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勇者と魔王はお友達!  作者: さやか
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羊か否か

「ふえっ!?」

「みーちゃん!?なんか怖いよ!?」

二つの影は互いを抱きしめあってふるふる震えていた。

二つの影は俺にとって衝撃を与えるものだった。

二人とも白いワンピースに金色でクリクリの髪をしていた。

だが、問題はそこではない。

側頭部から生えているツノに俺は…いや、俺とケイは釘付けだ。

どう見ても羊のツノである。

羊のツノをつけた幼児。

それが二つの影の正体だった。

「おい…これ、本当に魔族か?」

「羊人族の子供にしか見えません。」

やはりケイもそう思ったか。

「羊人族?」

ジェシーが疑問形で聞いてくる。

「魔族侵攻の際、滅んだ獣人族のひとつだ。」

魔族侵攻の煽りで滅んだ獣人族は二つある。

そのひとつが羊人族だ。

草食動物を本性に持つ一族は軒並み絶滅手前までやられたが、元々見目麗しいこの二種は完全に絶滅した。

しかし…。

「生き残り…ですね。」

「え?魔族でしょ?」

シャルが言うが、いや、あれは羊人族だ!

「もしそうだとしたら…まずいのでは?」

アッサムが言う。

その方向を見れば…!

ファリスが羊人族の子供に攻撃魔法を叩き込む直前だった!

獣人に魔法は効きにくいが、効きにくいだけで無効化できるわけじゃない。

ましてや、相手は子供だ!

俺は反射的にバトルアックスをファリスに投げつけた!

「!?」

ファリスは死角から放たれたはずのバトルアックスを驚きつつも余裕で躱す。

ムカつく!

「あんた…!」

受付嬢が何か言おうとするが、無視だ!無視!!

「おい!何しやがる!」

「そいつは羊人族だ!魔族じゃねぇ!」

「は?」

「おそらく見た目の良さで魔族に攫われここで我々の足止めを命じられたのでしょう!」

ケイも叫ぶ。

獣人は同族愛に溢れている。

番いという独特の本能からも察することができるだろう。

故に、俺達はその幼児を保護したくて仕方がない。

本能が同族を助けろと囁くのだ。

たとえ、ファリスを相手取ろうとも。

「お前バカか?こいつらは…」

羊人族からファリスの意識が完全に逸れた。

俺達の本気を感じ取ったのだろう。

俺は投げたバトルアックスが舞い戻ると同時に構え、ケイも弓を引き撃つ寸前まで蔓を伸ばす。

しかし、俺達は見誤った事を寸前で理解した。

「ファリス!」

受付嬢が叫んだ声かはたまたジェシーだったか。

俺は理解出来なかった。

理解する余裕もなかった。

抱き合う二つの影の死角で見えない腕が互いから身を離した瞬間見えた。

位置的に腕と称したが、それは腕ではなかった。

二つの影は離れたがある一定の距離以上には離れない。

離れる事がその腕のせいで出来ないからだ。

互いの片腕が溶け合って融合し、ドリルのような姿をしていた。

そのドリルがファリスの胸を穿った。

「かはっ…!」

背後からかつ、至近距離である不可避の一撃をそれでも身を捩り即死を避けたのはさすがの一言だが、そんな事を思ったのは単なる現実逃避だ。

「俺が…俺が…!」

声をかけなければ、こうならなかった!

胸を襲うのは途方も無い後悔。

この二人は羊人族に酷似した立派な魔族だったのだ!

羊人族の腕は決してドリルなどではないし、何より平和と昼寝をこよなく愛する大人しい種族であり、人の胸を貫いてけたたましく嗤ったりはしない。

しかし、そんか俺の後悔を軽くする救世主の声が場を支配する。

高位治癒術(ハイヒール)!」

アッサムの声に呼応して銀色の霞がファリスを包み込みファリスの怪我を一瞬で治す。

治ると同時に魔族と距離を取り剣を引き抜く。

「レオナルド!魔族は人外の姿をしているのは知ってるだろ!?」

「あ、…ああ。」

知ってる。

だが、俺の知ってる魔族の姿はおどろおどろしい姿だ。

間違っても羊人族の姿ではない。

「魔族の姿は千差万別!人間に近い姿をするものもいれば獣人に近いものもいる!

