助けて貰いました
俺達は浮かれていた。
だってそうだろ、遂に冒険者ランクCに到達したんだから。
しかも、通常Cランクには冒険者歴3年は必要と言われている中、俺達はたったの1年で成し遂げたんだ。
史上最速の3日には及ばなかったがこれも十分早い。
これだけでも、俺達のパーティは有名になり、指名依頼が入りやすくなる。
つまりは収入が増えるってことだ。
あくまで予定であってまだ増えてはいない。
だけど、もう気分はお金持ちってやつで…
早い話、有り金全部ギャンブルですっちまったんだ。
俺達は肩を落としてうなだれながら拠点としている宿屋の一室に戻る。
「はぁぁ、やっちまったな。」
「本当…このままだと明日の宿の支払いも出来ないよ。」
そういうのは小柄で華奢な少年だ。
可愛らしい少年だが前職は盗賊と中々物騒な奴でもある。
しかし今は彼ご自慢のつぶらな葡萄色の瞳も元気がない。
「こうなったら、Cランクの依頼を受けて早急に金を作らなくてはな。」
重々しくいうのは赤茶色の短髪にバンダナを巻いた筋肉隆々の男。
たとえ冬でもタンクトップ一枚ですごす男の中の男だ。
「そうと決まればギルドが開いたらすぐに行こう。」
俺の提案に二人はうなづいてくれた。
そして夜通しギャンブルに興じていた俺達は仮眠を取ろうとベッドに入り…寝過ごした。
「お前このタイミングで寝過ごすとか馬鹿だろ!」
「それはお互い様だ!」
俺達はお互いを罵り合いながらギルドに行くが…
やはりというかいい仕事はなかった。
せっかくCランクになったというのに肝心のCランクの仕事は勿論ひとつランクを落としたDランクの仕事もなかった。
あるのはEランクの採取依頼とFランクの街の雑用ばかりですっからかんの俺達には儲けがなさすぎた。
「どうする?」
「このままだと宿屋を追い出されるぞ…。」
ヒソヒソと相談している俺達の横にギルドの受付のお姉さんが新しい依頼を壁に貼り付けた。
とはいうもののそれはBランクの仕事で俺達は受けられない。
でもホーンベア討伐…?
「おい、あれ見ろよ?」
俺がこそっと新しい依頼票を指差す。
二人がそれを見て喉をならす。
「なあ、俺達前にホーンベア倒したよな?」
そう、今から半年前、旅の途中に出くわしたホーンベア。
さすがに楽勝とは言えなかったがなんとか仕留める事が出来た。
そのツノが高値で売れて俺達はウハウハだったのだが…。
「ランクが足りねぇからギルド経由では受けられない。
それでも旨味のある相手…じゃねぇか?」
俺達はニヤリと笑った。
考えている時間はなかった。
刻一刻とタイムリミットが迫っていたのだから。
普段ならもう少し考えたさ。
…言い訳にもならないけどな。
俺達は急いで街を出発してホーンベアが出る森へと向かった。
道の整備が進んでおり大きなトラブルもなく四時間ばかしで到着した。
日が傾いちまってる。
俺達は森の中に入った。
かなり広い森のようで、簡単には獲物はみつからないかもしれない。
しかし…。
「あ、こっち!」
シャルが持ち前の能力を発揮する。
元盗賊である彼は探索能力に優れており、今も熊の爪痕を木の上のほうに見つけたのだ。
「高い所に跡があるな。」
アッサムが見上げながら言う。
背の高い彼ですら背伸びをしても届かないほど高い場所に爪痕が木の幹を抉っている。
「最近つけた跡みたいだし、今からなら追いつくよ!」
シャルが明るく言う。
俺達は軽く頷くと足早に移動した。
そして、運がよかったか悪かったか太陽が完全にに沈む直前にホーンベアを見つけた。
水飲み場で水を飲んでいる。
「あの大きさ的にあれがあの爪痕の主だね!」
シャルが断言する。
「よし、今なら隙をついた一撃が入れられる!」
俺が剣の柄を手に取った。
「まて、念のため補助魔法をかける。」
アッサムが俺とシャルに倍速と体力増加の補助魔法をかけてくれる。
「よし、行くぞ!」
俺は風下に回り込み少しずつ距離を詰める。
そうこうしているうちに太陽は完全に沈みあたりは暗くなってしまった。
この時やめておけばよかったんだ。
だけど、今更後のまつりだ。
この時水を飲み終わったホーンベアと目があっちまったからな!
「っち!」
舌打ちして俺は飛び出す。
剣を引き抜き構えて走りこむ。
ホーンベアの反応がワンテンポ遅れた。
「はあっ!」
補助魔法に助けられた一撃は間違いなくクリティカルヒットとなった。
しかし、相手は倒れない!
それどころか…
「ウォォォォー!」
「仲間を呼んでるのか!?」
俺は慌てた。
「ジェシー!」
シャルの声に俺は反応した。
いつの間にかホーンベアは俺の目の前に迫り腕を振り上げていた!
