる……ガガ……民主左翼党のプレゼンをお願いします》

「民主……プレゼン? ど、どういう意味?」

《そろそろ逃げた方が良いのでは?》

「いや……ギリギリまでコミュニケーションを取り続ける」


何故ならこのコンビニには商品が豊富に揃っている。

つまり美味しい加工食品ーー例えばレトルトカレーや鯖缶だって販売されている可能性が大いにありえる。


多分このゴリラアーマーはこのコンビニに配置されている警備かなにかの機械に違いない。

だとしたらあれを破壊するか懐柔しない限りこの店を利用することは不可能だ。


見たところ、キグルイドローンと比較して鈍重そうではあるが、身にまとうヘヴィアーマーはどこを狙っても包丁や蹴りが通りそうにない。


逆にあの巨大な腕の攻撃を一撃でも受ければ、全身骨折もしくはバラバラに引きちぎれる自信がある。


ならば残る手はひとつだけだ。


ギリギリまで会話をして情報を引っ張り出しながら、ここを利用できるようにする機会を得る。

幸い言葉は通じるが知能はドローン並みのようなのでうまいこと喋れば誤魔化したり騙くらかしたりできるかもしれない。


レトルトカレーと鯖缶のためにも絶対に突破口を開いてやるのだ。

《レトルトカレーと鯖缶がお好きですね?》

「うん? 手軽だからよく食べてたけど別に好物ではないよ?」

《(^∇^)?》

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