見た目に惑わされるな!」

ファリスの叱責が飛ぶ。

「…っ!すまなかった!」

「アッサムのおかげで問題ない!」

本当に全く気にしてないかのような返答だ。

その答えが逆に俺の胸を抉る。

「この借りは必ず返す!」

俺はバトルアックスを構えなおした。

気を引き締めろ!

「人の古傷抉るのが得意とか、さすがは魔族ね!」

受付嬢が苦々しく言う。

古傷?

何かをこいつも抱えているのかもしれない。

「私もファリスがやられるまで獣人かと思ったわ!

多分、赤髪がやらなきゃ私がファリスを仕留めてた!」

…もしかして、こいつ俺を励ましてる?

思わず受付嬢を見つめてしまう。

その視線に気づいた受付嬢がふんと横を向く。

「か、勘違いしないでよね!?

ここで落ち込んで足手纏いになられちゃ困るのよ!」

言いながら、受付嬢はトンファーをしまい代わりに取り出したのは…

「モーニングスターって…!」

シャルが口元をひきつらせる。

だが全く意に返さず鎖部分を持ちぶんぶんとトゲトゲしい鉄球を振り回す!

鉄球は小さくない。

寧ろでかい。

屈めばシャルが中に入れるんじゃねぇかってくらいでかい。

それを容赦なく振り回す!

「やるわよ!」

「お、おう…」

思わず頷くが、俺、冒険者になって初めてモーニングスターを武器にしてる人みたわ。

ガチで見ると迫力しかない。

よく持てるな。あ、あれか補助魔法。

それで体を強化して持ってるのか。

どーみてもそれ、自身の体重よりあるよな。

ま、無駄に重い武器を持つのはお互いさまか。

「俺達も、やるぞ!」

ジェシーの声が聞こえる。

普段のおちゃらけた雰囲気はない。

寧ろ怒りに満ち溢れていた。

余程、ファリスをぶっ刺されて頭に来ているんだろう。

忠犬を怒らせると怖い。

「うん!」

「補助する。」

アッサムが二人に補助魔法をかける。

そのタイミングを見計らったかのように、魔族が動いた!

融合していた手が分離し、二本のドリルへと変わる。

そして左右に分かれて走り出した!

「みーちゃん!私、こっち!」

「くーちゃん!私はこっち!」

互いをみーちゃんくーちゃんと呼び合うふざけた魔族は俺達を分断させてくる。

俺達はその策に乗ることにした。

「なんだぁ!?俺達になら勝てると思ったか!?

クソ魔族!」

「我々を甘く見た事を後悔させましょう!」

「ギッタギタにしてやる!」

俺と受付嬢は同時に走りみーちゃんと呼ばれた方の魔族へと向かった。

「はっ!」

受付嬢が掛け声一発、跳躍してモーニングスターを振りかぶる。

鉄球は風をきり魔族を押しつぶそうと迫るが、魔族はひらりと避ける。

鉄球は轟音を立てて地面にぶつかり陥没させる。

だが、鉄球をどかすとその陥没は瞬時に直る。

「!?」

「魔族が生きてる限りダンジョンの破壊は不可能!壊してもすぐに直るの!」

「なるほど!つまり俺達思いっきり暴れて大丈夫って事だな!」

「その通りよ!」

「ケイ!手加減無用だ!出し惜しみ無しで行くぞ!」

「はい!」

言うとケイはアダマンタイト製の矢に加え小瓶を取り出した。

中身は紫の液体。

一滴で熊も殺せる致死性の高い猛毒だ。

その猛毒を矢に塗り弓にかける。

魔族といえども喰らえばただではすむまい!

猛毒の矢が連続して放たれる!

それを嗤いながら避け、こちらに差し迫ってくる!

だけど、ケイには近付くことは不可能と知れ。

この俺がいるのだからな。

俺はバトルアックスで撃ち据える!

魔族は俺の一撃を避けずに片腕で防ぐ!

その細い子供の腕で俺の一撃を防いだ!

ホーンベアすら一撃で肉片に変えるこの一撃を、だ!

