お前ら全員追放だ!
はっきり言う。このパーティーは酷すぎる。
俺が甘やかしたから? そんなわけがない。パーティーはチームプレイ。持ちつ持たれつだ。一心同体となって挑まなければ、互いに足手まといなだけである。
ほら、『一人は皆の為に、皆は一人の為に』っていうだろ。どこの国の誰の言葉かなんて知らないけど。俺は幾度となくそれを彼らに伝えてきた。
つもりだった。
俺たちの戦い方は本当に酷い。
魔法使いに援護を頼めば、誤射で俺の背中をぶち抜いて、剣士に前衛を任せてみれば、攻撃が当たった回数は片手でこと足りる。戦士にいたっては何をしていたのか知らない。
誰も互いのことなど考えちゃいない。
正直もう限界である。
このままでは金や、体や、命や、アイテムがいくらあっても足りない。というか金は既に底をつきかけている。
これでは目的も達さぬまま、全滅する未来が目に見えている。パーティーランクだってDから上がったことがない。——これって上げない方が難しいんじゃないか。
まったく、世界は不思議なことで満ちあふれているな。
俺が勇者だからと集まってきた連中なのは分かっていた。はじめて会った時はそれなりの実力者ではあったんだ。だから、ここまで酷くなるとは普通、思わない。
彼らの加入を許したのは俺。責任があるのは理解している。だからといって彼らをいつまでも養う義理なんて俺にはない。
だから今日、メンバー全員にパーティーを抜けてもらう。そう、決めた。
俺はメンバーをギルドの待合スペースに呼び出して、三人の顔をひとりづつ見やって。
俺は結論から伝えた。
「はっきり言う。このパーティーは酷すぎる。だから君たち、このパーティーから抜けて欲しいんだ」
三人はきょとんとしている。
なぜそんな顔をする? わかるだろ、普通。このパーティーがどんな状況で、どんな境地なのか。
すると魔法使いが身を乗り出して騒ぎ立てる。
「嫌だよ——っ! そんなの絶対にいやっ! 私は勇者くんと旅したいよ!」
「と言われてもな……もう決めたことだ」
俺が意思を伝えると彼女は「酷いよぉ勝手に」と手をぶんぶん振って不満を吐き出す。
「僕がいなくなったら後援はどうすんのさっ? 困るでしょ? ね?」
俺を心配する風にくねくねと——ああ、むずむずするっ!
顔良し。服装も言葉もいっちょ前。でも、ただそれだけ。結局自分の保身しか考えてないのだ。
「後援って俺の背中を焼くことか? 本当はわかってるんだろ? 自分がいない方が色々スムーズに終わるって」
魔法使いはぐぅと唸って口を閉ざしてしまう。
「で、でもよっ。メンバーはいねえよりはいたほうがいいだろ? 確かにたまに足をひっぱってたかも知れねえが」
剣士が腕を組んで尋ねてくる。
他の二人もその言葉に頷いて、俺の反応を今かと待っている。
「足を引っ張るどころじゃないだろっ! なにもしてなかったじゃないか!」
俺が机を叩いて睨むと、ビクッと肩を揺らして小さくなってしまう。デカいのは体だけだ。
まあ、何を言われようと俺の決意は変わらない。
「もう限界なんだ。頼む」
俺は頭を下げた。深く、机に叩き付けるように。
本当に、もう無理なんだ。
「そ、そこをなんとか……駄目かなぁ?」
俺が頭を上げると、魔法使いが甘えた声を出して濡れた瞳で俺を見入ってくる。その姿がいくら魅力的であろうと、今の俺にとっては不快でしかない。
「駄目だ」
「そこをなんとか……」
「駄・目・だ!」
そういって一枚の紙を叩き付けるように突き出した。
「パーティー除名の合意書だ。ここに君たちの名前を書いてくれ」
三人はそれをしばらく眺めていたが、戦士が「わかった」と合意すると、剣士、魔法使いと流れるように名前を書きはじめた。
「今日までありがとう。今後の……みんなの幸運を祈っているよ」
俺は三人の顔を一人づつ眺めて、合意書を引き取ると席を立った。
同時に魔女が俺を睨んで、
「なら最初から追い出すようなことしないでよっ……」
と泣きそうな声で唸る。
「すまん」
俺はそう一言だけ返して一礼をし、受付のほうへ歩き出した。
背後で「くそがっ!」と戦士が大声で叫んでいるのが聞こえた。
「これ、お願いします」
同意書を受付の女性に渡す。少し、寂しい気持ちも湧いてきたが、開放感の方が勝っていた。
これでもう、戦いで苦労することはない。当分の間は一人で活動することを決めていた。
自分で言ってしまうのはアレかも知れないが、俺は結構強い方だと思う。現に四人パーティーを組んでいたとき、殆どの敵は俺一人で倒していた。いや、むしろ全部倒していた気もする……。
駄目だ。過去は忘れよう。もうソロパーティーになったんだ。ソロパーティーって変な言い回しだな。
そんなことを考えて、処理が終わるのを待っていると、受付の女性が不思議そうな表情で俺に尋ねてきた。
「あのぉ。勇者様って確か、ランクDでしたよね?」
「あはは……恥ずかしながら」
受付の女性はパーティー申請書をこちらに見せてランク欄を指し示す。
「これ、SSSにランクアップしてますけど」
「……へ?」
俺は間の抜けた声を出して示された部分へ視線を送る。
「その、ランクSSS……ってなんですか?」
俺たちは目を見合わせて苦笑いした。