さあ!旅立つぞ!
「これがお約束のタグです。」
「お、おう。」
ウォーレンが俺にきらりと輝くタグを渡してくれた。
この部屋は実に静かである。
俺も三馬鹿どもも必要以上に口を開かない。
ケイフォルは元々口数の多い方ではないが、今は必要以上に口を閉ざしている。
原因は…
俺はちらりと視線を二人に向けた。
少し後ろで隣同士で座っているのにお互いそっぽを向いている。
言わずもがな、レオナルドとエマだ。
…お前ら、昨日まであんなにラブラブだったじゃねーか。
俺らはこっそりため息をついた。
「なんだよ、俺は悪くないぞ。」
「私だって!」
「なんだと!?」
「なによ!?」
二人顔を合わせて牙を剥き互いを威嚇する。
本当に君達運命の番なの?
獣のガチ喧嘩はマジで怖いのでやめてほしい。
「…連れていけばいいじゃん。」
シャルがポツリと言葉を零したのを耳ざとく聞いた二人は即こちらに顔を向ける。
「ほら!こう言ってるじゃない!」
「Cランクが言ってる事を間に受けるな!」
エマとレオナルドが互いに叫び合う。
「シャル余計なこと言うな。」
「ごめん」
シャルが手を合わせて謝ってきた。
…しかし本当どうするのか。
俺は考える。
なんのことはない話なのだ。
俺達にエマはついていきたい。
しかし、レオナルドがそれを許さない。
エマは自分の力に自信がある。
口だけじゃないのはダンジョンで判明した。
対してレオナルド。
一度獣人の国を経由して行くのは魔界だ。
耳を失った番を連れて行きたくないのだ。
獣人は人間より丈夫だ。
人間なら死んじまうような攻撃を受けても耐えきる程に。
しかし、何より人間に優れているのがその本性の一部が生み出すスキルだ。
ケイフォルが翼を使って飛べるように、エマは耳を使って遠くの敵の位置を発見する事が出来るのだが、耳を切られたエマにそれは出来ない。
兎が本性とは思えない程の怪力を持つとはいえ魔界のような危険な場所など連れて行けるかというのがレオナルドの言い分だ。
「だから!耳はないけど足は問題ないんだから!
役に立つって!」
「それだけじゃ足りないんだよ!」
「なんですって!兎だからって舐めんな!」
「舐めてねぇよ!万一の事を考えてんだ!」
レオナルドが唾を飛ばしながら叫んでいる。
こちらもまさか行き先が魔界とは言えない。
言ったら芋づる式で魔王復活の話をしなくてはならないから。
と、いうか言ったら今以上について来ると言い張り最悪後ろからこっそりついて来るだろう。
「まあ、それだけじゃないんですけどね…」
小さくケイフォルが言うがそれだけじゃないって?
「大体!獣人の国には帰らないって言った側から次の行き先が獣人の国ってどーいうことよ!」
「帰るんじゃねえ!寄るんだよ!」
「なんで寄るのよ!なにしに行くのよ!」
「ちょっと忘れもんを取りに行くんだ!」
「なにそれ!信じられない!」
まあ、嘘だからな…。
「どうするっすか?」
こそっとジェシーが聞いて来る。
「どうするって…」
ラチがあかないのは事実。
無理矢理置いていってもついて来るケイの女だ。
ここで納得して貰わないとダメだ。
力づくで命令したって聞くような子じゃない。
だが、レオナルドに優しく言い聞かすなんて出来ないだろう。
エマはレオナルドを守りたい。
そこはレオナルドも同じ。
エマはついていって守りたい、レオナルドは置いて行くことで守りたい。
あちらを立てればこちらが立たずだ。
間を取る方法は…。
「何か役目でも与えればいいのかもな。」
アッサムが言う。
「役目?」
「レオナルドの役に立っているという実感を与えれば彼女の矛先も収まるだろう。」
確かに。
置いていかれるイコール役立たずの烙印って感じるのかもしれない。
「でもさ、役目なんてそう簡単にないよね。」
「まあな。」
シャルの言葉にアッサムは頷く。
そう、役目なんて…。
はっ!
俺の脳裏にある考えが生まれる。
あったよ、絶対に解決しない問題が。
「なあ!」
俺が二人に声をかける。
『ああん!?』
ヤクザも裸足で逃げてく声と睨みが返ってきて一歩引く。
「いや、エマを連れていくのは難しいけどさ、代わりに俺を助けてくれないか?」
「は?」
「なに?何かあるの!?」
レオナルドが不機嫌そうに俺を見てエマは笑顔で聞いて来る。
よし、かかった!
「実は俺、呪われているんだ。」
「おい!」
慌ててレオナルドが立ち上がる。
「呪い?」
「ああ、これだ。」
俺はスマなんとかを取り出してエマに見せる。
「なにこれ?」
「呪いのアイテム。」
「触っても?」
「俺以外は呪われない仕組みだから問題ない。」
エマはそっとスマなんとかを持つ。
レオナルドが横で恐々している。
「軽い…箱?これ持ってるとどうなるの?」
「特定の時間、行動を制限してくる。」
夜8時になると強制会話。
うん、間違ってない。
「結構面倒な呪いね。」
「だろ?だが、この呪いを解く方法が全くわからない。」
「Aランク冒険者でも…!?」
「ああ、俺達はこの呪いを解く旅をしているのだが…」
「そ、そうなの!?」
嘘です。
だが俺は神妙に頷く。
「俺達の目的地にその方法があるかもしれないから行くわけだが、かなり眉唾ものだ。
だから、エマには別の場所で情報を収集してほしい。」
「!」
俺の言葉にはっとするエマ。
ケイフォルがその手があったかという顔をしている。
三馬鹿?
