レイナード
あり得ない程の殺気を感じて飛び起きた。
俺を取り囲むようにして眠る女達。
その痴態を見て興奮する余裕がない程、外から漏れてくる殺気に俺は上着を羽織り剣をとった。
そして窓の外を見る。
朝日が眩しい。
何かが見えた訳じゃない。
だけど、確実に何かがいる。
「…エドワード?」
いない。
隣で共に寝ていたはずなのに。
何かがあった。
ぶるり。
俺の体が震えた。
凄まじく嫌な予感がする。
それに、何か忘れている気もする。
「とにかく、ジェシー達の所へ行くか!」
俺はまだ薄暗い廊下を通りジェシー達の元へと急ぐ。
どうせ客室にいるんだろう、俺は前に泊まった事があるから大体の場所はわかるし、近づけば気配でわかる。
予想通りジェシー達は客室にいたようで、まずは手近なドアをノックもせずに開けた。
すぐ目の前にジェシー。
うぉ!?
なんでこいつ突っ立ってんだ!?
俺の顔を見た瞬間花が咲くような笑顔で微笑む。
一瞬、目が眩んだ。
「ファリスさあーーーーーん!」
そして俺に抱きついてくる!
「こら!何しやがる!離れろ!」
俺は男と抱き合う趣味はねぇ!
「だって勝手に一人で行っちゃうから!」
「いや、あれは仕方がなかった。」
ジェシーを引き剥がしてきっぱりと言う。
俺好みの女の子と後宮でしっぽりしようなんて誘い断れる訳がない。
「でも…」
「そんなことより!剣を持て!」
「え?」
「外に何かいる!」
「!」
途端情けない顔がきりっとした男前になる。
うわ、男前爆ぜろ。
「シャル達は隣とかか?」
「そうっす!」
「起こすぞ!」
「はい!」
俺達は二手に分かれて二人を起こした。
そして部屋の外で四人かち合う。
「レオナルド達はどこにいるんだ?」
「レオナルドさんはここが自宅だから自室があるってことでそちらに…」
「ケイフォルさんもレオナルドさんにくっついて行ったよ!」
ジェシーとシャルが交互に伝えてくる。
さすがにこの国の王子様の自室の場所までは知らない。
ならとりあえずこの面子で外に行くか。
そう判断した瞬間、王城が大きく揺れた!
まるで地震のようだ。
「な、なんだ!?」
アッサムが慌てて言う。
「外!」
シャルが窓を見て叫んだ。
シャルに合わせて窓を見れば…
「竜!?」
俺は声をあげた。
空を覆い尽くすような大量の竜がいた。
彼らが羽ばたくと舞い上がる風が爆風となり王城を…いや、街を揺らしたのだ。
「……魔族侵攻?」
シャルがポツリと言う。
「確かに似ている」
アッサムが言う。
「なんでそんなことが!?」
ジェシーの悲鳴じみた声が響く。
「しらねぇよ!ここにいたらやばい!」
俺達は頷くと外へと走りだした。
間違いなく王城は竜の羽ばたきに長くは耐えられない。
うかうかしてたら生き埋めだ。
足早に外に出た俺達は絶句した。
確かに先程まであった街…いや、国がなかったのだから。
あちらこちらから火の手があがり黒煙が空に登る。
お返しと言わんばかりに空からは液体と白い物体が堕ちていきそれが国を破壊し尽くす。
全ては竜が落としているのだ。
「ひっ!?」
その惨劇にシャルは恐怖の声をあげる。
ちっぽけな人間になにかができるはずもなく、ただ彼らが去るのを伏せて待つしかできない状況。
圧倒的強者と弱者がそこには存在していた。
「これも…魔王の側近とやらの仕業….か?」
汗をかきつつアッサムが言うが答える術を俺は持ってない。
俺はただ呆然と竜の大群を下から見ることしかできなかった。
ここも安全とは言い難い。
いつ、何がくるかわからないのだから。
どこに避難すべきか逡巡して…とある竜に目がいく。
誰かが乗っている。
誰が乗っているのかは距離がありすぎてわからない。
どこにいても危険ならどこにいっても同じこと。
俺は誰かが乗ってる竜の元に走りだした。
「ふ、ファリスさん!?」
ジェシーが俺の名前を呼びついてくる。
「あぶねぇぞ!?」
「関係ないっす!」
即答してくる。
本当犬気質だ。
「…あ、あ、ああ!?」
俺は竜に近づき悟った。
あれが誰かを。
「誰かが竜に乗ってる?」
シャルが目を細めて指を指す。
それにあわせて二人も見る。
だが俺は口元を押さえてそちらを見ない。
「ファリスさん?」
ジェシーが声をかけてくるが、右から左に抜けていく。
あり得ない。
あいつは確かに死んだ。
エドワードが心臓を潰して殺したのだ。
まさに死闘を演じた。
俺はよく覚えている。
「あ!あそこにいるのってエドワードじゃない!?」
俺は慌てて視線を動かした。
その先には確かにエドワードがいた。
彼もまた驚いているのだろうか。
不意に奴が手をあげた。
窓のようなものが浮かび上がり他国を映し出す。
全ての国がここと同じように蹂躙されていた。
「せ、世界を滅ぼすつもり…か?」
アッサムが声を漏らした。
大げさでもなんでもない、今、世界は壊されている。
どこにも逃げ場はない。
「あ!」
ジェシーが叫んだ。
奴が動いてエドワードの目の前に行くとエドワードを黒い靄で包んだのだ。
魔法?
