4 ゲーム内の約束は守られない
最近はコミュにレオさんが居ない時は簡単なクエストをこなして、レオさんがログインしてきたら一緒に外に出てレベル上げを手伝ってもらったりしている。
レオさんは僕が戦闘の仕方がイマイチ良くわからなくて敵の周りでオロオロとするのを笑ったりしないで戦い方をちゃんと教えてくれる。
敵の攻撃は当たると少し痛みを感じるのだけど、回復魔法で直してもらうと痛いのも消えるので、レオさんに回復してもらいながら戦っていたらレベルが20まで上がった。
「このレベルになったら他の街にも行けるね」
「他の街ってどんなところがあるの?」
「うーん、全部で5カ所の街があって、移動が船とか敵が多い森を抜けなくてはいけなかったりするんだけど」
レベルが上がって来たので街から少しだけ離れた所までレベル上げをしに来ているけれど、ここよりも遠くて敵が多い森とか嫌な予感がするので「まだ良いよ」と断った。
ずっと二人で会話をしていたのだけど、僕が会話に慣れたからそろそろ良いかなと、シンヤさんもコミュニティーに加わってくれて、最近は三人で話している。僕とレオさんはゲームの話しかしないのだけど、シンヤさんは仕事が辛いとか、明日は残業だから来れないとかのゲームじゃないリアルの話が多い。
「もうすぐバレンタインだけど二人はどうするの?」
とシンヤさんに聞かれたけど、僕はどうせこの場所から動けないのでゲームの中で過ごすと答えたら、レオさんも「用がないしここに来るかな」と言っている。シンヤさんは「俺はデートなんだよね、リア充でごめんね」と言って、これからミッションやってくるねと別のリングに付け替えてこっちのコミュから抜けてしまった。
「バレンタインってイベントあるかな」
「去年はハート柄のコスチームをもらえるクエストがあったけど、今年はどうだろう」
そうえいえば、僕は最初に買ったローブをずっと着たままなんだけど、今あげている戦士にはちゃんとした防具を買わないとダメかな? そういえば武器も最初にレオさんから斧をもらったのでそれをずっと使っているし……とか違う事を考えていたら、レオさんが「バレンタインコスが欲しいなら取得クエスト手伝うよ」と当日は二人でクエストして過ごそうねと言ってくれたので僕もお願いしますと約束した。
レオさんバレンタインはデートじゃないんだ……レオさんのリアルの話は聞いた事がないので、どんな人なのかあんまり想像つかない。
ものすごく優しいけれど、使っているゲームのキャラが熊のキャラなので離れて会話している時もその顔が頭に浮かぶ。
バレンタインイベントは一週間前くらいから開始しているらしいけど、レオさんと当日クリアしようと約束していたのでクリアしてもらえるのはあの胴装備かな? と他の人たちが来ているピンクのチュニックを遠くから見るだけで、クエストを受けてもいなかった。
前日にレオさんから「明日はクエストよろしくね」と言われていたので、当日は何もしないで待っていたのにレオさんが全然ログインして来ない。
もう今日は来ないのかな? と他のことをしようと思ってたら『バレンタイン当日はリアルで忙しい』はずのシンヤさんがログインしてきた。リアルはどうしたんだろうと思ったけど、そのことについて本人が触れないので僕も理由は聞かなかった。
「イベントのクエスト終わらせた?」
「レオさんと一緒にクリアしようと思って待っているんだけど」
「 あー、そっかあ。じゃあ俺とやろうか?」
シンヤさんはとっくにクエストクリアしてると思ったのに、あのピンクの服とか取っても着ないし邪魔になるからとクリアしていなかったらしい。
クエスト用のNPCに話しかけたら門の外のすぐ側にいるイベント用の弱めの敵を倒してアイテムを集めるクエストだった。対象の敵を二人で倒しまくってアイテムをなんとか集めて報酬のピンクのチュニックを手に入れた。
早速と着てみると丈が微妙で下を履いてないとパンツギリギリちら見せでシンヤさんのエルフでイケメン顔キャラだと変質者みたいだ。
二人でお互い着てるところを見せ合って笑っている所にレオさんがログインしてきたので「レオさん今……」と報告しようと思ったらシンヤさんが「内緒」と言うので何を内緒? どれを内緒? と悩んでいたらシンヤさんが遅いからもう寝るねとログアウトしてしまった。
「遅くなっちゃったね。ごめんね」
「ううん、大丈夫」
「クエストまだ間に合うかな」
「さっきシンヤさんと一緒にやって終わらせたけど簡単だったよ」
「そっか」
一度クリアして要領がわかっていたので、ここはレオさんのためにアイテム取りのお手伝いしなければと気合が入っていたのに、レオさんは「俺はいいや」と言って、ちょっと疲れているので今日はもう落ちるねとログアウトしてしまった。僕はレオさんに日頃お世話になっている恩返しが出来ると思ったので少し残念だった。