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3.ララミス・フォン・ハウスホーファーと落ちた神童(3)

 とは言え、だ。


「魔術の素養を失くしたからといって、悪いことばかりじゃないんだな、これが」


 僕はチェーン付きの眼鏡を外しながらつぶく。


 ――人影も絶えた、夜。


 ガス灯が照らし出す街路に僕は立っていた。


 正面には一体の石像魔ガーゴイル

 何かの拍子に地獄への門(カオスゲート)が開き、這い出てきたにちがいない。ほうっておいても教会の騎士団が駆けつけてくるだろうが、僕のようにふらふら出歩いていた人間が襲われては大変だ。


「ギギッ!」


 やつは僕を見つけると、さっそく一直線に向かってきた。


 僕はゆっくりと右手の五指を向け、さらに左手でその手首を握って固定。


「『魔弾』」


 瞬間、僕の指先から五発の魔力弾マジックミサイルが飛び出した。魔弾は狙い過たず石像魔ガーゴイルを直撃し、その体を半壊させた。


 だが、さすがと言うべきか、所詮は知能の低い下級悪魔。そんな状態になりながらも、本能と衝動だけでそのまま向かってくる。


 僕は次なる言葉を紡いだ。


「『其の名は炎。我が敵を焼き尽くすものなり』」


 タイミングを合わせ、内から外へと左手を振るう。と、炎が吹き出し、石像魔ガーゴイルはその炎に包まれた。


「GyyyyyAhaaaaa!!!」


 やつは僕の目の前で力尽き、身を焼かれながら人間の声帯ではとうてい不可能な叫び声を上げる。


 僕は黙ってそれを見守った。


 やがて炎が石像魔ガーゴイルを焼き尽くし――残ったのは炭化して半ば粉となった石の破片だけだった。


「まぁ、決していいこととも言えないけど」


 僕は自嘲気味に笑う。


 と、そのとき複数の足音が聞こえてきた。おそらく悪魔の現界に気づいた教会の騎士団だろう。僕は足元にある炭化した石と砂の山をさり気なく蹴る。砂は風に乗って舞い、石はさらに小さな破片となって周囲に散らばった。


「君、無事か!?」


 先頭の男性が慌てた様子で声をかけてきた。


「悪魔はどこに行った!?」


 続けて問うてくる。


 普通の市民が、例え魔術科の学生だったとしても、ひとりで石像魔ガーゴイルを倒したとは思わないだろう。こうやって数人で駆けつけてきたことからもわかるように、石像魔ガーゴイル一体を犠牲を出さずに倒そうと思ったら、一人前の騎士が五、六人は必要だ。


 僕は眼鏡をかけてからそちらに振り返り、答えた。


「あ、はい。隠れていたので見つからずにすみました。悪魔は……すみません。どこに行ったかまでは」

「そうか。でも、君が無事でよかった」


 騎士はほっと胸を撫で下ろす。


「我々は逃げた悪魔を探す。君もこんな遅くに出歩いていないで、早く帰りなさい。いや、誰かに送らせよう」

「大丈夫です。すぐ近くですから」

「わかった。気をつけて帰るんだぞ」


 僕は「ありがとうございます」とお礼を言って、踵を返した。


 背を向けてから、心の中だけで彼らに謝る。何せ、いもしない悪魔を探して、ひと晩中警戒させることになるのだから。

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