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勇者と魔王はお友達!  作者: さやか
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勇者と楽しくだべる。

「もしもし!」

「なあ、そのもしもしってなんなんだ?」

あ、そこからスタートか。

そりゃそうか、電話がないのだ、もしもしという挨拶だってありはしない。

「通信魔法を始める挨拶。

もしもしって言ったらもしもしって返すのが礼儀。」

「ふーん、変わった挨拶だな。」

「慣れれば大したことないさ。」

わしは笑いながら言う。

「それより、さあ、時間は少ない。

色々話そうではないか。なあ、あの謁見の間に着いた途端挨拶がわりに投げ込んでくれた火炎魔法、あれはお前のオリジナルか?」

「ああ、そうだ、って、それより待て。

今度こそ聞かせて貰うぞ。」

「うん?何をだ?」

「事情だ、事情!」

「事情といってものぅ。」

「まず!このすまー….なんとか!

これ、目が覚めたら枕元にあったがどうやった!?」

「わしの魔法技術と化学技術を融合させたのじゃ!」

「かがく?」

「こちらで発達している魔法と思ってくれていい。」

「そっちと、こっちでは魔法形態が違うのか。」

「そうじゃ、こっちの魔法の方が道具と使いかたさえ知っていれば誰でも使える分、優秀じゃな。」

「そりゃすげーが、幾ら何でも攻撃魔法は無理だろ?」

「こっちの世界はそっちに比べて格段に平和故、そもそも攻撃魔法を常用しようという考えがない。」

「なん…だと…」

勇者は衝撃を受けたようだ。

「わしはこの世界に来てからそっちの世界に準じる攻撃手段を見た事がない。」

「そんなに平和なのか…」

「ははは!何を言う!そっちだって平和だろ?」

勇者の言葉をわしは笑い飛ばした。

「何が平和だ。こっちは相変わらずだ。」

「魔王を倒したのに?」

「ああ、何もかわらねぇ。」

「つまらぬのぅ。だが、お主は平和を享受しておるのだろ?」

「は?」

間抜けな声が耳元でするが、わしとて馬鹿ではない。

想像するまでもない事実がそこにはある。

「何せ人間の天敵たる魔王を倒したのだ。

今頃、贅沢な暮らしをしているのだろ?」

まさか、魔王を倒すという成功率の低い依頼をタダで引き受ける阿保ではあるまい?

「成功の暁に何を王に願ったのじゃ?

聖剣の所有権は当然として、無難に一生贅沢出来る財かの?

それとも王の娘で何人か独身がいたよの?

…そうそう、アリアナ姫などわし好みの美女だったから攫って地下牢に閉じ込めていたのだが…

やはり、美味しく頂いてしまったのかのぅ。

ああ、お主に城に乗り込まれるより前に味見くらいしておけばよかったのぅ、惜しい事をしたのぅ。」

何故か電話の向こうは無言だ。

きれてはいないようだが。

「そんなことより。なんでこんな魔法使ってまで俺と話したがる?」

「そんなことって…ああ、君の奥方に対して失礼だったね、謝るよ。

君と話したいというか…これは実験さ。」

「実験?」

「そう、果たして魔法と化学は融合するのかという….ね。」

「どういうことだ?」

「こっちは魔素がそっちに比べて格段に薄い。

故にかつて魔王と呼ばれたわしにもスペックとしては問題なくても魔素が無いため行使出来ない魔法がたくさんある。

もったいなかろう?魔素が足りないだけで、諦めるには惜しい便利魔法がゴロゴロしているというのに使えないなど!