「うわっ!」
俺はその一撃をなんとかよけた。
倍速魔法がなければ食らっていた。
「いっくよ!」
シャルの投擲がはいる!
しかし、シャルの遊撃にホーンベアは全く動じない。
「やばっ!やっぱ僕じゃ火力不足!!」
「そうだな!前もそうだった!」
俺はシャルに応えながらも剣を構えて切り込んでいく。
複数の斬撃を繰り返し行う事で相手に反撃の隙を与えない!
「よっし!これならどうだぁ!」
シャルがホーンベアの目を狙ってナイフを投げつけた。
狙い外さず片目にナイフが刺さった!
「よしっ!」
俺がとどめを刺そうとして…
がさりと草むらが…いや、大木が揺れて倒れた。
俺は思わずそっちを見た。
「おい…嘘だろ?」
目の前の熊が子熊に見えちまうほどでかい熊がのっそりと二頭姿を現した。
ってか、見た目通りこの目潰しした熊はこいつらの子供なんじゃね?
嫌な予感に乾いた笑いが止まらない。
俺は目潰しした熊からも大木をなぎ倒してやってきた熊夫婦からも距離をとる。
勿論、シャルも同じだ。
「幻覚」
アッサムの逃走魔法の援護がはいる。
熊夫婦が頭をふり始めた…と、同時になりふり構わず俺達は走った!
勝てるか、あんなの!!
前に倒したホーンベアも子熊だったんだ!
あれが…あの大きさが本来のホーンベアなんだ!!
ツノもでかいし、爪なんて触っただけでスパッと腕くらい切れちまいそうだ!!
「ぐおぉおぉお!」
「やばい!!幻覚魔法効いてねぇ!」
アッサムが叫ぶ、そして倍速魔法を重ねがけしてくれる。
うん、これがなかったら間違いなく数秒で追いつかれるわな!
「はっ!」
シャルが振り向きざまに投擲するも追跡速度は全く変わらない。
あ。これあかんやつ。
走馬灯がぐるぐると…
「こらー!ジェシー諦めたらそこで試合終了だぞ!」
アッサムが叫んでいる。こいつ余裕だな!
だけど、どう考えても詰んでね?
子熊のホーンベアに漸くってレベルの俺達が夫婦の怒り狂ったホーンベアに勝てる道理はねぇ。
逃げ切れるとも思えねぇし、俺達も年貢の納め時ってやつだろ。
あーあ、ど田舎からひと旗あげたるって出てきたけどうまくいかねぇな。
でも、気の合う仲間とも会えたしまあ、悪くなかったな。
俺は自嘲する。
そして足を止めて振り返る。
「!?」
「おい!?」
「おめーらは逃げろ!俺は足止めする!」
「無理に決まってる!」
シャルが叫ぶ。
「なぁに、余裕だ!任せとけ!!」
『ジェシー!』
二人の悲痛な叫びがこだまする。
俺の技術じゃ足止めにはならねぇ。
だけどさ、俺を食ってる間くらいは時間稼げるんだ、だから行けや、ボケ。
熊が二頭唸り声をあげながら足を止めた。
ほら、迷ってる暇はねぇ、さっさと行け。
俺は無言で剣を構えて…
不意に人影をみた。
『!?』
俺達はそちらを見た。
俺達より熊の近くに人がいた。
使い古しの木綿シャツに半ズボン。
泥で汚れたブーツ。
どう見ても農夫の普段着。
手入れなんて全くされてないぐちゃぐちゃな金髪に琥珀色の瞳。
そして手ぶら。
「!!おい!危ねぇ!逃げろ!」
なんでこんな所に一般人がいるんだ!?
ちきしょう!自分達の身すら危ういところになんでまた…!
しかし、俺の心中をよそに男は笑った!
笑いやがった!この状況で!
「やった!早めに見つかった!」
男は嬉々としていた。
「おい!危ねぇ!」
しかし、俺の言葉虚しくホーンベアの一頭が首をそちらに向けて走りだした!
ああ!
シャルが投擲するが全く意に返さないホーンベア!
ああ、農夫が死ぬ…
しかし、それは杞憂だった。
結論から言えば倒れたのはホーンベアの方だった。
『風刃!』
瞬間音もなくホーンベアの頭と胴体が別れた。
「は?」
俺は惚けた声を出す。
きっと仲間も、もし話せたらホーンベアも同じような声を出しただろう。
それくらいあっけなかった。
いや、ちょっと待て!
なんで農夫がホーンベアを瞬殺しちゃうの!?
しかもウィンドーカッターって初級攻撃魔法だよね!?
なんでそんな強力なの!?
俺が呆然としている間にもう一頭も同じ末路を辿った。
そして、彼は…そう後々俺達の親友にして師匠になってくれる彼は言った。
「おい、お前らアイテムボックス持ってる?」