9 僕の現状と心配なリアルの状況
目が覚めたらいつもと違う部屋だったので「あれ?」って思ったけどレンタルの部屋だった事を思い出した。
調理レシピ目当てで来た街は、今までいた所とは全然違って街並みが迷路みたいになっていて、ギルドに行くのにも迷ってしまう……もう何回も違う所に出てしまうのでうんざりだ。
ギルドのレシピは今までとは違う高スキルレベルのレシピで、使用する材料も多くて持ちきれないし、お金もかかるのでレオさんにお勧め聞いてからスキル上げすることにした。せっかくここまで来たのに暇になったなと思ってたら、ラビさんが来て他の街に連れて行ってくれるという。
せっかくここまで来たのに違う街? と思ったけど、レオさん全然来ないし他の街にも行って色々と調べておこうかなとラビさんに連れて行ってもらう事にした。
「じゃあ、行こっか」
「うん」
ラビさんは一緒に歩く時は必ず僕に「手を繋いで」と言うのだけど、外は怖いから自分から繋ぐけど街の中はいらないのにと思いながらも手を繋いでいる。
「ねえ、他はどんな動作が出来るの?」
と聞かれて他の動作? と僕が考え込んでいるあいだ黙っていたラビさんが急に
「キスとか出来たりする?」
と自分の顔を僕に向けてくるので、それくらいならと、ラビさんの顔に向かって僕の顔を寄せる真似をしたら「マジで? ちょう可愛い」とすごく喜んで「もう一回」とか言っている。
動作的に本当にキスとかは出来ないけど、顔を近くまで寄せるのは出来る。ラビさんは他のキャラとお互い見つめ合うのは出来るけど、顔を寄せるのは出来ないらしい。僕はやっぱりみんなとは違うのかな。
街への移動にはレベル的には問題ないと言われてるけれど、他の街への移動に森の中を通るのは暗い時間は怖すぎで、敵は獣人も怖いけど、骸骨みたいなのが気持ち悪くて見た瞬間動けなくなってしまう。
敵が怖すぎで精神的にも疲れちゃうのでここまでで良いと言うのに、ラビさんは遊ばないともったいないと言って色々と案内してくれる……僕が怖がっているというのが多分理解できないんだろうとは思う。
移動途中の獣人や怖いモンスターは、僕がものすごく怖がるのでラビさんが毎回倒してくれたり、敵が多い時は遠回りしてくれたりするので時間がかかるけれど何とか進んで、ちょっと遠い街にたどり着いた。
ここは石造りの綺麗な街で、僕のレベルではもうちょっとあとのミッションじゃないとここに来る必要はないらしい。
「春は桜の花が咲くんだよ。ここの桜並木がきれいで一番好きなんだ……もうすぐ終わっちゃうから」
見せてあげたくてと言ってくれるラビさんはとてもやさしい。でもあの怖いところを歩いて来たというのがあって僕としてはあんまり楽しめなかった。
複雑な思いで桜を眺めていたら、ラビさんは「ごめんね」と言っている。まあ、あの怖い思いをしたのは嫌だったけど、とてもきれいなピンク色の花を見られたのは単純にうれしいので「桜きれいだね。ありがとう」と返事した。
ラビさんに今の僕のレベルで行ける範囲は全部連れていってもらったけど、あとはミッションとかクエストをクリアしていかないと進めないらしい。
「ミッションなら、うちのコミュでも新人さんが居るから一緒に出来るようなら誘うね」
とラビさんが言ってくれるのだけど、僕はミッションとか別に進めなくて良いんだけど……とは言えない。
「うちのコミュリングもらってくれない?」
「今つけているのがあるから……」
「複数持っても平気だよ? うちは大所帯だけど楽しい人しかいないよ」
「うーん」
他の仲間にも紹介したいと言われたけど、大勢の人は苦手だからと断ってレンタルの部屋に帰ってベッドに横になって考えていた。
ここの世界は、やっぱり大勢の人で遊ぶゲームなんだよね。一人で細々と食いつないでいくとかのゲームじゃない。これは夢だと思っているけれど、現状の、リアルの僕はどうなっているのだろう……寝たままとか?
ここでご飯は食べているけれど、ゲームのキャラがお腹いっぱいになってもリアルの僕はどうしているのだろうか。急に心配になってきて泣きたくなってしまった。死んだとかじゃないよね……ここにいる人たちはログアウトして生活していると言ってるし。僕だけが変なのだ。