ならば、こちらの魔法である化学で再現を試みるが、化学は魔法の理論概念より遥かに難しい。

例えばこのスマホだってわしは一から作る事は出来ないしのぅ。」

理論理屈概念を理解して呪文を組み立て使用するあちらの魔法に対してこちらの魔法はそんなもの知らなくても道具があれば誰でも使えるという簡易性に優れている。

便利だが新しいものを生み出すのに手間がかかりすぎるのが難点で簡単な修正アレンジすら一般人には出来ない。

「だからわしはこの二つを組み合わせることで簡易性と利便性の両立をはかれぬかと実験することにしたのじゃ!」

スマホの向こう側はこちら側を覗く事は出来ないがなんとなく胸を張ってみる。

「魔法理論はともかく化学理論はよくわかったな。」

「完璧は無理でも簡単な修正くらいなら専門書片手になんとかなった。

あとは組み合わせといっても魔法理論の方が得意故そちらに比重を置いているしの。

今回は機器はそのまま弄らず利用、こちらの通信技術を使用しつつも距離は魔法で稼いだ。

まあ、細かい修正どころは企業秘密じゃ。」

「とりあえず、俺には使えないってのがわかった。」

「いや、電話だからな。そっちからかける事も出来るぞ。」

「そうなのか!?」

「ああ、一応番号を教えてやろう。

番号は…」

わしは勇者に携帯番号と電話の掛け方を教える。

まさか勇者に連絡先を教える日がくるとはの。

一度死んで転生してみるもんじゃ。

「で、現在魔法と化学の融合実験中ということでどこまでそれがもつのか試してるわけよ。」

「てか、この道具自体どうやって送ったんだ。」

最初の質問に戻った。

「これはそっちにもある転送魔法の応用よ?」

「いや、さすがに異世界のものを送受信出来ないからな。」

「気づいたか。」

「当たり前だ、これも化学技術との融合って奴か?」

「いや、この転送に関してはそちらの魔法のみで行った。」

「…魔素がそっち薄いんだろ?」

「行き先を勇者に限定して魔素の節約に努め、さらにわしのスキルを使用、それでも足りない分はこちらの世界で魔素の代わりに流通しているエネルギーで代用した。」

「そっちのエネルギーって?」

「電気じゃ。」

「デンキ?」

「雷と言い換えてもまあ間違いではあるまい。」

「随分でっかいものもってくるんだな!」

「実際の電気は扱いやすいように加工されているぞ。」

家庭用コンセントから引っ張りだせる電気などたかがしれているから結構頑張ったのだ。

魔王としてのスキル魔力節約、魔素集合がなければちと厳しかっただろう。

「さて、そっちにスマホを送った理由も送り方も教えたところで楽しく昔話をしようぞ!」

「まて、最後になんでおれなんだ!?」

「なんでって、そっちの知り合いはお主しかおらんしのぅ」

「いや他にもいるだろ?」

「確実に生きてるっていうのはお主しかおらんよ。

わしが死ぬ前に散々わしの仲間を屠っていたのだ、わしの死後は根絶やしにしたのだろ?」

「…と、いうより地形が変わるほどの魔法の影響であの辺り一帯の魔族は消滅した。」

「やはりのー!」

想定内すぎて笑いが止まらない。

「お前の仲間が死んだってのに随分明るいな」

「いやだってわしも死んだしの。

お主もとっくの昔に死んだやつに恨み言言われても困るだろ。」

「いや、そうだが…」

「実際特に恨んではないぞ。

魔族というのは力が全て。

負ければ勝者に従うのじゃ。

そして四年前お主はわしに勝った。

故に其方の望み通り魔族は滅びる事にして世界を人族に明け渡した。

それだけよ?」

「それが俺の望みだったのか…」

「違うのか?」

「違う…いや、違くねぇ。」

「どっちだよ。」

わしは笑う。

まあ、どっちでもいい。

わしは死んだ。もう終わった話なのだ。

そんなことより、昔話をしたりわしの死後の話を聞いたりしたいのじゃ。

そういう事が出来ないのでは、魔法と化学の融合実験に異世界との通信なんて選ばないからの。

「のうのう、それで今、お主何してる?」

「な、何って!?」

声が上ずっている。

「ほら、わしが死んだのだからずっと職業勇者ってわけではないだろ?

褒賞を得て何をしているのか気になるの。

それにかつての其方の仲間。

特にあの魔法使い。わしもびっくりのスキル持ちだった故にその後の行方が気になるのー」

「ああ、あいつか…」

勇者が彼を思い出したようだ。

乳白色の髪に鮮やかな青い瞳、端麗な容姿は本当に男にしておくのは惜しいと思っていたのだよ…。

「あ…あいつは…」

彼が答えを言うより早く。

「まやちゃん?そろそろ寝なさいね?

明日も保育園よ?」

「はあーい、わかりましたぁ」

母上に部屋の外から言われてしまう。

確かにもう眠い。

「勇者よ、もう時間だ。続きはまた明日この時間に。」

「ってまてまて!」

「なんだ。わしはもう眠い。」

「いや、早くね!?まだ八時半だよ!?」

「わしはいつもこの時間に寝る。」

「ありえねぇ。ってか保育園って聞こえたんだけど?」

「うむ、今日から通い始めたのじゃ。」

「それは仕事として?」

「何を言ってる?」

わしは眉を顰めた。

「聞くのが怖いが一応聞く。

お前、年幾つだ?」

「…何を馬鹿な事をきく?そちらとこちらでは時差がなく、あれから四年しか経っておらぬのだ。

計算くらいできよう?」

「いや、わかってる。わかってるんだが念のためお前の口から聞きたい。」

「何が何だかわからぬが…わしはみっつじゃ。」

「…」

勇者が無言になる。

聞いておいてリアクションなしとは不届き者め。

まあ、いい。

明日は勇者の贅沢ライフやこっちの空想上の魔法について話してみよう。

「ではな、おやすみ」

ぷちっと通話ボタンを押してわしはベットに潜り込み夢の世界へ旅立ったのだった。


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