脱出
酷い揺れが絶え間なくあたし達を襲った。
立つ事もままならず、あたし達はその場にヘタリ込む。
「う、うわぁ…!」
「ひいっ!」
「エドワード様!」
「神よ!」
おじさんもあたしも他の人も皆口々に悲鳴をあげ、助けを乞い、神に祈る。
ただ一人ふてぶてしく上を見る黒髪の女の子。
顔は憎々しげだ。
「…っち!さてはあの腐った竜が暴れ始めたな!」
「あ…暴れ…!?」
「とにかくここから出ない事には生き埋めは必至!」
「でも、出口もわかんないし、動けないよ!」
「っち!万事休すという奴か!」
あたし達にできることなんて何もない!
このまま誰かが来てくれるのを待つしか…!
だけど一体誰が来てくれるというのか?
騎士様?
ううん、外が大変な時にここになんて来れるわけない。
もしかしたらあたし達を助けてくれた騎士様は竜にやられて死んでしまったかもしれないのだ。
「助けてくれるあてがないのならば、自力でなんとかするしかあるまい!」
言ってこの小さな女の子が残った手で出口を塞ぐ瓦礫を取り除こうと石を取り捨てた。
取り除いた石は小さくそれをどかしたからと言って何が変わるものではない。
しかし、彼女は次々に小さな石を持っては捨て持って捨てを繰り返した。
あたしはそれを見て無駄な事だと思った。
「やめなよ!この大量の瓦礫がわからない!?
貴女じゃどかせられないよ!」
「では聞くが出口がわからぬ、助けも来ぬこの状況でどうやって生きるのじゃ?」
「それは…」
「ああ、貴様はもう死んだのじゃな。」
「え?」
「この状況下、生きる努力の放棄は死と同義。
つまり、お主はもう死んだのじゃ。」
「い、生きてる!生きてるよ!!」
「では何故生きようと足掻かぬ?」
女の子は手を止めあたしに…ううんあたし達に問いかける。
「だって無駄だし…」
「無駄?誰が決めた?神か?お主神の声でも聞こえる巫女様かの?」
ぶんぶんと頭を横に降る。
「ならばそれは矮小な者が勝手に決めた戯言に過ぎぬ。」
はっとした。
あたしは勝手に助からないって思ってた。
勝手にここからは出られないと思っていた。
でも違う?
努力を放棄しただけ?
「足掻け。足掻けば光明が見える事もある。」
「みえなかったら…!?」
「死ぬだけじゃ。だが何もせず死ぬのと足掻いて死ぬのとでは意味が違う。」
「!」
息を飲んだ。
「それにのう、まだ死ぬわけにはいかぬ。
貴様らはどうかは知らぬがまだ為すべき事がある故の。」
言って彼女は作業を再開する。
今度はあたしも手伝った。
両手が使えるぶんあたしのほうが大きな石をどかせた。
あたしだけじゃない。
他の人も手伝い始めた。
大人が加わり協力すれば大きな瓦礫を持ち上げることができた。
「俺は象人だ!これくらい任せろ!」
長い象の鼻を使い大きな瓦礫を除いてくれる力持ちもいた。
「穴熊人を忘れては困りまする!」
小さな体を潜らせて必死に人が通れるだけの穴をこじ開けようとする人もいた。
皆が必死で黙々と作業する。
時に少女が瓦礫置き場や休憩の指示を飛ばしてくれた。
それが驚くほど的確で皆感心する。
流石は黒獅子様の娘様だと。
その威武堂々たるお姿は例え体半分失ったとしても神々しいものがあった。
時にせっかく掘った穴が揺れでふさがったりもした。
瓦礫が崩れてきて生き埋めになるアクシデントもあった。
酷い揺れで作業中断を余儀なくされた事もあった。
だけど、その度にあたし達はどうするか考えて行動し、生きるために足掻いた。
そして、その足掻きは無駄にはならなかった。
「通った!通ったぞ!」
穴熊人が声を張り上げた!
わあっと歓声があがる。
穴熊人が掘った穴が遂に外に繋がったのだ!
「よし、ならば順次外に出るのじゃ!
女、子供、年寄りを筆頭に!」
「では、娘様からお先へ!」
「ならぬ!まずは貴様らからじゃ。」
「いけません!貴女様は尊いお方!
真っ先に命を繋ぎこの国の再興に尽力を尽くされるお方です!」
「猫人よ!娘様と共に外にでろ!」
犬人のおじさんが叫んだ。
あたしは頷き娘様を抱えて身を小さくして穴を進む。
「こら!待て!待つのじゃ!!」
娘様は暴れていらっしゃるが、体半分がないし、まだ幼女のお身体。
たいしたことはなく、あたしはそれを抑え込み先へ先へと進んでいく。
そして、眩しい光を見た。
目が眩み三日月型に瞳孔が変化する。
それでも先に進む。
早く出ないと後ろがつっかえるから。
あたしはひたすら前に進み、遂に穴の外に爪が引っかかった。
身をぐっと伸ばして穴から這い出る。
外に出れた!
その喜びは一瞬で失われた。
そこにあるべきものが何もなかったからだ。
建物は?
木々は?
あそこにあった神殿は?
道も壁も何もない。
ただ空を無数にかける竜だけが在った。
呆然と惚けてる暇も時間も与えてはくれない。
後ろにまだ人がいるのだ、どかなくてはならない。
泥のように重たい足を引きずりあたしは前に進む。
数歩歩いてあたしはへたり込んだ。
腕の中の少女をいささか強く落としてしまったが気にする余裕もない。
「これは!?」
「なんと!」
「神よ!?」
後ろからあたしと同じく穴から這い出できた皆がやはりあたしは同じく絶望を口にする。
あたしは後ろをノロノロと見た。
…まだ、全員はいない。
あと…犬のおじさんだけ…。
でも、すぐに出てくるのは予想できた。
何故なら手が見えていたから。
その手に力を込めて穴から顔が出てきた。
後は引き上げるだけ。
誰かが手を伸ばした。
その時。
『きしゃゃゃゃ!』
竜の雄叫びを近くで聴いた。
空から垂直に竜が降りてきた!
堕ちてきたのではなく、己の意思で竜は爪をこちらにむけて。
その爪はそのままいけば…
「おじさん!」
あたしは叫んだ。
その直後、あたし達が這い出てきた穴ぐらに竜の爪がささり何もかもが崩れた。
おじさん!と叫ぶことすらあたしにはできなかった。
地面に突き立てられた爪の衝撃は重く凄まじい音と礫を呼び起こし あたし達に向かってきたからだ。
あたしは無意識で落としてしまった少女に覆いかぶさりその礫を背中で受ける。
「ーーー!」
激痛がはしった。
竜にとってこれは単なる遊びだったのだろう、結果を見届けるとあっさりとまた空へと戻っていった。
「おい!無事か!?」
左手であたしの肩を叩く少女。
右目右耳右手をもがれてなお顔色ひとつ変えない少女の顔色が初めて青くなっていた。
「だ、大丈夫…!」
「明日じゃ。」
「はい?」
「明日この借りは返す。」
え?
何言ってるの?
借りを返す?
どうやって?
なんで明日?
頭に疑問符がいくつも浮かぶ。
が、周りにこだまするうめき声に我にかえる。
「が、今は口惜しいが無理故、安全な場所を求めよう。」
「安全な場所…?」
少女は残った左手をすっとあげ指をさした。
「王城。そこにいるのじゃろ?英雄とやらが。
ならば守ってもらえばよいじゃろ。」




