こっそり覗いてました
「もしもし…ぐふっ」
「もしもし…?どうした勇者。気持ち悪い声を出して」
「気持ち悪いとは失礼な。」
俺はスマなんとかで魔王と会話をしていた。
ギルマスの首根っこひっつかんで外に出るとすぐに裏手に回って窓から奴らを観察していたのだ。
「いや、今一緒に旅してる奴に春が来たのよ!」
「春?季節 ?」
「ん?意味がわからないか?恋人が出来たんだよ。」
「ほう!めでたいの!」
魔王も嬉しそうに言う。
「旅を共にしているという事はあの時のパーティメンバーの誰かか?」
「いや、今は全く別人と旅をしている。」
「ほう。」
「今回恋人が出来た奴は獣人なんだ。」
「と、いう事は運命の番か。」
「知ってるのか。」
「まあな。」
さすが魔王、無駄に物知りだ。
「俺は知らなかったぞ。」
「勇者パーティに獣人がおったのにか。」
「そいつめっちゃ女好きで番なにそれ美味しいの状態だったんだぜ?」
「ふむ?それはかなりのレアケースじゃな。
基本獣人は番以外とは閨を共にしない。
相手は獣人以外の種族じゃったかの?」
「あ!そういえばそうだった!全部人間だったわ!」
「また、面白い性癖じゃのぅ。」
魔王は何やら思考に耽る。
「性癖っていうほどか?」
「当然。運命の番を無視するほど人間の雌に拘るのは獣人として本来あるべき姿を歪ませる行為じゃ。
一体、かの獣人は何を考えおったのじゃろうな。」
そんな事言われても俺には皆目見当がつかない。
「まあ、二度と会う事のないからどうでもいいわ。」
「何故二度と会わないと?
かつて魔王という強敵を共に倒した仲間であろう?
会いたくはないのか?」
「ごめん被る。」
俺は吐き捨てるように言った。
あいつだけじゃない、あの時の仲間全員と俺は二度と会いたくない。
「ふむ、何か理由でも。」
「たいした話じゃないさ。」
「そうか、まあ、話したくないなら話さなくてもよい。
それより、ダンジョンはどうじゃった?」
「最高に儲かった!」
「それは何より。」
「ほら、お前が一度死んだ魔物も一定時間で復活するって言ったろ?」
「ああ、言ったな。」
「だから魔物が金を落とさなくなるまで何周もしやった!」
「……それ、金蔵から金が消えたんじゃ…?」
「魔族の金蔵が空になっても俺には関係ない話だ。
そして金を出さなくなったら成人したてのガキ魔族に用はないから殺して終わりだ。
一日かからず解決したな!」
「……鬼畜……」
「なんか言ったか?」
「いや、何も。」
魔王がすぐに否定する。
「なんと言うか、この風習二度と人間の国ではやらないかものぅ。」
「なんでだよ。」
「成人式で破産とか魔族の身にもなってくれとわしは言いたい。」
知るか、もっと金をよこせ。
「双子は元気じゃったか?」
「おー、見た目は子供だったけどな。」
「そういう外見をとる事で相手の油断を誘っているのじゃよ。
あの子供らは特にそういう傾向が強かった。
人間受けのする外面じゃったろ?」
「俺は子供嫌いだから。」
「…お主に聞いたわしがバカじゃったわ。」
「そんなことより、魔王の側近で何かわかったか?」
「いや。何も進展はないの。お主は?」
「こっちもない。
魔界に行く前準備として獣人の国に行くくらいだ。」
「獣人の国へ?人間の国経由では行けないのか?」
「王家に頼めば行けるだろうよ。
だけど、それをすると魔王復活傾向ありの情報が国に漏洩する。」
「ふむ。」
「なにより、今の仲間は俺が勇者と知らない。
このままただの冒険者として接していきたい。」
「なるほど。まあ、今すぐわしが復活するとは思えぬし、お主のペースでやればよいじゃろ。」
「当たり前だ。俺は俺のやりたいようにやる。」
「わしもじゃ。わしは楽しい事しかやりとうない。」
しばし無言が支配する。
「ま、また明日この時間に。」
「ああ。」
互いに別れの言葉を告げ通話を終わらせたのだった。