魔法はエドワードには効きづらい。
それを知らない奴じゃないのに!
しかし、そんな事は些細な事と知る。
黒い靄はエドワードを包み込むと小さく縮み球体となる。
そしてひとつの宝珠と姿を変えた。
獣人であるエドワードを捉えるほどの力がある宝珠だって!?
それは莫大な魔力を有した特別性のマジックアイテムだと言う事。
窓が国で人間の国を除きあの時殺した奴らがかつての仲間を捉えていく様を映していく。
「あ、ああ…」
「ファリスさん!?」
今にも膝から崩れ落ちそうな俺をジェシーが支える。
女と裸で抱き合うよりも強く人の温もりを感じた。
その温もりが俺に力を与えてくれる。
「勝手に人のもんに手ぇ出してんじゃねぇよ。」
俺は言うが早いか手の中に炎を生み出した。
一撃必殺を狙う為その一本に力をふんだんに込める。
これに当たれば魔王だって無傷じゃすまない自信がある。
俺は炎を槍の形に変え…投擲した!
炎はまっすぐとび狙い通り奴の額を貫く。
「お見事!」
ジェシーが拍手する。
しかし、それはまだ早かった。
奴はぐるりと首だけをこちらに向けた。
あり得ない首の向き加減に顔がひきつる。
紺碧の瞳と目があった。
相手は一瞬惚けた顔をした。
頭の中で出会った事がある人間と照らし合わせて、あり得ない人間にヒットして衝撃を得た、まさにそんな感じだ。
しかし、状況を飲み込むに連れてその顔は変化する。
妖しくも美しい狂気の笑み。
それを俺に…俺だけに向けた。
「ひっ!?」
シャルが顔を真っ青にして一歩引く。
ふらつく小さな体をアッサムが支えた。
カチカチと不可思議な音が隣からしたので見てみればジェシーの歯が恐怖で撃ち鳴る音だった。
「あは…あははははは!」
狂気の嗤い声が鳴り響く。
「まさか!まさか!!このような獣臭い街で貴方にお会い出来るとは!!
なんたる僥倖!!
ああ、ですが口惜しや、貴方を捉える事も殺す事も私の小さな力では無理な話…!」
笑顔とも泣き顔ともつかぬ顔で奴は言う。
「でも、いいのです!!我らが敬愛なる陛下の復活への供物は此奴らだけで十分!
お前は!!憎きお前は!!」
びしっと長く尖った爪が生えた指を俺に突きつけた!
「お前は復活した陛下に最初に殺される名誉ある羊であれ!」
「悪いがこっちは死ぬ気もあいつに復活する気もないぜ!
炎の矢!」
俺は複数本の炎の矢を放つ。
それは見事に皆命中するが髪一筋とて傷ついた様子はない。
前はこんなことなかった。
攻撃を喰らえばそれに見合うだけのダメージをちゃんと受けていた。
なのに、今回はそれがない。
一体なんなのだ?
気味の悪さに背中がぞわっとする。
「口だけは達者ですねぇ!!!
まあ、どうでもいいのですよ!陛下が再び私の前にその神々しいお姿を現してくだされば!」
ばさりと奴が乗った竜が羽ばたき高く高く舞い上がる!
「こら!待て!!どこへいく!?」
「どこ?私の還るべき場所など一つでしょうに!
仲間を…可愛いペットを返して欲しければいつでもいらっしゃい!
お会い出来るその日を楽しみにしておりますよ!」
言うが早いか空に大きな魔法陣が浮かび上がる。
そしてその中に飛び込んだ!
飛び込むと同時に奴の姿は消え、無数の竜だけが残る。
「おい…!」
『あははは!これはかつてのお礼です!
どうぞ、遠慮なくお受け取りくださいまし!』
奴の声が高笑いとともに響く。
お礼?
…この竜が?
そう思った直後指揮命令を下すものがいなくなった竜がばらけ出し国中で暴れ始めたのだった…!