「遅いし、よわーい!」

俺の一撃を防いだ事でできたがら空きの腹にドリルを突き刺そうとするが、横手に回ったケイの矢が魔族に迫りその回避の為、俺から魔族が離れた事で事なきを得る。

「助かった!」

「よかったです!」

「はあっ!」

モーニングスターの一撃が魔族に迫るが魔族はそれを避けた。

俺の一撃は防げるがモーニングスターは難しいと判断したのだろう。

あの一撃は俺の一撃より重いだろうからその選択は間違いではない。

しかし、今回に限りその選択は誤りだった。

モーニングスターはみーちゃんと呼ばれた魔族を狙ったものではなかったのだ。

「!?」

狙われたのはくーちゃんと呼ばれた魔族の方。

くーちゃんはファリスの剣を受け止めており、動けない状態だったが、鉄球が迫るのを察知するや否や大きく飛びずさる。

その動きについていけなかった魔族は鉄球の餌食となった!

「はっはーん!だぁれがあんたらの作戦に乗るかって話よ!

勝手に自分の相手はこいつらだって決めつけるから背後の一撃を避けられないのよ!」

跳躍した先、遥か頭上で受付嬢は高笑いをかます。

あっさり魔族の分断作戦に乗ってしまった己を恥じた。

分断されて戦力を削がれるのはわかっていたが、それは相手も同じとたかをくくっていたのだ。

だが、削がれてもなお、圧倒するスピードと丈夫さは俺の見通しの甘さを痛感させた。

「それ、もう一丁!」

落下しながら鎖を引き鉄球を引き寄せた。

…が、そこに魔族はいなかった。

「….え?」

ぞわりと背中に悪寒がはしった。

瞬間、俺は本能的にバトルアックスを空中に投げていた。

突如、何もない空間にくーちゃんと呼ばれた魔族が出現、受付嬢にドリルを叩き込もうとする!

しかし、俺の投げたバトルアックスがその間を縫うように飛んでいき魔族の必殺の一撃を防ぐ!

「…!」

「あっ!ざーんねん!」

魔族はつまらなさそうに言うと…消えた。

受付嬢は俺の隣に着地する。

「ありがとう!助かったわ!」

受付嬢はこちらを見ずに礼だけを言う。

通常ならこっち向けと言うところだが、視線は互いに何処かへと消えた魔族を探して彷徨っていたので何も言わない。

「こいつら、転移(テレポート)が出来る!

気をつけろ!」

転移(テレポート)

人間が道具を使い長い呪文を唱えて漸く事前に決めた地点へと移動することが出来るアレか!?

自分にはあまりに縁遠い存在なので見たことはなかった。

しかし、それを戦闘中に気軽に使ってくるとなると…!

「厄介ね!」

受付嬢はモーニングスターの鎖をジャラリと持ち上げながら言う。

そこにみーちゃんと呼ばれた方の魔族が消え、俺達の背後へと出現、ケイを狙う!

「ケイ!」

「!?」

反応が遅れ、ドリルでの一撃を食らってしまった!

「あはっ!まずは一人!」

「うぐっ…!」

高位治癒術(ハイヒール)!」

効きにくいのはわかってるだろう。

しかし、アッサムは胸を貫かれ膝をつくケイに治癒術を施した。

ファリスの時と違い完治には程遠いが、それでも立てる程度にはなった。

…戦えるかといえば答えはノーだが。

あくまで一命を取り留めたに過ぎない。

「た、助かりまし…っく!」

「やはり治りが悪い。無理するな。

傷薬はあるか?」

「ええ…」

弱々しく頷くとケイはアイテムボックスから傷薬を取り出した。

宝石が買えるほどの値段で取引されてる特注の薬だ。

高名なれど一箇所に留まらない薬師がこれまた気まぐれに街に薬を卸す時がある。

いつどこで卸されるかわからないが、効き目は抜群であり、魔法が込められていない薬ではこれが最高級品と言われている。

「…あ。」

シャルが声をあげてその薬を見た。

冒険者をやっていればこの薬は有名だ。

買えるかどうかは別として。

その薬を惜しげもなくケイは胸に塗りたくる。

魔法ではない故即効性はないが、塗るのと塗らないのでは大違いだ。

「あれー?元気になっちゃったねー。」

「うん、残念だなぁー」

みーちゃんくーちゃん二人の魔族は隣り合って囁き合う。

「お前らよくもケイを!ただじゃすまねぇからな!」

「あはっ!怒った!」

「もっと遊ぼう!」

言ってまた二人の魔族は分かれて走り出した。

二人とも笑顔で心底この状況を楽しんでいた。

舐めるのも大概にしろよ!?クソ魔族どもが!





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