こっちも大ピンチ!
「お、おじさん…!」
あたしはよろりと立ち上がり竜が突撃した瓦礫に向かう。
「こら、待て!」
置いてきた幼女が後ろから声をかけてくるが右から左に抜けていく。
「あああ!」
短い間だった。
普段はいがみ合ってる犬人族だった。
だけど、こんな小娘に薬をわけてくれた優しい人だった!
交わした言葉の数は片手で足りる程だけど、失うには大きすぎる人だった。
「大変だ!」
「助けるですよ!」
象人族の人が鼻を伸ばして瓦礫をどかすが上からさらに崩れてしまい、おじさんを掘り起こすのには時間がかかりそうだった。
それでも、もしかしたら生きてるかもしれない。
僅かに可能性があるなら助けなくては!
皆一丸となり瓦礫に向かった。
「こら!早く逃げぬと次がくるぞ!」
動く事もままならない少女の声にあたしは…あたし達はびくっとする。
そしておそるおそるそちらをみた。
小さな小さな少女。
そうでなくても小さいのに右半分を失ってさらに小さくなってしまった哀れな少女。
なのに、その身体から発せられる怒気にあたし達は怯えてしまう。
「すぐに次がくる!ここは危険じゃ!」
そう、わかってる、彼女が正しいなんてこと。
だけど、だけど!
あたしはきっと彼女をにらんだ。
彼女は息を飲んだように見えた。
「おじさんを助けなくちゃ!まだ生きているかもしれない!」
「死んだに決まっておろう!阿保か!」
間髪入れず彼女は言い放った。
「死体を掘り起こしている暇があれば逃げよ!」
「なんでわかるの!?」
「竜の特攻が直撃したのじゃ!
瓦礫の量から推し量るに重さは数トンに及ぶ!
穴が崩れた時点で圧死確定じゃ!
寧ろなんで生きてると思えるのか、教えてみぃ!」
数トンってどれくらいの重さか全然わからない。
あたしよりずっと小さいのにあたしより物を知ってる事に驚愕すると同時に心がないのかと愕然とする。
理屈じゃない、助けたいんだ。
だけど、彼女を説得できるだけの知恵も言葉もあたしにはなかった。
「ねえ、助けたいとか思わないの?」
「死体だとわかってるものに時間を割く余裕はない。」
「手当てして貰ったじゃない。」
「それは感謝している。」
「だったら…!」
「だが、それだけだ。」
「…!」
意味がわからない。
手当てして貰って言葉を交わしたのに、目の前で生き埋めになったのに、何も思ってないようだった。
「猫のお嬢さん、きっと言ってもわからないよ。」
「彼女は支配する側だ。俺達平民なんて同じ命を持ってるなんて思ってないんだろう。」
違う。
そうじゃない。
支配する側だからわからないんじゃない。
あたしもおじさんも彼女も同じ命を持ってると理解した上で切り捨てたのだ。
一言で言えば情がない。
よく言えば切り替えが早く悪く言えば残酷だ。
彼女が正しいのはわかってる。
死んだものより生きてるあたし達。
理屈ではわかってるのに感情で割り切れないあたし達は愚かなのだろうか。
不意に地面が揺れた。
あたし達はふらつき手を地面についてしまう。
「早く行くぞ。今のは遠かったがいつ近くで落ちてくるとも限らない」
言って少女は片足で立ち上がった。
あたしがいなければいないで自分の足で立ち上がり誰の手助けなどなくても器用に前に進んで行く。
彼女は強い。
心が強い。
仲間が死んでも、あたしが死んでも、皆が死んでもきっと彼女はこうやって先に進んでいくのだろう。
後ろなんて振り返らずに、最初から一人で歩んできたかの如く。
あたしは足に力を込めて立ち上がった。
そして彼女のところにいき、そっと肩を貸す。
「漸く行く気になったか。」
彼女の言葉に返すものはない。
皆後ろを振り返りながら、前に進み始めた。
しかし、お城は遠かった。
道も建物もないと言うことが必ずしも遮蔽物がないと同義語となるわけではないとあたしは知った。
かつて何かの建物だった瓦礫が散らばり行く手を阻み、辿れる道は自分達で作っていかなくてはならない。
人の手が入った歩きやすい道のありがたみを実感する。
さらに空には無数の竜
それらが涎を骨を無差別に落としてくるのだ。
直撃したら言うに及ばず、たとえ離れたところに落ちてもその跳ね返った液体や礫はあたし達を容易に傷つける。
自然、歩みは遅くなる。
どうしたって迂回につぐ迂回で時間はたてども近づく事は出来なかった。
いつの間にか太陽は空高く登りあたし達を照らしていた。
こうやって街を彷徨い歩いている間、誰にも出会わなかった。
あたしを助けてくれた騎士様は無事だろうか。
嫌な予感がするがそれを打ち払う。
きっとどこかで生きてらっしゃる。
そして、誰かを助けていらっしゃるに違いない。
だから誰もいないのだ。
決して…!
後半は思うことすら己に禁じた。
皆無言だ。
近づいては遠のき近づいては遠のきを繰り返す。
時に竜をやりすごす為、一時間以上同じ場所に足止めを食らったりもした。
そんな中、少しずつ、竜の姿がなくなっていくような気がした。
気のせいかもしれない、願望かもしれない。
でも、もしかしたら!
「エドワード様がお倒しになられているのかも!」
「流石英雄様!」
「はっ!」
皆の沸き立つ心を鼻で笑う幼子。
少しばかり弄っとくるのは仕方ない。
だけど、相手は子供だ。
目くじらをたててはいけない。
目の前でエドワード様が竜を打ち倒す様を見ればきっとエドワード様の凄さがわかるに違いないのだから。
あたし達はお互い顔を見合わせて小さく頷くと、足に力をいれて前に進みだした。
しかし、その時。
ーーーーー!
耳が壊れる程の轟音が鳴り響きお城の一部が吹き飛んだ!
皆足を止めてそちらを見やる。
何が起こった?
「竜の吐息じゃな。」
淡々と少女が言う。
「あ、あれが?」
「間違いなかろう。」
「あ、あんなの直撃したら…!」
「即死じゃな。直撃せずとも我々なら余波で軽く死ねる。」
まるで他人事のように少女は言う。
「そんな!」
「城に行っても助からないのか!?」
「そうじゃな…」
言って彼女は空を見上げる。
釣られてあたしも空を見る。
あいも変わらず竜が我が物顔でのさばっていた。
「減ったな。」
「え?」
この子もそう思った?
「城に集結している。」
「え!?」
見れば城の上空程竜は多くいた。
「エドワード様を狙い殺す気か!?」
「そこまで賢くはなかろう。」
即座に否定する。
「愚かな動く死体が城に集結するのかわからない以上、下手に近づいてはこちらが危険かもしれぬ。」
「じゃあどうする!?」
「さてのぅ…」
少女が眉を寄せて考えこんでしまった。
皆が少女の答えを待つ為彼女に集中した。
本当に愚かだと思う。
空に竜がいるというのに。
そしてたった今少女が忠告したばかりだったじゃないか。
竜の吐息を喰らえば即死。
余波でも軽く死ねるって。
誰が一番最初に気づいたのか。
いうまでもなく、少女だった。
彼女の目が空のある一点で止まりみるみる大きく見開いた。
「逃げよ!」
え?
と、思う間もなかった。
既に死の宣告たる光が目の前に迫っていたのだから。




