1 獣人怖かった
MMORPG?
ある日、僕は体調が悪くなり学校を休んで自分の部屋のベッドで寝ていた。
目が覚めると見知らぬ部屋だったので「ここどこ?」と起き上がりぐるっと見回してみたけど、部屋の中は自分以外に誰か居る気配がない……六畳くらいのワンルームの質素な部屋で小さなテーブル、小さな椅子、僕は小さなベッドの上だ。
狭い部屋なのでもう見るところも無くて、ここがどこなのか確認したくて正面にある扉を開けて見ると、部屋の外は小さな家が密集して建っている住宅街の中だった。
そのまま部屋から出て歩いて行くと大きな門があったのでそこから一歩踏み出すと、急に現れたように城壁と兵士、沢山の鎧やローブ、甲冑、忍び装束を纏った人達……耳とか尻尾が生えてる人がいた。
(これは夢?)
それならリアルな面白い夢だなと、街の中心くらいまで行って壁際に目立たないようにしてひっそりと立ち、街を、人を観察してると、広い噴水のある場所で
『初心者冒険者さんにゲーム操作の指導しまーす』
と叫んでいる人が居る。側まで行ってみると割と多くの人たちが集まっていて、豪華な装備の冒険の先輩がドアの開け方や会話の仕方、買い物仕方、競売所があると教えてくれた。
説明内容からすると、ここはどうやらMMORPGという大規模多人数同時参加型オンラインRPGの世界らしい。
ただ、説明にある基本的な操作に必要な『カーソル』が僕には無い。対象のものにカーソルを合わせて……で始まる説明は僕には適用され無い。
説明会が「それでは皆んなでグループを組んで外に狩りに出てみましょう」となってしまったので、カーソルがない僕はうまく動ける自身がなくてその場をそっと離れた。
ここに、この場所に存在している僕と違って、ここにいる人たちはこのキャラを操作して動かしている人がいるという事になるのか……確認したいけれど、これは夢かもと思いつつも人見知りが激しい僕は、中に人が居て操作して動かしているらしいキャラクターに話しかける勇気はない。
ここがRPGの世界なら街の外はどうなっているのだろうか?
外に出て確認して見ようかなとぼーっと街の外に出られるらしい大きな門の所に立っていると、先ほどの操作方法を教えてもらってた初心者さん達が外に出る準備が整ったようで、それぞれ武器や防具を揃えて門の側に集まって来ている。
グループを組んで外に出るようだったので、一人で出て行く勇気がなかった僕は少し離れてついて行って外の様子を確認しようと後を追う。
エリア切り替えが終わって目の前が明るくなった途端に、恐い顔の獣人を連れた人たちが街に向かって逃げてきたのが見える。
こちらに向かって走って来ていたけれど、門の所まであと少しの所で逃げ切れないで目の前で殺られて倒れてしまった……一旦獣人達が止まったのでそのまま引き返すのかと思ったら、こちらを向いて「グフォ」と一言発して、先ほどの初心者達に殴りかかって来たので、僕はみんなが一撃でどんどん倒されてしまうのを呆然と見ていた。すぐ側の人が殴られているのを見て慌てて街に引き返したけれど、近くで見た獣人が怖すぎる。
一旦、元の部屋に戻ってこれからどうしたら良いか考えてみた。
僕には『カーソル』は無いけれどドアは押したり引いたりで開ける事が出来る。その場で立ったままの人は『NPC=ノンプレイヤーキャラクター』と言って操作している人がいないゲームキャラクターであるとさっき教えてもらったので、普通に話しかけて見たら会話ができた。
さっきの先輩冒険者の説明であった競売所も覗いて見たけれど、視線を合わせれば見る事ができる……情報量が多すぎでついていけなかったけど。
ステータス画面は見れるのかなと考えていたら急に目の前にウィンドウが開いてステータスが表示された。
Name Kenta
Level 1
僕の名前はケンタじゃないんだけど??? これ誰のキャラ??? せっかくゲームならもっとかっこいい名前つけて欲しかった。(ケンタさんにはごめんなさいしておきます)
窓ガラスに薄っすらと映っている顔は僕と同じくらいの年齢……高校生くらいで、黒髪で肩くらいまでの長さの髪と茶色い目が確認できた。あと、平凡な顔で驚いた。ゲームキャラってイケメン設定じゃないのかな?
さっき見た街の中にはRPGのキャラっぽい普通の人型の男女、耳の尖ったエルフの男女、小さな子供くらいの背丈の可愛い人達、犬耳とフサフサ尻尾は男キャラで、猫耳と細くて長い尻尾は女の子キャラ。体が大きく尻尾がある熊型の男の人がいる。
自分はどのタイプだろうと思って確認してみると、顔はどのキャラか分からないけどお尻に尻尾とかが生えていないので多分普通の人型。せっかくリアルな夢なら犬や猫が良かったとがっかりした。
夢ならお腹が空かないはずなのにさっきから空きすぎできゅるきゅる鳴っているし。
所持金は200コインをさっき話しかけた中のNPCの人に冒険の為の軍資金としてもらったので、お店を回って物価を調べて見ると、パンが10コイン、水が5コイン、ジュースが20コインなのでパンと水のみなら一日二食制限で六日は食べられる。空腹は何とか出来そうだ。
この部屋は冒険者に無料で貸し出していると入り口のNPCに教えてもらったので住むところには困らなそう。お腹が鳴ったので先ほど覗いたお店に行って、パンと水を購入して食べてみると空腹感が無くなったのでホッとした。
NPCに話しかけてクエストとミッションがあるのは確認している。
街の外には出ないでクエストをこなしていけば生活は出来そうなので、夢から覚めるまでは地道に生き延びる事を僕は選択した。