いうまでもないだろう。
「成る程!別ルートでの情報収集は基本よね!」
「おい!俺はここにいて安全に…」
「レオナルド。」
俺はポンと手を肩に置く。
そしてこっそりと耳打ち。
「お前あれを説得出来るのか?」
「う!」
「無理だろ?ならまだ安全な人間の国にいてくれた方がいい。」
「た、確かに」
「人間の国ならエマはハンデがあってもなお強い部類に入る。
魔界に連れてくのと人間の国を適当に徘徊させるのどっちがマシかという話だ。」
暫くの間レオナルドは考えて…
「エマ………頼めるか………?」
その一言に。
エマは花が綻ぶような可憐な笑顔を向ける。
レオナルドがくらっとした。
「任せて!」
「お、おう、でもその顔は他所でやらないようにな…?」
「その顔?」
「……わからないならいい……」
「はあ、エマはやはり生粋の冒険者なんですね…」
ため息まじりにウォーレンが言う。
「可愛い妹には安全にギルドの奥にしまっておきたかったのですが…」
それは無理だろ。
このじゃじゃ馬が大人しくなんてしない。
よくぞ半年もったもんだ。
「仕方ありません、エマの冒険者復帰を認めます。」
「やったぁぁぁ!」
「た、だ、し!!Cランクですよ!」
「えー」
「えーじゃありません!危険な依頼を受けさせるわけにはいきません!
貴女の役目はあくまで情報収集なのですから!」
「うう…わかったわよ!」
エマは渋々ながら頷く。
こいつCランクになったら昇格試験を受けて自力でAランク冒険者になる気だ。
目が諦めてない。
まあ、それはしったことじゃない。
「じゃあ、問題は解決だな。」
俺は頷く。
絶対解決しないから俺達が魔界から帰ってくるまで静かだろう。
「レオ!私頑張る!」
「エマ、気をつけろよ?」
優しくエマの頭を撫でるレオナルド。
そっとその胸に顔を埋めるエマ。
「なあ、室温があがったんじゃね!?」
「いちゃつくなら他所で。」
「ったく。私を差し置いてちゃっかり番を見つけて…」
俺達はぶちぶちと文句を言うが二人はどこ吹く風でハートを辺りに飛ばしまくる。
あー。はっ倒してぇ。
「さて、獣人の国に行かれるという話でしたね。」
「ああ。」
俺は二人から目を離してウォーレンを見る。
ここから国境都市までひと月かかる。
そんなにゆっくり旅をしているわけにはいかない。
「なあ、ウォーレン…!」
おねだりポーズの俺にわかっていると頷くウォーレン。
「勿論、転送装置の使用を許可します。」
「やったぁぁぁ!」
俺はガッツポーズをする。
転送装置とは主要都市、王都、地方都市を結ぶ魔法装置だ。
この装置がある街のみ一瞬で行き来が出来る。
しかし、莫大な魔力が必要になる為使用許可が降りてから一週間は足止めが常。
しかし!
「ファリスさんなら問題なくすぐに転送できます。」
無駄な魔力がここで役に立つってもんだ。
俺達が行きたい国境都市も転送装置設置都市なのですぐにでも行ける。
やったね!面倒な旅をしなくてすむ!
それはつまり厄介事に巻き込まれる可能性がぐっと下がることを意味するのだ!
「え!?そ、そんなすぐに…!?」
「問題ないだろ?」
俺の言葉にレオナルドとケイフォルは顔を見合わせる。
「なんだよ、何かあるのか?」
「いや…」
「特に問題は…」
二人は妙に歯切れが悪いがまあ、いいや。
「じゃ、早速行こう!」
俺達は転送装置の前に来た。
転送装置は教会にある。
転送そのものが未だ解明されていない古代文明の名残なので『神の奇跡』と言われている為だ。
「レオ。気をつけてね。」
「ああ。お前も無茶するなよ?」
「わかってる…」
「さっさと行くぞ!」
俺はイラっときて装置に魔力を込める。
底なし沼かと思うほど魔力を装置は食っていく。
一人転送するだけでもかなりのものだが、なにせ6人だ。
過去最大人数の転送になる。
しかし、悲しいかな、魔力に問題はなかった。
「やはり、貴方の魔力は規格外ですね。
6人まとめての転送に必要な魔力がこんな一瞬で溜まるなんて。」
「はっ!褒めても何もでねぇぞ?」
俺は鼻で笑う。
「ほら!お前らも装置に乗れ。いくぞ!」
「うん!」
「僕転送なんて初めて!」
「俺もだ。」
「私達は果たして飛べるのでしょうか。」
「それも含めての魔力をファリスさんは込めましたから問題ありませんよ。」
「へえ。やるな。」
ウォーレンの言葉にニヤリと笑う。
「ほら、飛ぶぞ!」
俺は皆に呼びかける。
「じゃあ、ウォーレン!世話になったな!」
「こちらこそ!」
ウォーレンは微笑み片手をあげる。
俺はそれに応えるように片手をあげて転送装置を動かした。




