ピンチ切り抜け
しまった!
内心毒づく暇もなかった。
ただ無意識で隣にいたジェシーを抱きしめその場で押し倒すくらいしかできなかった。
こんな状況なのにジェシーの後頭部を手で掴み打ち据えないよう庇ってしまうのだから笑える。
魔法を展開する余裕もなかった。
全くの無防備な状態での直撃を…死を覚悟する。
直後、爆音。
周囲が爆ぜ割れ滅されていく。
肌に焼きさすような痛みが走り苦痛に顔が歪む。
痛みを堪える為かはたまた守る為か自分でもわからないがジェシーを強く抱きしめた。
足元が大きく崩れて落下していく。
浮遊感が俺達を襲う。
肩に頭に瓦礫か礫が叩きつけてくる。
ジェシーがどうなっているのかは目を閉じている俺にはわからない。
ほんの数秒の出来事が永遠に続く地獄の責め苦のようだった。
体が強く地面に…いや、ジェシーの上に叩きつけられる。
俺はジェシーを下敷きにして塔の上から落下したようだった。
塔は竜に耐えられなかったのだ。
「っくぅ…!」
体が痛い。
少しでも動かせば痛みで細胞が悲鳴をあげる。
「ふ、ファリスさん…!」
下敷きにしてしまったジェシーが声をかけてくれる。
よかった、生きてるようだ。
だが、二人ともよく助かった…!
ジェシーの目が驚きで大きくなり俺…いや、俺の後ろを見る。
「後ろ!」
俺は痛みをこらえて首をひねり後ろを見る。
そこには…
「レオナルド…?」
言葉がこぼれた。
レオナルドがすぐ後ろに立っていた。
バトルアックスを盾にして俺達をかばうように。
俺達は確かに怪我を負った。
だが、竜の吐息の直撃を食らってなおこの程度で済んだのは…。
ぐらり…
レオナルドの体が倒れてきた。
俺は痛みも忘れてレオナルドを支えようとした。
立ち上がりたかったがそれは無理な相談で上半身を起こすにとどまった。
レオナルドが持っていたバトルアックスは原型を留めてなかった。
何で出来ているのかは知らないがただの鉄ではなかったはずだ。
それを盾にしてなお、レオナルドの怪我は酷かった。
焼ける肉の匂いがした。
受け止めた体から溢れる血液。
「おい!レオナルド!」
喉を叱咤して俺は声をかけた。
「…」
だが、レオナルドは答えない。
「アッサム!治癒だ!」
どこにいるかはわからないが、俺は叫んだ。
しかし、答える言葉はない。
「これ!」
ジェシーがアイテムボックスから例の高級薬を取り出した。
俺は奪うように受け取って大盤振る舞いでふりかける。
「頼む!効いてくれ!」
祈るように呟いた。
その言葉に返すように僅かにレオナルドの体が動いた。
奇跡だ。
バトルアックスの盾と薬、そして獣人の丈夫な体。
この3つのおかげで彼は命を繋いだ。
「よかった…!」
俺は心底ほっとする。
目に何かが入りこすってみれば薄まった血だった。
額から流れた血が目に入ったのだろう。
でも、何故薄まったのか。
考えるのもアホらしい。
「アッサムとシャルは…!?」
ジェシーが俺の下から這い出て周りを探す。
俺も目を凝らして…
「あそこか!」
俺は指をさす。
少し離れたところで瓦礫の下敷きになっている二人を発見。
ジェシーが走る。
いや、ダメージがあるからよたよた歩くと言った方が正しい。
「アッサム!シャル!!」
「う…」
「こっちは…なんとか…」
「生きてはいるが…動けない…」
「待って!今助ける!」
ジェシーが瓦礫をどかそうと動いた瞬間
「ダメ!次がくる!逃げて!」
「何言ってる!」
「いいから聞け。俺達は動けない。
お前達は動けるんだ、今なら間に合う。」
「そんな…!」
ジェシーが俺を見る。
逃げるかって?
「誰が…!」
誰が逃げるかよ。
「こっちも満身創痍だっつーの。」
俺は漸く立ち上がる。
「逃げ切れるわけない。」
俺は剣を引き抜いた。
「なら、戦うしかねぇだろ!」
「そのとーーーり!」
一人やたら元気に見えるジェシーが笑う。
そして、予備の剣を引き抜いた。
「置いていかない!死なば諸共っす!」
「縁起悪いな!」
俺はふっと笑った。
楽しいな、と思う。
すぐ隣どころか死に片足突っ込んでいるのにそう思うのは俺が戦闘狂だからか?
いや、魔王討伐はもっと酷かったがこんなふうに心踊らなかった。
そうか、こいつらだからか。
どうせ共に戦い死ぬならば、気の合うこいつらと共にあった方がいい。
俺は覚悟を決めて空を見上げたのだった。